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「はい。携帯型です。組み立てるのにちょっと時間がかかっちゃうんですけど。」

「銃刀法って知ってる!?違法だからっ!」

「大丈夫です。3Dプリンタでこっそり作ってるんで。」

ナイショ、と榊原はしーっと指を口の前に持ってきた。

「いや、思いっきり違法だからっ!」

思わず魔物を叩くハンマーにも力が入る。榊原と無駄なおしゃべりをしているうちに数が増えていたのだ。

ピカン!と軽快な効果音を出して消えていく魔物は、あいかわらずサービス精神旺盛だ。

「真希さん、ちょっとこの辺りだけノーマークにしてもらえます?」

榊原が真希の腰の高さの位置にある小さな穴を手で指した。

「うん、いいけど。でも中に入ってきちゃうよ?」

「大丈夫です。きちんと退治しますから。」


この辺りだと叩かれないと気づいた魔物たちは、案の定その小さな穴に集中し出した。

我も我もと押し寄せるので、穴が詰まっている。中に入って来た魔物だけのんびりと、でも確実に仕留めている榊原は、実に楽しそうだ。

「ちょっと!穴広がってるわよ!」

真希が慌てて指摘してもどこ吹く風だ。

手のひらサイズだった穴は次第にスイカ大ほどの大きさになった。入ってくる魔物も当然大きめのものになる。

こりゃ叩いた方がいいな。真希がハンマーを構えると、榊原が手をヒラヒラさせて払った。

イラッ

「なによ?」

榊原はメシメシと音を立てて今にも胴体が入り込みそうな魔物の頭にバズーカの銃口を押し付けると、そのままガッと押した。

—— ギェぇぇぇ

魔物の怒った声が響いた。押し戻された魔物が暴れているのか、バズーカが揺れている。

「なっ——」

何してんのよっ!と言いかけた真希の声は、銃声にかき消された。


——ドン!

——ドン!

——ドン!


榊原の担ぎ込んだバズーカは、発射されるたびに大きく揺れる。が、榊原は微動だにしない。

「なっ…」

唖然として榊原を見つめる真希の方を見て、榊原はにこっと笑った。

「あ、安心して下さい。水鉄砲の大きいやつですから。銃弾も残らないしエコですよ。」

…そういう問題…なのかな。うん、もうそういうことでいいと思う。


——ドン!

——ギェェェェェェ


——ドン!

——ギャオー


——ドン!

——キーキーキー


銃声と魔物の雄叫びが混じり合う。

——ゴォォォォ!

怒り狂った魔物の衝撃波が、エレベーターの中に響いた。


——ドン!


いった…くない。あんまり。

壁に叩きつけられそうになった真希を抱え込んで、代わりに壁に衝突したのは榊原だった。

「大丈夫?」

真希は榊原の頬に手を添えた。間抜け丸メガネがずれている。

榊原はゆっくりと閉じていた目を開けた。吸い込まれそうなアイスブルー。きれいな海を閉じ込めたような色だ。

瞬きもせず真希を見つめる瞳を、真希も見つめ返す。

きれい…

真希は知らず知らずのうちに顔を寄せていく。

榊原の顔がわずかに傾いた。唇が触れるまであと数センチ…のところで榊原の頭の上に何かが乗った。

「おりゃっ!」

真希は握りしめていたハンマーで榊原の頭を打った。


—— ぴょろん

間抜けな音を出して魔物が消えた。


「…………」

「…………」

「ご、ごめん。つい。」

ちっ、あと少しだったのに。と小さく舌打ちした榊原を押し退けて、真希は立った。

あんたも早く立ちなさいよ、と冷たい目で榊原を見ると、榊原はしぶしぶ立ち上がった。


「さ、僕は遠くの魔物を退治しますから、真希さんは近場のやつお願いしますね。」

「わかったわよ、やりゃいいんでしょ、やりゃあ!」

ヤケになった真希は最後の力を振り絞って叩いた。ひたすら叩いて、叩いて、叩きまくった。


……

…………

……………


「…さん、きさん、真希さん!」

手首をガッと掴まれた真希は、反射で敵を床に沈めた。

と思ったらひっくり返っているのは榊原だった。

「あたたたた」

したたかに腰を打ったらしい榊原が腰をさすっている。

「…悪かったわよ。でも榊原さんがいきなり掴むから。」

バツの悪そうな顔をして謝った真希を、榊原は何かを期待するような目で見上げている。

真希が手を差し伸べると、榊原は嬉しそうにその手を掴んであっさりと起き上がった。

コイツっ

真希が拳を握りしめたところで、榊原が告げた。

「真希さん、夜明けですよ。」

「え?」

真希が周りを見渡すと、ずっと暗かったエレベーター内がほんのり明るくなっている。

「僕たちの初夜が明けますね。あ、夜明けのコーヒーを飲みましょうね。嬉しいなあ。僕の長年の夢だったんですよ。」

いつのまにか榊原が真希の腰を抱いていた。

真希はそれを無言で振り払った。

ペシリといい音が鳴った。

榊原は嬉しそうに叩かれた手を撫でている。


…Mなのかしら?

一瞬そう思った真希だったが、割とどっちでもよかった。私には関係ない。

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