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目覚めたら、ドールハウス  作者: しんた☆
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5 エリーザの子犬

5 エリーザの子犬


「さぁ、旦那様がお待ちですよ。お食事の準備を整えますので、こちらへ。」


 エルマにつられて、躊躇いがちにクラウスの待つ食堂にやってくると、一瞬、瞠目したクラウスがゴホンと咳払いして、ラーラを席に座る様促した。


「あー、うん。なかなか似合っているのではないか。」

「あの、ありがとうございます。こんな高そうな洋服を、私なんかのために、すみません。」

「気にするな。それより、今後はもう少し姿勢に気を付けて。背筋を伸ばしてごらん。」

「こう、でしょうか?」


 髪を結い上げ、背筋を伸ばしたラーラは、十分に美しかった。


「そうだ。さて、では食事にしよう。」


 その日のラーラは、洗濯の代わりに,姿勢矯正と歩き方のレッスンを受けた。その間に、ベルガーが今朝届いた手紙をクラウスに届けると、はっとしたようにクラウスが1通の手紙を取り上げた。


「ジークベルトから返事が来たな。」


 すぐに中身を確かめ、少し視線を落としたクラウスを、ベルガーは心配げに見つめていた。


「ベルガー、来月、ジークベルトの家族がこちらに遊びに来るそうだ。」

「左様でございますか。では、準備をいたします。」


 執事が部屋を出ると、もう一度手紙に視線を落として、クラウスは小さくため息をついた。ジークベルトは、同じく若くして侯爵になった学生時代からの親友だ。娘が生まれたと聞いていたので、ドールハウスを一つ譲ろうと手紙を出していたのだ。しかし、その返事が来る前に、ラーラが現われて、クラウスとしては、予定外の状況に陥っている。


「家族で来るということは、娘を連れてくるということか。とりあえず、彼らが来る前には、今住んでもらっているあのハウスだけは、棚の上にでも移動しておこう。」


 ジークベルトの妻、フローラ―とは、彼らの婚約時代から何度か顔を合わせている。二人とも美しい明るい金髪にエメラルドの瞳をしていて、兄弟のように見えるとからかったものだ。そんな二人の娘がもう2歳になるという。ただ、やや体が弱いので、旅行は様子を見ながらにしていたのだ。


「家族か…。」


 窓の外に目をやると、どうやら今日は風が強いようだ。風に翻弄されて揺れる緑を見ながら、ぼんやりと考える。想像した先にいたのは、栗色の髪に琥珀色の瞳の少し大人びたラーラの顔だった。そんな自分の想像に驚いて、クラウスは思わず咳き込んだ。

 それにしても、この家にやってきた頃のラーラは世間を知らない田舎の子どもだったが、学ぶことを知り、姿勢よく過ごす様子を見ていると、その成長ぶりに驚かされる日々だ。これでは、まるで父親の気分だな。クラウスは微かに自嘲した。


 執務に専念していたクラウスは、館の奥で、何かの割れる音にその手を止めた。いち早く現場に駆け付けたであろうエルマの声が聞こえる。


「まぁ、大変! エリーザお嬢様のお人形が!」


 その言葉に、すぐに反応したのはクラウス本人だった。妹エリーザの人形とは、奥の部屋に飾っていた妹の作った粘土細工の人形だろう。クラウスにとって、妹からもらった唯一のプレゼントなのだ。

 奥の部屋に駆け付けると、窓のカーテンが大きく翻り、床には割れてばらばらになった子犬の人形が転がっていた。

「旦那様、申し訳ございません!」

「…。い、いや。気にするな。それより、怪我はないか?」

「は、はい。私の事より、エリーザお嬢様のお人形が…。」

「エルマ、物はいつか壊れるものだ。気にするな。片付けを頼む。」


 クラウスはそういうと、すぐに踵を返して、執務室に戻っていった。音を聞きつけたラーラは、心配になってドールハウスの外に出てみた。そして、ベルガーが用意してくれていたリボンを伝って床に下りると、エルマが箒を取りに行った間に、奥の部屋までやってきた。


 子犬の人形は、頭の部分と胴体に別れ、間が粉々に散らばっていた。ラーラはそんな欠片を一つずつ集めては、繋げられないかと試してみた。


「ラーラ様、お怪我されては大変です。どうぞ、私におまかせください。」

「あの、エルマさん。これ、接着剤でくっつけることはできないでしょうか?私の大きさなら、案外直せるかもしれません。」

「あら、本当ですね。では、何か見繕ってきましょう。」


 エルマが再び部屋を出ると、ラーラは黙々と作業に入った。愛らしい子犬の人形には、ピンクの首輪がしてあったはず。かけた耳の部分は茶色のブチだった。と、一つ一つを思い出しながら、組み合わせていく。よく見ると、小さな子供の指の形が残っていて、それもヒントになってくれた。気が付くと、子犬はほぼ、元の姿を取り戻していた。


「まぁ、もうそんなに修復できたのですか? あとは、この首を乗せれば完成ですね。」

「エルマ、接着剤もいいが、表面にこのコーティング剤を塗るのはどうだ…!ほう、これは見事に修復できましたね!ラーラ様、ありがとうございます。」

「本当に。旦那様は捨ててしまっていいとおっしゃっていましたが、これはエリーザ様の大切な思い出の品なんです。不治の病であっという間に亡くなってしまわれたので、旦那様は、何もしてやれなかったととても後悔なさっているのです。ですから、このお人形は捨てることなどできないのです。」


読んでくださってありがとうございます。

ブックマーク、評価など頂けると嬉しいです。

お話はまだまだ序盤ですが、感想などもいただけると嬉しいです。

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