第2話 新聞部はノリノリで語りだす
秘密どころか、翌日の学内は大騒ぎだった。
掲示板に貼り出された【号外!!】の文字。
新聞部が発行している学内新聞だった。
『謎の女戦士・レディース仮面遂に現る!!』
『目的は? 正体は? 一切不明!!』
よく見ればご丁寧に写真までついている。
けれど写真にはレディース仮面しか写っていない。たぶんヤンキーどもが全滅した直後のものだろう。
「あそこにいたのね、新聞部……」
新聞を見た美幸は呆れた。
誰が書いたかは知らないが、あの場にいて助けにも入らなかったとは。
結果的にレディース仮面に助けられたからよかったものの……。
つくづく彼女は、この学院に入学したことを後悔していた。
そのときだった。
「あっ……」
自分のすぐ横でそんなつぶやきが聞こえ、美幸は声のしたほうを見た。
「なに?」
ツーブロックめの髪形が涼しげな男子生徒が立っている。
美幸を指さして、口をぽかんと開けていた。
「あなた! きのう、レディース仮面に助けられた人ですよね!!」
「はあ!?」
「僕、一年の赤井っていいます! 赤井賢!! これ書いたの僕なんです!」
新聞をバンバン叩きながら興奮気味に賢は言った。
「あんたなの! 写真撮る余裕があるならなんで助けなかったのよ!」
美幸は噛みついてみたが、賢の答えは髪型と同じく涼しいものだった。
「だって僕、全部終わった後に偶然来たんですよ、ホントですよ。で、思わず撮っちゃったんです。ああーやっと三原中川にもレディース仮面が来たんだーって」
「やっと?」
「僕、イトコがいるんですけど、イトコの学校にも出たんですよ、レディース仮面。なんか、ヤンキーたちを次々粛清していって、学校が荒れなくなったらしいんですよねー。僕もうそれから彼女に会いたくて会いたくて。新聞部に入ったのも、いつか彼女のスクープがモノにできるんじゃないかと思って! こんな早く夢が叶うなんてすんげぇツイてる! あの、……アレ?」
興奮して話す賢をよそに、美幸はその場からいなくなっていた。
「なんなの、きのうのアレもきょうの新聞部も! ワケわかんない!」
しかしレディース仮面。
格好と名乗りとその名前こそふざけてはいたが、本人はいたって真面目だったのが、美幸には気にかかった。
三原中川学院、生徒会室――――。
生徒会といってもほとんど機能していないに等しい。
ヤンキーたちが幅を利かせるようになってから、生徒会長には彼らの親玉が就任し、生徒会室は実質たまり場のようになっていた。
「で? そのふざけた女はレディース仮面と名乗ったんだな?」
会長席に座る、がっちりとした体格の青年が身を乗り出す。
「はい……」
「たったひとりで我らに逆らうとはこしゃくな!」
会長席の椅子がぐあんぐあんと揺れた。
報告に来た下っ端はヒッと言って小さくなる。
「まあ落ち着け、島田」
長髪の、すらりとした青年が会長――島田をいさめた。
「お前もよその学校に現れた話くらいは聞いていたろう?」
「それは聞いていたが……!」
「遂にここにも来たということだ。――さあて、どうする? 会長殿」
島田はイライラとした風を隠さずに言い放つ。
「レディース仮面が現れたら遠慮はいらん、とにかく倒すことを先に考えろ! 邪魔な奴は排除しておくに限る」
「はっ、はいいぃ」
「下っ端もどんどん増やせ。まだ全校生徒の三割程度が残っているからな!」
「しょっ……承知しましたっ」
下っ端は逃げるように生徒会室を出ていった。
「レディース仮面……か。倒すには惜しい人材と思うがな」
長髪の青年は含み笑いをしながらつぶやく。
「ずいぶんと余裕だな、藤山! 俺の命令が聞けんのか!?」
「まさか。俺には俺の出方があるだけさ」
藤山と呼ばれた長髪の青年は生徒会室の窓を開けた。
「しかし面白くなってきたな。……あいつを呼ぶか……」