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リリアンローゼ

リリアンローゼ〜モブ令嬢だと思っていましたが隣国の王弟殿下から婚約を迫られています

作者:

「リリアンローゼ」第三弾です。後日談のようなもので短いです。お暇なときにでも読んでいただけたら嬉しいです。


 自室から臨む庭園に、庭師の姿が見え隠れしている。

 私がお願いしたのだ。常緑樹を動物の姿に刈り込んでほしいと。

 もうすぐ春のガーデンパーティーだからそれに間に合うように。


 あれから2年…まだ、2年しかたっていないのかとため息が出ました。


 お久しぶりです。ディアナです。いまのところまだ公爵令嬢です。ええ、まだ。


 あれから。

 そう、あのアホ(元)王太子の婚約破棄騒動後、隣国リリエントのロリコン王弟に「貴女の愛らしさに惚れました!」なんて言って婚約を迫られ、それがいまでも続いています。おかげで他の貴族家からの婚約的な話が一切ありません。


 王弟でロリコンとか始末に負えない。


 とはいえ。

 鏡をみると、そこに映る自分の姿は。


 16歳、ピチピチ(死語)の乙女。


 ミルクティー色の長い髪。

 肌理細かな白い肌。

 大きな緑柱石のごとき瞳。

 ふっくらとつややかに色づいたくちびる。

 すらりと長い手足。


 コレもうロリじゃないよね? 成人したし。


 前世基準だと未成年で学生がほとんどだけど、こっちだと既婚者でもおかしくないし。年の差だって10歳くらい実は問題にならない。

 

 え? じゃあなんであの元王太子の婚約者にならなかったのか? 年齢差で先に決まったことと、伯爵家と公爵家の家格差よりも女神ルーエの聖女兼依り代の方が女神ライラの依り代より王家と繋がるには相応しい、という結論だったこと。

 まぁそれでロリコンに迫られてたらいいんだか悪いんだかだけど。


 鏡の向こうの美少女の眉間にシワの寄っている。いけない、控えてる侍女から無言の圧力が飛んできた。


 むりやり笑顔を作ると、美少女が微笑んだ。完璧な淑女の微笑みだ。よし。


「ディアナ、いま…………あなた、ひとりで鏡を見て何をしているのかしら?」


 叩扉と同時に扉が開きました。こちらの返事を待ってから開けてくださいよ!


「母様!!」


「家だからと気を抜きすぎです。サイラス殿下がいらしてますよ」


 ああ、もうきてしまった。噂をすればなんとやら…


 ちらりと庭園を見ると、緑色のうさぎが耳をピンと立ててこちらを見ていた。やばい、仕事早っ、ウチの庭師神業!!


◆◆◆


「おまたせして申し訳ございません、殿下」


 身なりを整えてガゼボへ急いだ私。殿下は、待ちくたびれた風情も見せずに微笑んで振り向いた。

 隣国リリエントの王弟、サイラス・ドナルド・アロン殿下。


「いいえ、こちらの庭はいつ伺っても美しく、季節に合わせて少しずつ装いを変えているので見飽きません」


「フフ、お褒めにあずかり光栄ですわ」


 御世辞でも嬉しいのよね。

 なんせ、自慢の庭師が造ったんだもの。もう、この鋏さばきは神の領域といっても過言ではないわ。緑のうさぎ、やっぱりかわいいわ。


 ここから見える庭は、あの日ガーデンパーティーを行った場所。殿下がおみえになった日は晴れていればこちらにお通しすることにしている。

 他意はない。けっして。


「ウィンティック公爵令嬢」


 少し当たり障りのないお話をした後、姿勢の良い背筋をさらに伸ばした殿下にあらたまった口調で呼ばれた。


 これはいつもの。


「本日は最後のお願いに上がりました。どうか私の婚約者となっていただけないでしょうか?」


 やはり、きたかいつもの。


 けれど最後?

 今日断ったらこれでもう迫られないのかしら? ロリコンはごめんです! って今日こそ言っていいかな? いや、それはダメだ。相手は隣国の王族。よし、いつも通りに断ろう。


 そう思っていたのに。


「ひとつ、おきかせくださいませ」


「はい、もちろんお答えできることであれば、なんなりと」


「殿下ははじめ、わたくしの愛らしさを好まれて婚約をお申し出くださったと記憶しております。けれど、いまのわたくしには、もうあの頃の愛らしさはございませんわ。それどころかこれから年齢を重ねていくばかりです。本当にこれからのわたくしでよろしいのですか?」


 何を言おうとしているの私の口? さらっといつも通りに変わるんじゃなかったの?なんで回りくどく「もうロリコンのストライクゾーン超えてるんじゃないの?」と尋ねているの?


 そして、当の殿下は。


「……やはり、幼女趣味と思われていましたか」


 少し苦笑いの残念なイケメン。

 いやあれを、それ以外にどうとらえろと?

 言ったよね、アナタ。


『あなたの愛らしさに惚れました!』


 とかって。


「たしかに、そうととられても仕方がないですが、あの頃から私の気持ちは微塵も変わっていません。むしろ、この2年で貴女への想いは増すばかりです」


 えーと? え、それって。


「当時の貴女は、たしかにあの年頃に似合った愛らしさだった。それは当然のことです。けれどそれだけなら私はここまで貴女をお慕いすることはなかったと思います。あの日、初めてご挨拶したときの凛とした佇まい、大勢の客人に臆さず、奥方様の采配を学び取るため横にしっかりとついている様子を私はずっと目で追ってしまっていました。どうしても追わずにはいられなかった」


 うわぁ…まって、まって!

