#9
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翌日登校すると、下駄箱に到着したあたりから何か普段とは違う空気を感じた。みんながみんな、なにかのイベントのようにソワソワしている。
(今日なんかあったっけか…?)
そう思いながら教室に着くと今まで歩いてきたどの場所よりも騒ついている。
ガラリと扉を開けると騒ついていた室内は一瞬しんっ…と静まりかえった。成程。今までなんとなく感じていた視線は気のせいではなかったようだ。ざわつきの中心は自分のようだ。思い当たるとしたらなーちゃんへの告白。昨日の今日でこんな事になるなんて思っても見なかった…。しかし今までなーちゃんへ告白したやつは沢山いるが、こんなにみんな騒ぎ立てていただろうか?疑問に思い、教室を見回しながら鞄を机にドカっと置く。榎本が前の席から体を捻り、相変わらずのニヤケ顔を普段よりさらにニヤつかせている。俺の机の上に置いてあった何かをカバンの下から引きずりだして、指先でつまみ、ひらひらさせながら言った。
それは真っ黒な紙だった。吸い込まれるような漆黒。ブラックホールはこんな感じなんだろうかと思わせるほどだった。そんな紙が置いてあった事に気もそぞろだった俺は全く気づいていなかった。
「お前今度は何したんだよ?」
「は?」
怪訝そうに榎本の持つ紙を目を細めて覗き込む。紙の内容がよく読めるように榎本は紙の動きを止め、体をくるっと完全に後ろに向け椅子をまたぐように座り直した。そして紙の上辺の角を左右の手でつまみ、さらに読みやすいようピンっと張る。こいつがご丁寧にこんな事をやってのけるからに、榎本にとってこの紙の内容は俺が読むと相当面白いものであるに違いない。つまり俺にとっていいものではないという事だ。
真っ黒な紙には白字で『警告』と大きく書かれていた。頭の中で朝から起こっていたざわつきの根源はこれであった。
紛れもなくそれは、何の変哲もない公立城北高校の都市伝説といわれている黒紙だった。




