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さくらんぼの木の下で ―田舎の小さな街で暮らす少女・真琴の成長物語―  作者: 霧崎薫


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第13話「さくらんぼの実る頃」

 5月も終盤に差し掛かり、真琴の体にも少しずつ変化が訪れていた。鏡の前に立つと、胸のあたりが小学校の時より膨らみ始めているのが分かる。真琴は複雑な思いで自分の体を見つめた。


「どうしよう……」


 真琴は小さくつぶやいた。これまで何も気にせず家族と一緒にお風呂に入っていたが、最近になって少し恥ずかしさを感じるようになっていた。特に、パパや勇斗と一緒に入るのが心苦しくなってきていた。


 その日の夕方、真琴は勇気を出して美里に相談することにした。


「ママ、ちょっといい?」


 真琴が台所に立つ美里に声をかけた。


「どうしたの、まこと? 何か悩み事?」


 美里は手を止め、真琴の方を向いた。真琴の表情に何か心配事があることを察したようだ。


「えっと……」


 真琴は言葉を選びながら、ゆっくりと話し始めた。


「最近ね、お風呂のこと……ちょっと気になってて」


 美里は優しく微笑んだ。


「ああ、そういうことね。まことも、もう大きくなってきたものね」


 美里の言葉に、真琴は少し安心した様子で頷いた。


「うん……パパや勇斗と一緒に入るの、ちょっと恥ずかしくなってきちゃって」


 美里は真琴の頭を優しく撫でた。


「それは自然なことよ。まことの気持ち、よく分かるわ」


 美里は少し考え込むような表情をした後、提案した。


「じゃあ、これからはママと真琴の二人だけで入ることにしましょう。それでどう?」


 真琴は目を輝かせた。


「ほんと? そうしてもいいの?」


「もちろんよ。まことの気持ちが一番大切だもの」


 その晩、美里は正治に事情を説明した。正治は少し複雑な表情を浮かべながらも、理解を示した。


「そっか……まこともだんだん大人になってしまうんだな……パパは淋しいよ……」


「なに言ってるのよ、あなた、大げさよ」


 美里は正治の言葉に軽くため息をつきながらも、優しく微笑んだ。


「まことの気持ちを尊重してあげましょう」


 その日の入浴時間、真琴と美里は二人でゆっくりとお風呂に浸かった。湯気の立ち込める中、真琴は少しほっとした表情を浮かべていた。


「ねえ、ママ」


「なあに?」


「私、これからどんどん変わっていくのかな」


 真琴の言葉に、美里は優しく微笑んだ。



その日の入浴時間、真琴と美里は静かに温泉に入った。湯気がやわらかく立ち上り、湿った空気に包まれた空間が二人だけの特別な時間を作り出していた。湯船にゆっくりと浸かると、真琴はほっとしたように息をついた。


「どう? お湯加減は大丈夫?」


 美里が真琴を気遣うように尋ねた。


「うん、ちょうどいいよ。気持ちいい……」


 真琴は静かに答えた。


 湯船の中で膝を抱えるように座る真琴。少し恥ずかしさを感じながらも、心地よい温かさがその不安をゆっくりと解きほぐしていく。


 美里は真琴の表情をちらりと見て、優しく声をかけた。


「最近、色々と考えることが増えたんじゃない?」


 真琴は少し戸惑いながらも頷いた。


「うん……なんか、今まで何も気にしてなかったことが、急に気になり始めて……」


 美里は静かに真琴の言葉を待ち続けた。しばらくの沈黙の後、真琴は少しだけ勇気を出して話し始めた。


「お風呂のこともそうだし……体のことも、なんかすごい変わってきてるって感じがして……」


「そっか」


 美里は深く頷きながら、真琴に優しく寄り添うような言葉を紡いだ。


「でもそれはとても自然なことよ。まことももうすぐ中学生だもの。体も心も、どんどん大人に近づいていくのよ」


 真琴は湯の中で少し体を動かし、遠くを見るような目で呟いた。


「でも、ちょっと怖いんだよね……これからもっと変わっていくのかなって思うと……」


「怖くなること、たくさんあるよね。私もね、まことぐらいの時は同じような気持ちだったわ」


 美里は笑顔で真琴を見つめた。


「体の変化も、自分がどう変わっていくのかも、不安になることがたくさんある。でも、そんなときは、無理して一人で悩まなくていいのよ」


 真琴は少し驚いたように母親を見上げた。


「ママも、そうだったの?」


「うん、もちろん。どんな女の子でも、そういう時期はあるの。でも、それは特別なことでもあるのよ。自分が少しずつ成長して、大人になっていくっていう証だから」


 真琴はその言葉に少し安心したように微笑んだ。


「そっか……でも、どうやってその気持ちに慣れたの?」


 美里は湯船の縁に腕を乗せ、リラックスした様子で答えた。


「慣れるのには少し時間がかかるけど、何よりも大事なのは、自分の気持ちを素直に話すことよ。今日みたいに、ママに相談してくれて本当に嬉しかった。まことは一人じゃないから、いつでも話してね」


 真琴は湯の中で小さく頷いた。


「うん、ありがとう。ママと話すと、少し安心できる……」


 美里はその言葉を聞いて、真琴の髪をそっと撫でた。


「いつでもまことの味方よ。これから何があっても、パパも私もずっとそばにいるからね」


「うん……ありがとう、ママ」


 真琴は少し照れくさそうに、でも確かな安心感に包まれて微笑んだ。


 二人はその後しばらく無言でお湯に浸かり、静かな時間を共有した。外ではさくらんぼの木々が風に揺れ、夜の静けさが二人の心を包み込んでいた。s


 その夜、布団に入った真琴は久しぶりに心が軽くなったような気がした。窓の外では、さくらんぼの実がほんのりと赤みを帯び始めていた。真琴の心も、その実のようにゆっくりと、しかし確実に成長を続けていくのだろう。


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