 え、何?この精神的拷問!? 尋ねたのは私だけど!!


「私は、半年後に王族を離れ公爵位を賜ることが決まりました。そしてその時までにせめて婚約者がいなければなりませんが、それが貴女でないなら他の誰も必要ない」


「で、殿下!?」


 ダメでしょ、独身で公爵位就くとか!


「貴女以外の女性に目がいかないのですよ、ウィンティック公爵令嬢。貴女のすべてが好ましい。私自身、あの頃は悩みました。成人前の少女にこんな気持ちを抱くなんて。けれど、この2年、あの頃の貴女と同じ年頃のどんな可愛らしい少女だろうと貴女への気持ちと同じにならない。あなたの愛らしさが美しさへと移り変わるのを目にしながら愛おしい思いが日々さらに募るのです」


 ムリ、もう、これ耐えられない…!


『うーふーふ〜、完敗だねぇ、ディ?』


 くぅ、女神ライラの思念が楽しそうだわ。


『これはもう、愛だよね〜。ろりこん? じゃないんじゃない? 彼は』


 うん、わかってた。この人が、ロリコンではないなんてこと。


 っていってもつい最近。

 私を見る、殿下の眼差しが少しずつ変わっていることで気付かされた。


 温かな眼差しは変わらないのに、そこにそれまでとなにか違う色がついたような、温度が違うような。

 そうと気づいた時、なんだかムズムズそわそわする奇妙な感覚にとらわれた。


『そろそろ認めなさいな〜。ワタシはとうぜん、大歓迎だよ〜』


 そりゃそうだよね。依り代が手元にもどるんだもんね。


 私は、『ディアナ』はリリエントで生まれた。


 身重の母がリリエントに住む祖母を見舞いに行き、そのまま産気づいた。そしてそのまま月足らずで生まれたのが『ディアナ』だ。

 なんとか生まれたけど、小さく産声を上げない赤ん坊に母は半狂乱になり伯母は半ば諦めたという。


 けれど、突然泣き出したかと思ったら銀色の光に包まれて。


『月満ちずして生まれし赤子へ妾の力を与えん。これなるは妾の依り代としてさだめし娘なれば』


 なんて宣ったそうです。ええ、もちろん現界した女神ライラですよ。

 そのおかげで生きながらえ、すくすく成長し、なぜか前世の、『私』の記憶を持ち今に至る、と。


『うーふーふ〜、ぜーんぶワタシの予定通り〜』


 女神ライラ、その後の母と伯母は絶縁寸前の姉妹喧嘩をしたんだけど?

 女神ライラの依り代ならリリエントに住むべきだ、養女によこせー! って伯母と誰がアンタにやるかーっ! って母と。

 言いたいことはわかるけど、伯母さまも無茶言うよね。

 これも予定通りなワケ?


『うぅ…ごめーん、それだけは予定外〜』


 うん、ご理解いただけていればいいんですよ。

 姉妹喧嘩の仲裁もしてもらったのも知ってるしね。


「ウィンティック公爵令嬢?」


 いけない、女神ライラとの思念交感に集中してしまった。


 うーん、正直なところ。


 顔はけっこうタイプなのよね。

 王族を抜けて公爵位もらうんだから、ステイタスも高いままなわけだし?

 ロリコンが嫌だっただけだから、実際ロリコンじゃないから問題なくなっちゃったじゃない。


「わたくしで、よろしいのですね?」


「貴女が、いいのです。これまでも、これからも」


 これからも、ね。


「では、お話しくださいますか、女神ライラと」


 父公爵と、というかと思ったでしょ? 

 甘いわ、ウチでは父より女神の意向が優先されるのよ!


「    」


 召喚歌を発すると温かいものに包まれた気がした。


『妾が守護するリリエントの王弟、サイラス・ドナルド。そなたに妾の依り代たるディアナを娶る赦しを与えましょう』


 イケメン王弟の顔が驚いた後に華やいで更にイケメン化してしまった。


「女神ライラ、感謝いたします」


『ディアナは当代の依り代。死によってのみその任が解かれます。先の件でそなたも理解したでしょうが、ゆめゆめ忘れることのなきよう』


 女神ライラの言葉にサイラス殿下の表情がさっと変わった。


 何を理解して、何を忘れるな、って…?


「しかと、心得ております。我らの守護女神ライラ。貴女の御心のまま国民を守り導くこと、それが王族、貴族の役割であると」


 イケメンのマジ顔、ヤバい。


 これから、コレにどれだけ耐えられるかしら、私の心臓。


◆◆◆


 私は、大好きなラノベによく似た世界に転生した。


 自分はしがないモブだと思っていた。


 なぜなら、「登場人物」ではなかったから。


 ヒロインでも、悪役令嬢でもない、ただの貴族令嬢。


 ヒロインも悪役令嬢も現れたけど、物語と同じにはならなかった。


『ディはね、ディが思うように生きればいいんだよ〜?』


 堂々と、正しいと思う選択を。


 女神ライラが言ったのだ。

 転生したことで、『ディアナ』の命を奪ってしまったのではないかと悩んでいた私に、ディアナが生まれたときの話をしてくれた。


 むしろ私がディアナの命を繋いだのだと言ってくれた。


『アナタこそがディアナ・ウィンティック。思うままに、いきなさい』


 ロゼスティリアの、ウィンテック公爵家の娘としてうまれ、女神ライラの依り代であり、そしてリリエントの新たな公爵の婚約者そして……


 私は、私として、この世界で生きていく。

読んでいただきありがとうございました!

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