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裏表Lovers〜彼女達にはウラがある!?〜  作者: につるべいつき
3/9

#3

◇◇◇


『正木のラブレターはキモすぎて笑える』

中学2年になった時、そんな噂が学年で流行った。具体的な内容や現物といったそれ以上に話題が盛り上がる様な続報がなかった為、根も葉もない噂として1週間が過ぎる頃にはみんな忘れ去ってしまう真夏の台風の様なものであった。


噂の出所はテニス部の先輩であり、俺の初恋の人だった。


2学年上の先輩である夏帆(かほ)先輩が卒業する日に人生で初めての告白をした。


自身の想いをどうすれば余すことなく伝えられるのか?悩んだ末に書いた初めての手紙だった。


夏帆先輩は真面目で優しい人だった。だから俺の気持ちを笑わずに受け止めてくれると信じていた。


先輩は手紙を読み終えると『キモすぎて笑える』と悪意なく爽やかに言い放ち、その後笑いすぎて過呼吸になってしまった。


こうして噂が流れ始めたわけだが、夏帆先輩はやっぱり根はいい人で、俺のラブレターの詳細を誰かに話すなんてことはしなかったようだ。


◇◇◇


そんな苦い経験をふと思い出していると、榎本がひとしきり笑い終えたのか今度は文書を朗読し始めていた。


「〝君のセーラー服の”…〝白い襟は“……ブッふふ。な…〝何よりも眩しく輝いて“…フッフハハハハ。〝だから気づいたんだ“…フハッへへへへ……き……〝君が好きだって。“ギャーはっはっはっはっ!!!」


床に崩れ込んで笑い続ける榎本にいい加減苛立ってきた。


「お前!いい加減にしろよ!俺は真面目に自分の想いを綴ってるだけなんだ。」



「〝想い“…ぶはっ。いや…こ…これは。シンプルにキモいだろ…。なんでお前の書く《らぶれたぁ》はこんなにポエミーなんだよ。」




「自分の気持ちを書いてたらさ、こうぶわぁっとテンションが上がって来てさ、気づいたらこんな感じになってんだから仕方ないだろ!」


少しオーバーな手振りで俺は榎本に賛同を得ようとする。俺がこの榎本(バカ)に僅かな期待をしていたのは無駄だった様だ。


「まぁ…アレだな。いつかこの〝想い“を笑わずに受け入れてくれる子が現れたらい…いいな…ブッッッッははっはっは!」


笑う体力が戻ったのか、今までの笑いが再びやってきたのか。一際大きく笑い始める。


「お前!やっぱりバカにしてんだろ!」


開けっぱなしの俺の部屋の窓から、再び榎本の馬鹿笑いが住宅街に響き渡った。




◇◇◇


そんな散々な卒業式も終わり3週間が経った。ひたすらに惰眠を貪ったお陰か俺の心の傷もかなり癒えた。


明日はいよいよ始業式か…。


明日から着る予定の制服にちらりと目を向け、自分が袖を通す姿を想像する。周りに仮想友達の美男美女を配置し、真ん中に弾ける笑顔の俺。……なぜかピンとこない。何かインパクトが欲しいな…。何か…。


そう思いながら遅めの朝食を食べる為に階段を降りリビングに向かうと、パートに出かける母が忙しなく準備をしていた。 


「おはよう」と一言声をかけて来たが、それ以降はだらだらとしている息子にかまっている暇もないようで「朝ごはんテキトーに食べなさいよ。」と捨て台詞のように言って出ていってしまった。



俺には3つ上に兄と3つ下に弟が居る。自分と違い普段から何かと忙しくしているので、今日も例によって既に家にはいない様だ。僅かにコーヒーの匂いが残っている清潔に掃除された室内は、気怠さの残る心地よい静寂に包まれている。



冷蔵庫から麦茶を出し、コップに注ぐ。一口喉を潤し、減った分を継ぎ足す。そのままテレビの前の3人がけのソファの真ん中にドカッと座ると、母親が見ていたであろうニュース番組のエンディングの星座占いが始まっていた。



普段聞き流しているこの占いがやけに気になる。下位のランキングから、上位のランキングに画面が移り変わるが、依然として自分の星座が出てこない。残るは一位と最下位だ。


『一位は獅子座のあなた〜!!!』


テンションの高いナレーションが響く。無情にも俺の星座は呼ばれなかった。よりにもよって榎本が獅子座だったような気がする…。卒業式の日の馬鹿笑いを思い出してうんざりした。


『最下位は!ごめんなさ〜い。山羊座のあなた!』


なんのごめんなさいなのかいつも疑問に思うが、今日はそんなことよりもリカバリー方法が気になって仕方がなかった。テンプレートの接続詞に注意して聞き逃すことがないように耳を傾ける。


『そんなあなたのラッキーカラーはゴールド!イメージチェンジをすると素敵な出会いに恵まれるかも!今日も元気に〜Have a Good Day!』


ナレーターが尺ぴったりに決め台詞を言うと、短めの音楽が流れて番組は終わった。テレビ画面の左上に出ている時計は9:00になり、次の番組の開始とともに一瞬でフォントを変えた。


前の番組の余韻に自分1人だけが取り残される。その余韻が消える一瞬の間の後、自分の中であるひらめきが起こった。頭の中の霧が晴れた様だ。コップに残っていた麦茶を一気に飲み干すと、出かける準備をする為に降りて来たばかりの階段を再び駆け上がった。



◇◇◇


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