第16話「さくらんぼの初収穫」
6月9日、日曜日の早朝。真琴は目覚まし時計が鳴る前に目を覚ました。窓の外はまだ薄暗い。
「今日はさくらんぼの初収穫だ」
そう思い出し、真琴は静かに起き上がった。昨日の清掃ボランティアの疲れが少し残っているが、それ以上に胸が高鳴る。
階下に降りると、両親と勇斗がすでに起きていた。
「おはよう、まこと。よく起きられたわね」
美里が優しく微笑みかける。
「うん、楽しみで」
真琴は少し照れくさそうに答えた。
家族そろって朝食を済ませると、さくらんぼ園に向かった。まだ朝露の残る畑に立つと、真琴は深呼吸をした。
「さあ、始めようか」
正治の声に、みんなが頷いた。
真琴は慎重に枝に手を伸ばす。真っ赤に熟したさくらんぼを優しく摘み取る。
「わあ、きれい……」
思わず声が漏れる。
収穫を進めていくうちに、隣の木の下で美咲が一人で作業しているのが目に入った。
「あれ? 美咲ちゃん!」
声をかけられた美咲は少し驚いたような表情をした。
「あ、工藤さん……おはよう」
「おはよう! 昨日のボランティア、疲れてない?」
美咲は小さく首を振った。
「大丈夫……これ、楽しいから」
真琴は嬉しそうに笑顔を見せた。
「そうだよね。私も楽しい! 一緒に頑張ろう」
二人で並んで作業を続ける中、美咲が静かに口を開いた。
「ねえ、工藤さん」
「うん?」
「昨日は……ありがとう。みんなと一緒に活動できて、楽しかった」
美咲の言葉に、真琴は心がほっこりとするのを感じた。
「こちらこそ! これからも一緒に色んなことしようね」
午前中いっぱい収穫を続け、真琴たちは汗だくになりながらも満足そうな表情を浮かべていた。
家に帰ると、美里が台所で作業を始めた。
「まこと、さくらんぼジャム作りを手伝ってくれる?」
「うん、いいよ!」
真琴は嬉しそうに台所に向かった。
鍋にさくらんぼと砂糖を入れ、ゆっくりとかき混ぜていく。甘い香りが台所中に広がる。
「ねえ、ママ」
「なあに?」
「私ね、こうやって地元の特産品を作るの、すごく楽しいなって思うんだ」
美里は優しく微笑んだ。
「そう、それはとても素敵なことよ。まことはこの町が好き?」
「うん、大好き! 自然も人も、全部」
真琴の言葉に、美里は嬉しそうに頷いた。
「そう。その気持ちを大切にしてね」
その夜、真琴は日記に今日のことを綴った。さくらんぼ狩りの喜び、美咲との会話、ジャム作りの楽しさ。すべてが、この町への愛着を深める経験だった。
窓の外では、さくらんぼの木々が静かに夜風に揺れていた。真琴の心も、その木々のように、しっかりとこの土地に根を下ろしていくのだろう。




