ハイエルフと侍とアコライト
大陸から南西に位置する『ナラク島』。
およそ1世紀前、広大な海原に突如として現れた孤島に、総勢43名の調査隊が上陸した。
調査は順調に進み、特に変わった事も無く、航路としてはあまり使われない海域だったため、見落としていただけだろう、そう断定されようとしていたが、島の中央付近を調査していた班が一つの洞穴を発見する。
大した広さでは無いだろうと、発見した班の半数である4名の者達が洞穴に潜り、調査を始めた。
日が落ちる頃には粗方の調査も終わり、帰り支度を始めようとしていた調査隊がある事に気付く。
島の中央に行った班が戻っていない。
予定していた時刻を過ぎても戻らない調査班。
もしや魔物に襲われでもしたのではないか。
そう思い、隊長であった男は船に戻ってきた隊員を20名残し、残りの15名で再び島降り立った。
15人の調査隊は微かな月明かりとランタンを片手に中央付近を探索していると、失踪した者の荷物と洞穴を発見する。
おそらく洞穴に潜り、何かあったのだろう。そう思った隊長は、自身を含む10名の調査員で洞穴に潜った。
以下、隊長が残した調査日誌にはこう記されていた。
『探索1日目。失踪した調査班の捜索途中に発見した洞穴の調査を開始。私を含む10名の調査員で捜索を行ったところ、200メートルほど進んだ場所に調査した痕跡と班長であったダイグの帽子を発見。間違いなく消えた調査班はここに入った様だ。中は思った以上に深く、ランタンの燃料が尽きかけ、これ以上の捜索は不可能。一時帰還する事になった。ダイグが並大抵の魔物にやられる事は無いだろう。またランタンの燃料が持たない可能性があるため、一先ず船に帰還して明かりの呪文が使えるヤードを連れて行く事にした』
『探索2日目。日が登ると共に捜索を再開。ほぼ一本道だがかなり深い。ヤードを連れて行って正解だった。失踪した者を見つける事はできなかったが、代わりに凄い物を見つけた。遺跡だ。それもかなり広い。周囲に魔物の気配が無かったため、一旦休息を取る事にした』
『探索2日目正午。我々は歴史的な発見をしてしまったのかも知れない。同伴していた考古学者のエレンが調査したところ、見た事もない遺跡だと判明した。歴史や地域も不明。石造りの柱や祠の様な物があるものの、人が生活していたであろう痕跡などは見つからなかった。ヤードが微かな魔力の痕跡と魔法陣の様な物があったことから、神殿や何かの儀式を行っていた場所では無いかと推測した。依然、失踪した物達が見つからない。しかし、これ以上の規模になると、食糧や物資が足らない可能性が出てきた』
『探索3日目。昨晩、遺跡の最奥で見つけた祠に扉のようなものを見つけた。扉の前には燃料の切れたランタンが見つかった。どうやら失踪した者達はこの先に進んで行ったようだ。しかし、不可解な事がある。失踪した班は半日程度の物資しか持たずに、何故、遺跡の奥に進んで行ったのだろうか。おそらく食糧も燃料もとうに尽きているはずだ』
『探索3日目正午。扉の先に進むと、失踪していたダイグの班の1人が死体で見つかった。死後2日目くらいだろうか。胸の傷が致命傷になったと見られる。猛獣の爪の様な物で引っ掻かれた傷跡だ。近くに魔物がいるのかもしれない。早急に残る班員を捜索しなければ』
以降、数ページは血がついていて読めない。
辛うじて読めた最後の数ページにはこう記されていた。
『この遺跡に入って何日か経った。時計も壊れ、魔物から逃げ続けているため時間も分からない。撤退しようにも入ってきた扉が開かず、魔物から逃げる様に奥に進むしかなかった。ここは遺跡じゃ無い。ダンジョンだったのだ。進むに連れて見た事も無い魔物や、古代魔法で作られたであろう魔導具、この文明で使われていた金貨が多数発見された。しかし、生き残っているのは私とヤードだけだ。これほどの貴重なものを持ち帰ることはできそうに無い』
