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裏表Lovers〜彼女達にはウラがある!?〜  作者: につるべいつき
4/9

#4

きらきらと光る金色の髪を靡かせて自転車を立ち漕ぐ。カバンについた天音スピカのキーホルダーが揺れている。今年は開花が早かったせいで桜は殆ど散ってしまった。新芽が出始める桜並木を抜けるとすぐそこが高校だ。


時刻は8時11分。遅刻ギリギリのせいか人の姿は殆どない。遥か前方に一つ、人影が見えるくらいだ。人がいない直線ということもあり、さらに速度を上げる。入学早々遅刻はなんとか免れたい。輝かしい高校デビューにそんな目立ち方はしたくなかった。


人影はどうやら女の子のようだ。明るい栗色の髪を肩まで伸ばしている。毛先が全体的に丸みを帯びていて可愛らしいシルエットをしている。


通り過ぎざまに相手の顔を横目でチラッと確認する。理由なんてない。なんとなく、好奇心が湧いただけのことだ。自転車が通り抜けた時に起こる風が彼女の髪を靡かせた。


風に舞う髪を耳にかけながら目を上げた彼女と目が合った。


自分の脳がおかしくなったのかカメラで連写写真を撮るかのように、彼女の一挙一動がコマ送りで見えた。



ちらっと盗み見るだけのつもりが、蛇に睨まれた蛙のようにその綺麗な茶色の瞳から目を離すことができなくなってしまった。ややタレ目がちな大きな瞳に自然な色味の薄い唇、僅かに赤みを帯びる頬が毛穴ひとつ見えない陶器のような白い肌によく映えている。気のせいだろうか、彼女は大きな目を一瞬さらに大きく見開き驚きの表情を見せていた。


彼女から見た俺はどんな顔をしていただろうか。目を見開き、口は半開きで、間抜けな顔を晒していたに違いない。仕方のないことだ。その時俺は春雷に打たれていたのだから。





自転車で彼女とすれ違った瞬間。1秒にも満たないその瞬間に俺は彼女に恋をしたのだ。



◇◇◇


鳥海(とりうみ)さんは学年のアイドル的存在であった。優しく、明るく、可愛い。この三拍子が揃っているのだからそうなってしまったのは致し方ない。問題はこの遥か彼方の高嶺の花となってしまった彼女に恋をしてしまったことだ。


俺はここのところずっと悩んでいた。


体育館にゴムのシューズの音がキュッキュと小気味よく響く。今日の授業はバスケだ。本当は男子はグラウンドでサッカーの予定だったが、今朝は小雨が降っている。体育館の中は、じめじめとした空気が流れ授業の熱気と相まってさらに不快指数を上げている。


男子と女子は別れて体育館を半面ずつ使用し、無作為に組まれたチーム同士が練習試合をしている。コートの外にいるほとんどの生徒はコート脇や壇上に座り込み私語に勤しんでいた。


「確かになーちゃんは可愛いよなぁ。」


榎本はペットボトルの水を飲みつつ、体操服をパタパタしながら中に空気を送り込んでいた。


俺たちはできるだけ不快指数を下げる為に、開けてある扉の近くにあぐらをかいて座り込んでいる。しとしとと降り続く雨は全開に開かれている扉から降り込んでくる気配はない。雨に乗って僅かに体育館の外に敷かれているスノコの木と埃の入り混じった匂いがする。俺の返事を聞かずして榎本は続ける


「この前3年のまぁまぁイケてる先輩に告られたってなーちゃんの取り巻きが騒いでたぜ。」


榎本はこの2ヶ月でさらに伸びた赤みがかかった髪を高いところで一つに結んでいる。中学時代野球部に所属し、坊主頭を強制されていた彼は髪に執着があるようだ。


反応なく黙り続ける俺に何かを求める様子で更に言葉を重ねてくる。


「そのうち誰かとお試しで付き合っちゃうんじゃないか?」


決まったと言わんばかりに横から俺の顔を覗き込む。そんな榎本のドヤ顔は俺の不快指数をグッと上げるに違いないので、俺は顔を真正面に固定している。


榎本を無視しているわけではない。俺はずっと考え込んでいた。どうすればいいのか。勝ち目のない勝負に出るしかないのだろうか。榎本が俺をふざけて焚き付けているのはわかっている。それを分かった上で俺は行動に出なければならないのだろうか。



試合をする彼女を見つめる。運動神経が良いのだろう。パスを受けた彼女は果敢にデュフェンスに切り込みレイアップシュートを決める。


その姿は経験者の動きとは違えど中々に様になっていた。チームメイトと喜び合う彼女がなぜかこちらに目線を映す。俺と目が合うと彼女はニッと口角をあげてとびきりの笑顔を見せた。



その顔を見た俺は今までの悩みが杞憂なのではないかと全く新しい切り口を見つける。


ここのところの天気と同じようにずっとスッキリしなかった俺の脳内は急にクリアになった。何かすごく簡単なことを複雑に考えすぎていたのかも知れない。この先の幸せが確約されているような満たされた気持ちになる。


「榎本!決めた!俺なーちゃんに告白するわ!」


榎本は待ってましたと言わんばかりに目を輝かせた。奴はきっとこの告白の勝ち目は0だと思っているのだ。



俺が感じている彼女からの好意をやつは知らない。



◇◇◇



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