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初投稿なのでなろうの機能もよくわからずですが、日々精進いたします。現代のsns社会に反抗的な姿勢でおりますので、自身で宣伝はしてません。面白ければぜひ身近な人に話したりsnsで呟いていただければ幸いです。
ストーリーには自信あります!ぽかぽかな心で見守ってください!
また当小説には沢山の音楽のタイトルが出てきます。作品を読みながら同じ音楽を聴いていただけると、より深い没入感を得ていただけると思います!
フロントガラスに雨が当たる。パチパチと軽やかに弾ける様な音がする。さほど強くない雨だが、今日は一日中降り続きそうだ。
広いコンビニの駐車場の端にとめた車の中で、ホットコーヒーを飲みながらラジオを聴く。聴くと言ってもBGMとして流しているだけで内容は全く頭に入ってこない。コーヒーを飲み終わると座席のシートのリクライニングを倒して横向きになる。エンジンの揺れが心地いい。暖房の暖かさも相まって揺籠の中で揺られている赤ん坊の気持ちになる。
『仕事だりぃな…。』
大学を卒業して4年。俺は営業の仕事をしている。
毎日毎日辞めたいなとか、だるいなとか考えながら仕事に向かう。このコンビニで15分ほど仕事前にゆっくりするのは俺のささやかな最後の抵抗だ。
15分早く会社に行って一生懸命仕事をしたら俺の評価は変わるのだろうか。いや、それよりもこの駐車場で休むことでなんとか仕事に行っているんだと思うと、この休憩はちょっとした早出のサービス残業なんかには替えられないなと思ってしまう。
こんな人生を、あとどれほど続けなければならないのだろう。今までなんとなく、誤魔化して生きて来た結果がこれだ。
ラジオでは俺より年下のメジャーリーガーの活躍が報じられている。
『彼はこれからさらに世界に羽ばたいていきますね。』
キャスターが定型分のような締めの言葉でつづる。その言葉はおれの喉元に魚の骨の様にひっかかり、脳へ信号を送る。そのシグナルに反応して記憶の扉が開く。
『”世界”というのは自分の中にあるんです。』
懐かしい。誰かが言った言葉だ。俺の世界は今この狭い車の中だ。
◇◇◇
俺の中の記憶の扉をさらにこじ開けるようにラジオから聞き覚えのあるイントロが流れる。
BUMP OF CHICKEN『才悩人応援歌』だ。
なんとなく眺めていたスマートフォンの転職情報から視線を離し、いつもは聴き流しているだけのラジオに耳を傾ける。
この曲を聴くと思い出す。
国道23号線の古びた歩道橋の上で、彼女に出会ったことを。
あの時、雨が降り出したんだ。
ちょうど今日みたいな明るいライトグレーの空に、心地の良い耳触りの雨だった。
◇◇◇
『正木くんといると楽しいし、顔もまぁ普通にアリだし、いいなって思ってたんだよね。』
正木夢実。15歳彼女いない歴=年齢、もちろん童貞。
ついに…ついに俺にも春が来た…!
桜舞い散る中に佇む2人。
簡易的な手提げ袋と黒い筒を各々手に持っている。革のように立派な加工が施されたその筒は強力な磁石であるかの様に俺の手にピッタリとくっついている。その接触面は手のひらの汗と混ざり合い、じわりと嫌な滑りを帯びていた。
一方で彼女が持つ同様の筒は些か手持ち無沙汰なようだ。傘を閉じて、紐で纏める時のような動作でくるくると軽やかに彼女の手の中で回っている。
喉がひどく乾いている。桜の花びらはスローモーションのエフェクトがかかったようにひらりひらりと落ちていく。あぁなんて綺麗な光景なんだろう。俺は生涯この瞬間を忘れることはない。膨らむ高揚感。世界が違って見えるってこいうことを言うのかなんて思っていた。
少し乱れた呼吸を整えて彼女は続ける。伏し目がちに視線を落とした目尻には薄らと涙が浮かんでいる。
『でもね…。』
日本語は残酷だ。接続詞で次の文脈が読めてしまう。さっきまで確信していた勝ちの2文字はオセロの様に反転し盤面を無慈悲にも真っ黒に変えていく。
5分程前に『第二ボタン下さい』と彼女から言われたのは何だったのか。白昼夢か?こんな麗らかな春の日に俺の心は凍りつきそこで思考が停止した。
そうしてつづく予想通りの残酷な言葉。
『ごめんなさい。』
彼女が紡ぐ言葉の語尾は震えていた。