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真希は夢中になって叩いた。運動不足の体は節々が痛いが、体が温まってくるにつれ、それも気にならなくなってくる。

穴はエレベーター全体に出現する。

真希はパンプスを脱いで、狭い空間を駆け回った。

スーツのジャケットはすでに榊原に押し付けて、半袖のブラウスを肩まで腕まくりしている。さながら学生時代の部活動の時のようだ。

榊原はそんな真希を隅でにこやかに応援している。


「いやー、真希さん、本当に逸材ですね。その運動神経。その順応性。そのガッツと体力。魔安に転職しませんか?」

「うははははは!おもしろい!おもしろいわっ」

モグラ叩きハイとでも言うべきか。すっかりテンションが高くなった真希は、ハイスピードで叩き続ける。


飛んで、叩く。

——スパン!


しゃがんで、叩く。

——スパン!


振り向いて、叩く!

——スパン!


真希の攻撃は止まらない。だが魔物も学習してきたようで、真希がハンマーを近づけると奥に引っ込むようになってきた。


——スルッ

——スカッ!


——にょろん

——スカッ!


「きぃぃぃぃー!卑怯者!出てこい!勝負だっ!」

真希は叫んだ。


一ヶ所だけ、ちょうど榊原の頭の上の方に、どうしても届かない所があるのだ。さっきからチラチラと出てきては、ケケケケと薄気味悪く笑うのが気になる。すごく気になる。


「榊原さん!手貸して!あと、肩!」

「はい」

それだけの指示で真希のしたいことを察した榊原は、両手を合わせて手のひらを上にすると、体の前にずいと差し出した。

真希はその手に右足を掛けてぐいと踏むと、左手で榊原の肩を掴んで上に飛び上がった。


——スパン!

——きゃっ


真希がハンマーで魔物を叩くと、魔物は可愛らしい音を立てて消えた。


「やった!ありがとう!」

「どういたしまして。さ、どうぞ。」

真希が降りやすいように体を支えていた榊原が、両手を広げた。ハグ待ちである。

「あっ!アイツ!また出やがった!」

真希はそれに気づかず反対方向に駆けていく。


——キラン!


大きめの効果音がした。

「よっしゃ!」

大物が出てきたので連打したのだ。100回くらい叩いたら消えた。

見よ、この俊敏性と体力。私もまだ捨てたものではないっ!


「その調子です、真希さん。頑張りましょうね。ここが落ちたら魔物が現世にうじゃうじゃ出現することになりますから。」

「…は?」

真希はぱたっと止まると榊原の方を向いた。

「あれ?言ってませんでしたっけ?このエレベーターはちょうど、扉がこれ以上開かないようにするためのくさびのポジションになってるんですよ。こう、ガッとね、差し込んだんです。」

「…聞いてない。聞いてないし。あっもしかしてあれ?榊原さんが入って来た時に投げた何か?」

「よく見てましたね。よい観察眼です。素質がありますねえ。」

なんの素質かは突っ込むまい。

「ここが落ちたらって、もしかしてだからさっきから攻撃されてるの?」

「そうです。あちらからしたら邪魔でしかないですから。考えてもみてください。手に届く位置にご馳走様があるのに、あと一歩で届かなかったら怒っちゃうでしょう?」

「怒っちゃう…そうね、まあお腹空いてる時って怒りっぽくなるから…ちなみに、仮によ、仮にここが落ちたらどうなるの?」

「現世に魔物が溢れて、喰われたり、天災が起きたり、まあカオスですね。」

「カオス!」

「大丈夫です、あなたと僕はいいコンビですから。今年はちょっと押しが激しいですけど。」

「それは!なんでか!聞いておいたほうがいいのっ!?」

真希はモグラ叩きを続けながら聞いた。


「ステイホームの影響です。」

榊原は深刻な顔でため息をついた。

「は?」

今日1日で一生分の『は?』を言ったんじゃないだろうか。

「ステイホームだったじゃないですか、ここ数年。で、最近移動が多くなったでしょ。だからです。」

「分かんないから。あなた、蘊蓄うんちく垂れるの好きなくせに説明かっ飛ばしすぎよ。」


榊原曰く。


世界は破壊と修復を繰り返しているそうだ。

命あるものは死に、形あるものは壊れる。

世界は巡って、また新たなものが生まれる。

破壊の先には修復が。その先にはまた破壊が。

そのサイクルを、飽きもせず、延々と繰り返すのが世界の摂理。


だから、と榊原は続ける。

永遠の命や、永久に形を変えない物を作り出そうとすることは不可能だ。

不自然な物はこの世から異物だと認識されて排除されるから。


結んで、開いて

壊して、直して

破壊と修復を繰り返しながら、世界は回る。

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