『隊長が死んだ。私は運良く生き延びたが、魔力も尽きかけ、体力も限界だ。ダンジョン内で見つけたスクロールに空間移動のような術式が記されていた。魔法史上で空間移動に成功した者いないが、この魔力の満ちたダンジョンと、この術式があれば可能になるかもしれない。しかし、空間移動で人を転送するには魔力が足らない。なので私の生命力を全て魔力に変換し、このスクロールと魔導具や金貨、そしてこの日誌の転送を試みようと思う。もし、転送に成功していたら、願わくば私達の後を継いで調査を進めて欲しい。このダンジョンは何かがおかしい。まるで扉の先が別空間に繋がっているようだ。このダンジョンを解明していけば、人類史に大きな発展をもたらす可能性があるだろう––––––––』
「––––と、言うのがこのダンジョンを発見された時の記録となっています。ここまで質問のある方はいらっしゃいますか?いなければ休憩を挟んでから、ダンジョンに入る際の規則の説明に入らせてもらいますね」
大陸の南西に浮かぶ孤島「ナラク島」。
現在では生き残った調査隊によって建てられたギルド本部を中心に、ダンジョン外には魔物が現れることは滅多になかった為、探索者達を向かえ入れる為の港が作られた。未知なるダンジョンの財宝や黄金を求める探索人が急増し、物資の武器の補給に目をつけて移住した商人達が宿屋、商店、酒場なども作り、1つの街として機能していた。
「あー…この講習ってやつはいつになったら終わるんだろうなぁ」
フードを目深に被った1人の少年が、椅子に大きく背をもたらせながら、天井に向かい呟いた。
「それにしてもお腹が空いたな。お昼を跨いで埃被ったような与太話を聞かせるくらいなら、島の名産品で作ったランチの1つでも出すべきだと僕は思うんだ。ねぇ、君もそう思うだろう?」
「むっ」
少年は天井からさらに後ろへ視線を逸らし、講習が終わる5分ほど前から握り飯をムシャつき始めていた少女に話しかけた。
「むっ、むぐ…」
突然話しかけられた少女は両頬を膨らませていた米粒をゴクリと飲み込み、竹筒中身を飲み干して一息ついた。
「ふぅ。見苦しいとこを見せてしまったな」
「何食べてたの?」
「握り飯だが。腹が減ってるなら一つどうだ?」
机の上にあった布の小包を解き、笹の葉で巻いた握り飯を差し出す。
「出立前に母上から賜った物なのでな。日が経っているので少々固くなっているが美味いぞ」
「ちょーだい」
少年は上下逆さのまま大口を開いた。
「無作法だが豪快な奴だな。心して味わえよ」
拳ほどの握り飯を少年の口にねじ込み、少女は残った方を自身の口に頬張る。
少年はモゴモゴと咀嚼を繰り返し、ゴクリ、と喉の音を立てて握り飯を飲み込んだ。
「ありがと。おいしかったよ」
「うむ。やはり母上が握った物は最高だ」
「ちょっと硬かったけどね。悪いんだけど、水をもらえないかな?」
「すまん、先程飲み干してしまってな」
そう言って少女は空の竹筒を揺らした。
「あの」
「?」
少年の横に座っていた白いローブを着た金髪の女性が声をかけた。
「これ、良ければどうぞ」
銀装飾を施された透明の瓶を差し出す。
「いいの?」
「はい。ただのお水ですけど」
「かたじけない」
差し出された瓶を半ば強引に受け取った少女が、豪快に音を鳴らしながら水を流し込んだ。
「えっ。君が飲む流れだったの?」
「ングッ…す、すまん、喉がつかえて…」
「ふふ。全部飲んでも良いですからね」
「いや、僕も飲みたいんだけど。少しでいいから残してよね」
「承知した」
少年が瓶底に残った僅かな水を飲み干し、一息ついたところで金髪の女性が話し始める。
「お2人ともお若いようですけど、『狭間』に行かれるのですか?」
「うん。ちょっと気になる事があるんだ」
「拙者は人探しだ。『狭間』とやらに行くつもりはなかったのだが、この島に来たらまずこの講習を受けねばならぬと言われたのでな」
「人探し…ですか。早く見つかるといいですね。この島にあまり長居はしない方が良いと思うので…」
「何か危険な事でもあるのか?」
金髪の女性が顔を曇らせて恐々に話す。
「…ダンジョン内の魔物が更に凶暴になってきてるみたいなんです。一説によると何か強大な魔力を持つ魔物が動き回っているとか」
「あぁ、そういえば船でそんな話をしてた人がいたなぁ」
「普段はさほど脅威にならない低階層の魔物にすら、熟練した探索者でも手を焼くほどになってきているらしいですよ」
「ふーん…別にダンジョンの外に魔物が出てくるって話は聞いた事ないから、のんびり探しててもいいんじゃないの?」
