君がスカイウォーカーだったかもしれない。
君は空を歩ける。
水中に棲む魚が泳ぎ、空には昆虫も鳥も飛んでいる。
空気の海に棲む人類がそこで泳ぐことは必ずしも不可能でないのは自明の理であろう。
それだけのことをある科学者が気付き、証明するまで随分時間がかかった。
要は空気をちゃんと掴んで下へ押しやればいい。
「あとは根性です」
その偉い博士はそう言うと階段を登るように2階バルコニーから空中へ踏み出した。
手を前後に振るかわり、上下に頑張って振った。根性をこめて。
博士が青い空に一歩踏み出した瞬間、建物の下で群衆から悲鳴があがったが、彼は微笑みながら宙を歩き始めた。
悲鳴は一瞬静寂に替わり、すぐに賞賛と納得の声が渦巻いた。
「素晴らしい。本当に歩けるのか」
「な。俺も実は前から歩けると」
「私なんて最初から」
君達スカイウォーカーの誕生だ。
それから君逹は空を歩き始めた。
博士の言うようにその根性に問題があって歩けない人間もいたが、君は空気を掴む感覚を覚え自由に空を闊歩した。
「防犯上好ましくない」
「根性がないと歩けないのは差別である」
「税制を整えるべきだ」
様々な批判もあったが、大空を自由に歩くその快感は何ものにも替え難かった。
そう、君は自由だった。
世界中の空をスカイウォーカーは歩き、ついに太平洋を徒歩で横断する者も現れた。
それから1年後のことだ。
だがよく考えると…と言い始めた人々がいる。
「よく考えたら」
もっと偉い博士がインターネット上で発言した。
「物質には比重というものがある」
人間と空気の成分組成、万有引力の法則から考えればヒトが宙に浮かぶのは明らかにおかしい。
博士は高い塔から人間と同じ成分の肉塊を落下させた。
「こういうことなんですよ」
ペチャンコになった肉塊を見て、それは実験するまでもないじゃないかと多くの人が感じた。
「やはり間違っている。人が浮かぶはずはない」
「根性で飛べるとか物理法則を舐めてんのか」
「浮いている人間は何らかの勘違いをしている」
「税制の改革に着手するべきだ」
世界中の科学者がそうだそうだと賛成した。
薄々そうじゃないかと思っていた多くの人々もそりゃそうだと言い出す。
「浮くわけないじゃん」
「俺も実は前から」
「私なんて最初から」
世界の過半数の人間がそれに気がついたその瞬間、宙に浮いていた人々が全員墜落した。
まさにその時、気の毒に上空数十メートルを歩いている者もいて悲鳴をあげた。
「!いや今さら」
太平洋を徒歩横断中の人々はサメの餌食になった。
「!誰だ。根性で浮けるって言った奴」
以来、君は空中を歩いていない。
スカイウォーカーの絶滅までたった1年半だった。
君はそれでいいのか。
読んでいただきありがとうございました。
本日ボンヤリ空を眺めていてブツブツ言いながら書き上げ、読み返してみると何が面白いのかよくわからないのですが自分では気に入っています。傑作かもしれません。違う気もします。