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「今年は 6/21が夏至です。厳密に言うと、 世界時で14:58が 夏至の瞬間ですね。」

「夏至の瞬間?」

「はい、太陽黄経がちょうど90度になる瞬間です。便宜上、一日丸ごと夏至と言っていますが、狭義ではこの瞬間を夏至と呼ぶのですよ。」

「なるほど…」

とりあえず頷いてみたが、すでに頭の上を通り過ぎている。待って、えっと…

ちらっと榊原を見ると、穏やかな顔で真希を見つめている。理解の遅い真希を馬鹿にするつもりはなさそうだ。真希は一息つくと、考えた。


えっと、地球は毎日一周回ってて、で、クルクル回ってる地球は太陽の周りを一年かけて回ってるのよね?で、太陽ナンチャラっていうのがなんかこういい感じに90度になるのが夏至の日。で、きっちり90度になるのが夏至の瞬間。


「そうです。」

榊原は先生のように頷いた。

えっ、私、声に出してた!?


「それで、この14:58というのはあくまで世界時なんですね。日本の時刻は世界時からプラス9時間ですので、夏至の瞬間は23:58なんですよ。」


23:58…?それって…

ちょうど真希がエレベーターに乗り込んだくらいの時刻ではないだろうか。

嫌な予感に背中に汗が伝った。


「今年は特に厄介なんですよ。なんせ夏至の瞬間が深夜なもので、21日と22日の日付を跨ぐか跨がないかっていう微妙なタイミングなんです。一応、公式には21日ってことになってますが、真夜中の日付が変わるタイミングですからね、まあ扉も開きやすいのなんのって。ただでさえ、日付が変わる瞬間というのは普段でも扉も開きやすいというのに。」

榊原がはあーとため息をついた。

「……………」


「ああ、北極圏ではこの季節は白夜びゃくやですね。ロマンチックだなぁ。」

のほほんと榊原が微笑んだ。

真希は口を開いては閉じ、開いては閉じた。


えっと、もしかして。その、もしかしてなんだけど…それって今?ナウな感じ?


真希は尻ポケットに突っ込んでいたスマホを取り出した。

てか、なんで電話で助けを呼ばなかったんだろう。やはり相当パニクってたらしい。

時刻は23:58のままで止まっている。


「ああ、扉に固定されちゃいましたね。それ、もう使えないですよ。」

真希のスマホを見た榊原が軽く言った。

「使えないって!困るし!新しいのにしたばっかりなのに!」

「うーん、使い続けてもいいけど扉が開きっぱなしになりますよ。」

僕がいつでも助けてあげますけど、と榊原が付け加える。


よし。買い換えよう。


「扉が開く開くって言うけど、開くとどうなるの?」

「魔の扉が開くと魔の物が入ってきますね。」


そうよね、やっぱそういう流れだよね。


「夏至に限らず、小さい穴ならしょっちゅう開いてるんですよ。だいたいはこの世の力で淘汰されますが。でも今夜は扉という形で開いてしまった。ドアがあったらくぐりたくなるでしょう?」

「…まあ確かに。」

どのドアでも節操なしに開けたりはしないけど、ちょっと開いてたら隙間から中を覗きたくなる気持ちは分かる。チラリズムってやつだ。


「夏至に話を戻しますけど、夏至とは太陽の力が最も強まる日なんです。太陽の光には浄化作用があるので、雑魚は日の光だけで滅されるし、強い魔物も弱まる。」

「じゃあ魔物は入ってこれないってことでしょ?」

「まあそうなんですが、太陽の力が一番強いってことは、裏を返せば夜の力が一番弱いってことですからね。夜は夜で浄化効果があるのに、それがうまく作用しないから、太陽の力を潜り抜けた猛者が夜は元気になって活動しちゃうんですよねー。」

はははと榊原が笑う。


おい、人ごとか。


「我々も手をこまねいて見てるわけではなくてですね、一応バリケードみたいな結界を張る努力はしているんですが…全てに張るのは不可能ですから。あとは地道に穴を見つけて塞ぐか魔物を蹴散らすかしないといけないんです。」

なんか嫌な予感がするぞ。

「…で?」

「で、今年はここらへんに穴が開きそうだという予想が出てたので、僕が来ました。」

榊原は両手を広げた。ちゃらーんという効果音が聞こえてきそうだ。

「そんなのもっとちゃんとにアナウンスしといてよ!」

「しましたよ。夜間エレベーター使用禁止の貼り紙見てませんか?」


…貼り紙?

真希は目を細めた。


榊原は壁に貼ってある白黒コピーのお知らせを指した。

そこには6/21深夜はエレベーターが使用禁止になるので気をつけるように書いてあった。


「あー、すっかり景色の一部になってたわ。仕事忙しかったし。それどころじゃなかったっていうか…」

真希の声がだんだん小さくなっていく。

やばい。これまさか。

「本当はこのビル自体を立ち入り禁止にしたかったんですが、管理会社と揉めましてね。じゃあせめてエレベーターだけでもって話になったんですが…」

榊原になんでいるんだよという目で見られた真希は、そっと目を逸らした。

寝不足で仮眠室で寝こけてましたなんて言えない。

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