「確かにダンジョン内の魔物が出てくる事はないのですが、ここ最近、近海の魔物達の動きも活発になってるみたいなんです。この近海の主と呼ばれる、大型の帆船くらいの怪魚や、海の悪魔と呼ばれる巨大な触手を持った魔物が次々と船を襲っていると聞きました」
「帆船ほどの大きさの魚……」
少女が顎に手を当てながら呟く。
「…ああ!此処へ来る途中に襲ってきた奴か!」
金髪の女性が驚いた表情をした。
「う、海の主と出会ったのですか!?」
「うむ、あれ程の大きさの魚は初めて見たぞ」
「よく無事でしたね…襲われたら一溜まりも無いと聞いていましたが、いったいどのようにして逃げ延びたのですか?」
「逃げる?正面から3枚に卸してやったが」
「はい?」
あっけらかんと答えた少女に思わず聞き返した。
「いや、船を壊されては敵わぬからな。あの巨体で向かってくるなら切り捨てるしか無かろう」
「……冗談ですよね?」
「拙者は冗談が嫌いだ」
「そ、そうですか……」
主と呼ばれる怪魚を本当に倒したかは定かでは無いが、少女の真っ直ぐな瞳を見ていると嘘をついているようには思えなかった。
「君、強いんだね。その服装、東の国のサムライでしょ?そこに立てかけてあるのはカタナってやつ?」
「うむ。師匠からの賜った愛刀だ。銘は無いが切れ味は確かだぞ」
「あ、そういえば自己紹介がまだでしたね。私は神官見習いのアルマと言います。大陸の北方、サレムから来ました」
「僕はアルベル。職業は…賢者だと思う」
「その若さで賢者…?失礼ですが、アルベルさんはおいくつなのですか?」
「ん?100を過ぎた辺りから数えてないけど」
「100?100と言うのは年齢の事を言っているのか?」
少女は首を傾けてアルベルと名乗る少年の顔を覗き込もうとした。
「そうだけど……あ、ごめん。もしかして気づいてなかったかな」
少年が目深に被ったフードをめくる。
「わぁ…!」
「これは…なんとも…」
しなやかで美しい銀髪。宝石のような紺碧の瞳。
中性的で美しいとも思える顔の造形から横長に尖った耳は、もはや一種の芸術品といっても過言ではなかった。
「エルフ…だったのですね。お会いしたエルフの方々はどなたも美しかったのですが、アルベルさんの様な綺麗な瞳の方は初めてです」
「ありがと」
「話には聞いていたが、これほどの麗人とはな。すまぬ、年上の者とは知らずに無礼をはたらいてしまったな」
「気にしないで良いよ。エルフは長命で歳取るのは遅いけど、精神年齢は見た目のままだから」
「…?以前お会いしたエルフの方は50歳と仰っていましたが、人間の成人男性くらいの外見をしていたような…」
アルマが首を傾げながら疑問を問いかけた。
「それは多分、普通のエルフの人だったんじゃない?僕はエルフと言っても上位種だからね。普通のエルフより更に10倍くらい寿命長いし」
「ハ、ハイエルフ!?」
思わず大きな声を上げると、同じ部屋にいた他数名がアルマの方を向いた。
「今、あの女…ハイエルフって言わなかったか?」
「…あそこに座ってる耳長の小僧が…?」
「馬鹿言うなよ。そんな伝説とも言える様な奴がここにいるわけないだろ」
「でもよ、もし本物だとしたら…」
周囲がざわつき、アルベルの方に視線が集まる。
物珍しさとは違う、財宝を見つけた時の様な卑しい視線を感じた。
「はっはっは!アルマ殿は面白いクシャミをするのだな!」
「えっ……」
「顔に似合わぬ豪快なクシャミだ!今度から拙者も真似させてもらおう!」
少女が大声で視線を笑い飛ばす。
「…クシャミかよ。紛らわしい」
「驚かせやがって…」
「しかしあの金髪女、かなりの上玉だな」
「ああ。胸もでかいしな。後で声かけてみるか」
今度はアルマに先程とは違う視線が向けられた。
察したアルマが顔を赤らめながら縮こまる。
「ご、ごめんなさい…」
「僕はバレても問題ないんだけど。それはそうと、もうちょっと他の誤魔化し方があったんじゃ無いの?」
チラリと視線を少女にやる。
「やり過ごせたから良いでは無いか。事を荒立てるよりはマシであろう」
「あれで騙される人達もどうかと思うけどね」
「ハイエルフとはまたも驚いたぞ。しかし、ハイエルフと知られたら蒐集家が黙ってはいないのではないか?」
見た目が美しく長命であるエルフ族は、人間蒐集家や奴隷商人などから狙われる事が多く、多額の金を払って人身売買される事も少なくは無い。
