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「人や物が移動することでも世界は壊れるんですよ。」

「壊れるの?」

「ええ、悪いことではないのです。筋肉と一緒です。運動すると筋肉痛になりますよね?特に激しい運動だと。」

「なるわね。」


最近忙しくて道場にも行ってないな。週末は時間捻り出して行くか。

…ここから出られたらだけど。


「数日経つと治るじゃないですか。それです。」

「うーん、つまり、筋肉繊維が壊れて、それを修復することで強くなるってやつね。」

榊原の微妙にかっ飛ばした説明にも慣れてきた。

「はい。人や物の移動で壊れた世界は、世界の修復力でより靭い、しなやかな世界になります。…だだですね、ここ数年、世界が滞っていたので…そのサイクルが上手く機能していないんですよ。いわば箱入り娘状態で。」

「箱入り娘って。か弱そうね。」

「そうなんです。それだけでも困っちゃうんですが、ここ最近で一気に人が動き出しましたでしょう?箱入り娘がいきなり外に出て走り出したようなものですから。修復力が付いていってないんです。」

「あー…それは大変だわ。」

「ええ。全身打撲に骨折に日光アレルギーです。」


満身創痍か。


「なので、」

榊原はぐぐっと距離を詰めると真希の両肩をがしっと掴んだ。


「真希さん。あなたが欲しい。」

ドキッ

真希の心臓が跳ねた。

「え、なっ何言ってるの?」

真希は榊原の目を見れずに手元のハンマーを見つめた。

「その機敏さ。体力。瞬発力。柔軟な思考。ウチで働きませんか?」

「は?」

「魔安に転職しましょう。僕にはあなたが必要です。」


…なんだ、そっちか。

そっちってなんだ。他になにがあるというのだ!


「面接はクリアです。実技も問題ないです。僕の裁量で合格させます。ぜひ。」

「嫌よ、大変そうだもの。」

「ウチは優良企業ですよ!企業じゃないけど!お願いします!人手不足なんです!」

「人手不足なんてブラックの匂いがするから嫌!今以上に忙しいなんて死ぬわ。」

午前様どころか榊原さんは深夜勤務じゃないか。絶対にごめん被る。


「年休は40日です。」

「…え?」

「有給で40日。もちろん土日分は別です。変則勤務にはなりますが、逆に言えば連休取り放題です。」

「嫌よ。どうせそんなの見せかけだけで取れないんでしょ?『君、有給なんて取れると思ってるのか?』とか言われるんでしょ、入った途端。騙されないわよ。」

「ウチはきっちり有給は消化させる方針でして。部下に有給消化させないと僕が上から怒られちゃうんですよ。」

「…あなた偉い人なの?」

思いっきり、お前が?という目で見てしまったのはしょうがないと思う。

よれよれのスーツ、威厳のなさ、どう見てもヒラだろう。


榊原は鼻をクシュっと歪めてしょっぱい顔をした。

「僕だって役職になんか就きたくなかった…なのに前任者が花粉の責任を取ってヒラに戻されちゃったんですよ。まあ確かに、控えめに言っても、すごく、すごく大変でしたけど。あ、真希さん今年の花粉は大丈夫でした?」

「花粉?花粉症?うん、私なったことない。」

小さい頃から山を駆け回っていた真希は、アレルギーを発症したことはない。

花粉の時期は大変そうだなとは思うけど、こればっかりは気持ちを分かってあげられない。

「それは良かったです。今年の花粉は酷かったから。」

にこにこしながら榊原が言う。

何がどう大変で酷かったのか、もう細かいことには突っ込むまいと真希は決めた。榊原トリセツが出来上がりつつある。

「…で、あなたが上司なのね?もし!もしよ、私が転職したら。」

「はい!あっ、でも僕は平等主義の理念を掲げていまして。同僚として接していただければ。あと、真希さんの研修およびサポートは全て僕がしますので。手取り足取り。ふふ。未来のバディの誕生ですね。」

「まだ行くって決めてないから!それよりここなんとかしましょうよ!」

「はい!楽しみができたらやる気が出てきました!いいところを見せてアピールします!」


今まではやる気がなかったのかい。


榊原はよれよれのスーツの上着から金属のパーツを大量に取り出すと、一つづ組み立てていった。

ふんふんと鼻歌でも歌い出しそうなくらいご機嫌だ。

真希はその様子を横目で見ながら、突っ込むまい、突っ込むまいと思っていても、ついつい突っ込んでしまう。

「…ナニ、それ。」

「バズーカですよお。」

「バズーカ!?」

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