第10話「五月雨に濡れる友情」
5月10日、朝から雨が降り続いていた。真琴は傘を手に、千鶴と一緒に学校へ向かっていた。
「ねえ、まこちゃん。今日の放課後、うちに来ない? お菓子作りを教えてあげるよ」
千鶴の提案に、真琴は目を輝かせた。
「いいの? やった! 楽しみ!」
二人は雨音に混じって楽しそうに話しながら歩いていく。
教室に入ると、美咲が一人で窓際に座っていた。真琴は少し気になって声をかけた。
「おはよう、美咲ちゃん」
「あ、おはよう……工藤さん」
美咲は小さな声で返事をした。真琴は美咲の様子がいつもと違うことに気づいた。
「どうしたの? なんだか元気ないみたいだけど」
美咲は少し躊躇してから口を開いた。
「実は……絵のコンクールに応募したんだけど、落選しちゃって……」
真琲は驚いた表情を浮かべた。
「え? 美咲ちゃん、絵を描いてたの?」
美咲は少し照れくさそうに頷いた。
「うん、趣味みたいなものだけど……」
真琴は美咲の横に座り、優しく声をかけた。
「私、美咲ちゃんの絵、見てみたいな。今度見せてくれない?」
美咲は驚いたように真琴を見つめた。
「え? でも、私の絵なんて……」
「きっと素敵だと思う! ねえ、お願い!」
真琴の熱心な様子に、美咲は少しずつ心を開いていく。
「わかった……今度、見せるね」
授業が始まり、真琴は窓の外の雨を見つめていた。雨粒が窓ガラスを伝う様子が、何だか美咲の繊細な心を表しているようで、不思議な気持ちになった。
昼休み、真琴は弁当を片手に美咲の席に向かった。
「美咲ちゃん、一緒にお弁当食べよう!」
美咲は少し戸惑ったが、嬉しそうに頷いた。
「う、うん……ありがとう」
二人で弁当を広げていると、千鶴も加わった。
「私も一緒にいい?」
「もちろん!」
和やかな雰囲気の中、三人は楽しく会話を始めた。美咲は少しずつ打ち解けていき、時折小さな笑顔を見せるようになった。
放課後、真琴と千鶴は約束通り千鶴の家に向かった。雨はまだ降り続いていたが、二人の心は晴れやかだった。
「ただいま」
千鶴が声をかけると、奥から千鶴の母が顔を出した。
「お帰りなさい。まぁ、真琴ちゃんも一緒なの?」
「こんにちは。お邪魔します」
真琴が丁寧にお辞儀をすると、千鶴の母は優しく微笑んだ。
「いらっしゃい。今日は何を作るの?」
「うん、和菓子を教えてあげようと思って」
千鶴が答えると、母は嬉しそうに頷いた。
「そう。じゃあ、がんばってね」
台所に立つと、千鶴は手際よく材料を準備し始めた。真琴は少し緊張した面持ちで見守っている。
「まず、小豆を煮るところから始めるんだよ」
千鶴の説明に、真琴は真剣な表情で聞き入った。
「へぇ、そうなんだ。難しそう……」
「大丈夫、ゆっくりやればできるよ」
二人で協力しながら、少しずつ和菓子作りを進めていく。真琴は時々失敗しながらも、楽しそうに取り組んでいた。
「ねえ、ちづるちゃん」
「うん?」
「私ね、美咲ちゃんのこと、気になってるんだ」
千鶴は真琴の言葉に、優しく微笑んだ。
「そうだね。美咲ちゃん、いつも一人でいるもんね」
「うん。でも今日、少し話せて……なんだか嬉しかったんだ」
真琴は少し照れくさそうに言った。千鶴は静かに頷いた。
「まこちゃんは、人の気持ちがよくわかるんだね」
「え? そう?」
「うん。だからこそ、美咲ちゃんも心を開いてくれたんだと思う」
真琴は千鶴の言葉に、少し驚いたような表情を見せた。
「そっか……私、そんな風に見えてたんだ」
和菓子が出来上がり、二人は達成感に満ちた笑顔を見せた。
「わぁ、きれい!」
出来上がった和菓子を見て、真琴は目を輝かせた。
「うん、上手にできたね」
千鶴も満足そうに頷いた。
「ねえ、これ、明日美咲ちゃんにもあげてみない?」
真琴の提案に、千鶴は嬉しそうに頷いた。
「いいね。きっと喜んでくれると思う」
窓の外では雨がまだ降り続いていたが、真琴の心の中は温かな光に包まれているようだった。
「雨って、人の心を近づけてくれるのかもしれないね」
真琴のつぶやきに、千鶴は優しく頷いた。
その日の夜、真琴は日記を書きながら、今日一日を振り返っていた。美咲との会話、千鶴との和菓子作り、そして自分の中に芽生えた新しい気づき。
「人の気持ちがわかる……か」
真琴は少し照れくさそうに微笑んだ。窓の外では、雨がやさしく降り続けていた。