ハイエルフは極めて稀少な存在あるため、その価値は計り知れないほどだった。
「まぁ、人間に捕まる様なハイエルフはいないと思うよ。普通のエルフとの見分け方なんて瞳の色で判別するくらいしかないし」
再びアルベルが目深にフードを被る。
「君、東のサムライにしてはこっちの事情に詳しいんだね。あそこは閉鎖的だし、他人種について興味持たない人達だと思っていたよ」
「拙者の故郷、アズマ国は今も他国とは関わりを持とうとしてはおらぬ。時代は移り変わるものだ。独自の文化を継いで行くことも大事だと思うが、それではこれ以上の発展も望めぬだろう。故に拙者のような若い世代が先立って新しい風を取り込まねばならんと思ってな」
「あそこの老人達は頭が固いからね。ま、気楽に頑張ると良いんじゃない。えっと…名前はなんだっけ」
「む、名乗るのを忘れていたな。拙者の名はイツキ・キリシマ。イツキと呼んでくれて構わんぞ」
「うん。よろしくね、イツキ」
「……キリ…シマ」
先程まで柔らかで品のある表情をしていたアルマの顔が強張る。
その顔に浮かぶのは恐怖なのか、はたまた怒りや憎悪なのか。
イツキも自身に向けられたアルマの顔に違和感を覚えた。
「……アルマ殿、どうかなされたか?」
声をかけられたアルマがピクリと体を揺らした。
「……え…あ、ごめんなさい。…よろしくお願いしますね」
アルマが何を思っていたか分からないが、イツキは一つだけハッキリと感じとる事ができたものがあった。
(……今の殺気、間違いなく拙者に向けられていたな)
3人の間で少し沈黙が続いたが、扉をノックする音が聞こえると同時にギルドの案内役の女性が部屋に戻ってくる。
「…ん。ギルドの人戻ってきたみたいだね。まーた長い話が始まるのかなぁ」
アルベルは大きな溜息を吐くと、それに応えるように女性は話を始めた。
「それでは講習を再開いたしますね。大した話では無いので、すぐに終わりますからご安心を」
女性は微笑みながら話を続けた。
「まずダンジョン内での規則が2つだけあります。一つ目は、ダンジョン内で冒険者同士の争いは厳禁です。殺人、略奪等が発覚した場合は、大陸の法律に伴い厳重な処罰が下されます」
「もし襲ってきた奴を返り討ちにして殺しちゃったりしたらどうなるのかな?」
アルベルの質問に部屋の空気がピリつく。
「その場合、目撃者等がいた場合は正当防衛と見做されます」
「目撃者がいなかったら?」
「フフ、そうなったら何も無かったことになりますね。ダンジョン内での出来事は全て自己責任でお願いしますね」
「あ、そう。それならいいや」
アルベルの質問に部屋の空気が更に凍てついた。
そして横にいたアルマが青ざめた顔をして固まっている。
「ア、アルベルさん……なんて事を……」
「あくまで確認だよ。確認」
そう言いながらチラリと部屋の角に座っていた集団に目を向ける。男達は一瞬目が合うとすぐに視線を逸らして前を向いた。
「奴ら、先程からアルベル殿にしか目が行っておらぬな」
「それって…もしかして…」
アルマは先程の発言を思い出した。アルベルの事を大きな声でハイエルフと呼んでしまった事を。
「ごめんなさい…私……なんて事を」
「ん?……ああ、さっきのは関係無いよ。あの人達、同じ船に乗ってたんだけど、その時点で気付いていたし」
「それで先程の発言をした、と言うわけだな。『襲ってきても構わないがどうなっても知らんぞ』と言った牽制……いや、脅し、と言ったところか」
「そんなとこだね」
不穏な空気が漂う中、女性は話を再開した。
「二つ目ですが、ダンジョンに入る時は必ずパーティーを組んでください。これはあなた方の命を守るための規則でもあります」
「僕は1人がいいんだけど」
「ダメです。これは先日決まった規則なんですが、ダンジョンの入り口でパーティーの確認を必ず行なってください」
「適当に組んで中で1人になるのはいいの?」
「それは構いませんよ。先程も軽く触れましたが、ダンジョン内での出来事は全て自己責任という形でお願いしますね」
「はいはーい」
「これにて講習は終わりになります。質問等ございましたらギルド内の受付に来てください。それでは冒険者の皆様、幸運を祈ります」
