表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者のために全てを奪われた男は復讐を決意する ~でも勇者がへっぼこ過ぎてその前に死にそうなんですけど~  作者: 水無月 黒


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/53

第十五話 勇者の能力

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

「いいね」ありがとうございました。

 今勇者が使っている剣とブレストプレートは、俺がダンジョンで見つけた魔道具(マジックアイテム)だ。

 魔剣は第二十五階層、ブレストプレートは第二十六階層で見つけた宝箱から出てきた。

 俺はこの二つの装備を手に入れてから、冒険者として大きく活躍できるようになったと言っても過言ではない。

 もっとも、この二つの装備があればだれでも活躍できるかというと、そんなことはない。

 まず、ブレストプレートだが、魔力を流すことで見えない魔力の鎧を作ることができる。この能力により、胸部だけでなく全身を守ることができるのだ。

 非常に便利な能力なのだが、その代償として魔力の消費が激しい。

 魔力の鎧を出しっぱなしにしているとすぐに魔力切れになるから、俺は本当に危ないときに一瞬だけ魔力の鎧を出すことにしていた。実際に使ったことはほとんどない。

 まあ、魔力の鎧無しでも軽くて丈夫な防具として非常に役に立っていたしな。

 今の俺ならば魔力も増えたからもう少し余裕をもって使えるだろうし、勇者も魔力が多いのか普通に魔力の鎧を使っていた。だが、普通の冒険者に使いこなせるものではないだろう。

 それよりも、俺にとって役立ったのは、サイズの調整が要らなかったことだ。

 普通、防具は使う者の体形に合わせて調整する必要がある。ちゃんと調整しないと防具に動きを阻害されてしまうこともある。

 紐やベルトである程度調整できる場合もあるが、鍛冶屋など専門家に頼んで本格的に調整しなければならないことも多い。

 ところがこのブレストプレートは、装着者に合わせて自動で大きさや細かい形状を変化させることができる。その際にも魔力を消費するが、安全な場所でやれば魔力切れになっても問題はない。

 細かなデザインも変えられるから、今勇者が使っているブレストプレートは俺が使っていた頃とちょっと形が違っている。たぶん勇者の趣味なのだろう。

 更に汚れや傷、多少の破損は時間と共に勝手に修復され、魔力を流してやれば修復を早めることもできる。

 非情に手のかからない防具だ。

 魔剣の方も似たようなものだ。

 魔剣と呼んではいるが、魔力を使って攻撃力を高めるような能力はない。

 ただ、非常に頑丈で切れ味も鈍らない優秀な剣だ。

 普通、剣なんてものはある意味消耗品だ。

 魔物を何体も斬っていれば刃は欠け、血や脂や変な体液が付いて切れ味が鈍って来る。

 特に硬い魔物を下手な太刀筋で強引に斬り付けたりしたら、剣がぽっきり折れてしまうこともある。

 ところが、俺の魔剣は何十体も魔物を斬っても刃毀れ一つできないし、切れ味も鈍らない。

 多少傷がついたとしても、魔力を流してやれば新品同様にきれいに直る。

 冒険者にとって、もっとも金がかかるのは武器や防具と言った装備だ。

 命がかかっているだけに、安物で済ませるのは不安がある。

 しかし、優秀な武具は非常に高い。さらに整備にも金がかかる。

 安物の装備を使い潰しながら安全で報酬の低い依頼(クエスト)を数多くこなすか、高価な装備を揃えて危険で報酬の高い依頼(クエスト)で大きく稼ぐか、多くの冒険者の悩みだ。

 ところが、俺は魔剣とブレストプレートを手に入れたことで、俺はその悩みから解放された。

 手入れは魔力を流して軽く拭くだけでよいのだ。

 専門家に頼む必要が無いから整備に金がかからない。

 摩耗して薄くなったり、砥ぎ直すうちに剣身が痩せたりしないから買い替える必要もない。

 整備に出した装備が戻って来るまで仕事ができなくなることもない。

 おかげで、自分の実力に見合った依頼(クエスト)を選び、無理のないペースで仕事を行うことができた。

 これが、俺が冒険者として活躍できた理由だ。

 別に、強い武器を持ったからいきなり強くなるなんてことはない。

 魔剣は丈夫な剣に過ぎないから剣の腕が無いと棒切れと大差ない。

 ブレストプレートは胸部しか守ってくれないし、魔力の鎧を乱用すれば多少魔力が多くても魔力切れを起こしてピンチに陥るだろう。

 聖剣とかなんとか変な名前を付けて勇者に渡しても、素人丸出しの勇者がいきなり強くなることはあり得ない。

 そのはずなんだが――


「うおぉ~! ワイドスラッシュ!!」


 勇者が大きく水平に魔剣を振ると、どう見ても剣が届かないはずの位置にいたゴブリンがまとめて斬り裂かれた。

 何なんだ、あれは!?