講習が終わると部屋からゾロゾロと人が流れて行く。
部屋にはアルベル、イツキ、アルマの3人が残っていた。
「この3人でパーティー組む?」
「私は構いませんけど、イツキさんはダンジョンに入る予定では無かったはずですよね」
「そうだな…探し人がダンジョンにいるなら話は別だが…」
「じゃあとりあえず島を回ってみたら?それで見つからなかったら一緒に入ろうよ」
「2人を待たせるのはいささか申し訳ないのだが…」
「いいよいいよ。別に急いでるわけじゃ無いし。それにイツキ以外だと入ってから大変なことになりそうだし」
「む…それもそうだな」
2人の会話を理解できないアルマが口を開いた。
「大変なこと…ですか?」
「アルベル殿は先程、『ダンジョン内に入ってから1人になる』と言っていたな。つまりそういう事だ」
「つまり……どういうことですか…?」
イマイチ話が飲み込め無いアルマにアルベルが答えた。
「えーっと…つまり僕がいなくなったら残された人はどうなるのかって話だよ」
「あ…」
アルベルがいなくなる、つまり単純にパーティーが1人減る。
超高難易度のダンジョンにて1人欠けるというのはパーティー全体の命取りにつながる事になのだった。
「で、でもそれだと3人で入った場合、イツキさんと私が2人きりになりますよね…?」
「だからイツキとアルマ以外には頼めないって言ってるんだけど」
「ええ……?」
「アルマって意外と……いや、細かく説明するよ。ぶっちゃけるとあの場にいた全員、烏合の衆もいいとこだ。多分、何十人とパーティー組んでから入るつもりなんだろうけど、浅い階層で全滅するのが目に見えるよ」
ウンウン、とイツキが首を縦に振る。
「正直驚いたぞ。前人未到のダンジョンに挑まんとする者達があの程度だったとはな」
「そうなんですか?…屈強な方が多いと思いましたけど」
「僕の目って結構凄いんだよ。パッと見ただけでどの程度の人間かわかるからね。んで、あそこにいた人達でイツキが圧倒的に強くて、ダンジョンで置いていっても大丈夫って分かったからお願いしてるってわけ」
「拙者とてまだまだ未熟な腕だが、あの場にいた者たちに遅れを取る事はまず無いだろうな」
ポカン、としたアルマがある事に気付いた。
「……あれ?それだと私が着いていく意味は無いですよね?」
「何言ってるの?君だって相当強いはずだよね」
「わ、私がですか!?私はただのアコライトですよ!」
「ただのアコライト?いや、君は……」
アルベルの瞳に映る自分の姿を見たアルマは取り乱した様子で言葉を遮った。
「違います!!わ、私は……!!」
何かを察したアルベルは吐きかけた言葉を飲み込んだ。
「ごめん、悪気があったわけじゃ無いんだ。君の生い立ちを考えれば軽々と口にしていいことでは無かったね」
「いえ……私の方こそ取り乱してしまって…」
イツキが不思議そうな顔をしながらアルマに話しかける。
「過去に何があったかは分からぬが……この島には嫌な空気が流れている。アルマ殿の実力を隠しながら進めるほど甘い場所では無いと思うぞ」
「……はい」
「とりあえず外に出ようか。ギルドの人の目が痛い」
アルベルの視線の先にはギルドの者が早く出ろよ、と言わんばかりの顔で3人を見ている。
「あ…すいません今出ますので」
「拙者は島を一先ず人探しをしようと思うが…」
「んーお腹空いたし、ご飯にしようよ。奢るからさ」
「む、かたじけない。今は手持ちが少ないのでな。ここは甘えさせてもらおう」
「え…いきなり奢ってもらう訳には…」
「いいのいいの。さっき変なこと言っちゃったし、そのお詫びと言っちゃなんだけどさ」
「で、でも……」
「それとパーティー組んでくれたお礼って事でさ。早く行こうよ」
グイグイとアルベルに手を引かれ、アルマは部屋の外に連れ出されていった。
(あれ?私はパーティーに入るのは確定なんですかね?)
アルベル。
イツキ。
アルマ。
この3人、そして破壊神と呼ばれた戦士との出会いがこの島、そして大陸を大きく動かす事になるとはこの時は誰も思っていなかっただろう。
千年ダンジョン『狭間』
難攻不落と呼ばれる魔窟は今日も冒険者を待ち侘びている。
数多の冒険者を飲み込み、その勢いが地上にまで侵食している事に3人はすぐ気付くことになるのだったーーーーーーー