 振った剣先から円弧状の()()が飛び出してゴブリンを斬ったように見えたが、もちろん俺の魔剣にそんな能力はない。

 俺だって魔剣を手に入れてからいろいろと試してみたのだ、間違いない。

 すると、今のは勇者の能力と考えるしかない。

 先ほど、「新しいスキルを覚えた」とか言っていたから、それを試したのだろう。

 なんか、思ったのと違う。

 勇者はただ魔剣を振っただけのように見えた。あれのどこに技術(スキル)があるのだろう?

 少なくとも剣士の技術(スキル)とか冒険者の技術(スキル)とかいうものとは何か根本的に違う気がする。

 見た感じは魔法に近いんだが、魔力が動いた気配がない。正確には、剣先から飛んで行った()()は魔力を感じたが、魔法を使ったとき特有の魔力の動きを感じられなかった。

 そう言えば、魔物にも変な能力を使うやつがいたな。見た目は魔法っぽいし魔力を使っているんだが、魔力の動きが魔法とは違うし、魔法ほど応用が利かなくて同じことしかできないやつ。

 勇者の言う「スキル」も技術(スキル)のことじゃなくて、勇者専用の特殊能力とみるべきか?

 そう考えると、勇者を敵に回すのはなかなかに面倒だな。

 初見の魔物が厄介なのは、攻撃方法が分からないことにある。似たような魔物から推測できる場合も多いのだが、たまに予想もしなかった特殊能力を持っていることもある。

 勇者に対しても同じことが言える。

 さっきの攻撃なんか、知らなければ間合いを間違えてただ闇雲に剣を振ったようにしか見えない。勇者、素人っぽいし。

 それに、「新しいスキルを覚えた」と言っていたわけだから、他にも「スキル」を持っているということだ。これからも増えるかもしれない。

 複数の特殊能力を持つ魔物は、能力が分かっていたとしても、どの能力をどう使って来るか分からないから危険だ。

 勇者もこのまま強くなって行けば、簡単には死ななくなるだろう。状況に応じて「スキル」を適切に使い分ける応用力を身に着ければ、北の荒野を渡って魔王の元に行き着くことも不可能ではない。

 復讐の相手としては厄介になるが、まあやりようはある。


 そろそろ終わったようだな。

 今回出くわした集団は、ゴブリンが十二匹。統率個体(リーダー)を含めて全て槍を持つという極端な群れだった。

 ゴブリンの持つ短い槍でも剣よりは長い。素人っぽい動きの勇者では、槍を掻い潜ってゴブリンに肉薄するのは難しい。

 これまでの勇者だったら苦戦するはずだったが、勇者の「スキル」――どうやら「ワイドスラッシュ」というらしい――を乱発するだけであっさりと終わってしまった。

 訓練としてはこれでいいのかと思わないでもないが、勇者の新しい能力の確認はできただろう。


 その後も第十階層の安全地帯(セーフエリア)を拠点にして何度かゴブリンの群れと戦った。

 勇者は相変わらず素人っぽい動きで、危なっかしく見えるのだが、大した怪我もなく倒してしまっている。

 結果的に見れば、勇者の実力は第十階層の魔物に対して圧勝……で、いいのか?

 今回の目的を達したと判断したのか、単なる時間切れか、勇者一行は置いておいた荷物を回収して引き上げて行った。

 勇者たちが拠点にした安全地帯(セーフエリア)は第九階層へのショートカットがある場所だ。

 勇者一行は設置されている縄梯子を登って第九階層へ行った。そこから先は、往きと同じように二日かけて戻るのだろう。

 俺はどこからでもショートカットできるから、勇者一行を見送った後に適当に引き上げよう。

 オークとか、単体でゴブリンよりも強い魔物と勇者がどう戦うかも見てみたい気もするが、今回はまあ良いだろう。


 そう言えば、勇者たちの会話を聞いていて分かったのだが、ゴブリンを斬りつけていた動作自体も「スキル」だったらしい。

 斬る瞬間だけ妙に動きがまともだと思ったら、「スキル」の力であの動きができているらしい。

 剣を振って斬るのは、訓練して覚える技術(スキル)だと思うんだがなぁ……本当に、勇者の能力はよく分からない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