【2】週末は収容所から悪趣味な闘技場に変わる。 side アルトゥリウス
商店が建ち並ぶ一角に、遊具もない公園がある。
唯一あるのは誰が使うんだか分からない汚れた便所小屋。中には便器が2つと施錠された掃除用具入れがひとつ。
鍵を持つのは公園のベンチで寛ぐ老人である。
この老人が開錠するのは掃除をするためではない。
特殊なインクで書かれた木札…許可証を持つ業者か、発券された会員番号札を持ち、懐にある帳面で照会できる名があるお得意様か。
平日は主に業者のために開錠される。
中にある掃除用具を隅に寄せれば床にある扉が出てくる。
扉から地下へと続く階段を進めばそこは…
受刑者はもちろん捕虜や奴隷も扱う、セントラル収容所。
この収容所に限ったことではないが、この国にある収容所の多くは悪趣味な興行を運営している。
週末、虜囚を使った闘技会では命と金が舞う。
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今週から何故か…
この収容所兼闘技場へ収容されて約2年、初めて温かい食事が提供された。
1日目はミルク粥から始まり、3日目には根菜のみならず肉まで焼かれて出てきた。
うめき声しか聞こえなかった場所なのに、朝と夜、そこかしこの独房から歓喜の声が上がる。
4日目からは目隠しと拘束はされているものの「陽に当たれ」と数人のグループと共にどこぞの広場で本の虫干しのごとく干された。
「どうなってるんだ」
「管理者が変わったのか」
「支援者からの要望らしい」
「最高の状態で剣戯を堪能されたいとか」
「おい聞いたかメインのバトロアで優勝すると自分を買えるくらいの賞金が出るらしいぞ」
「犯罪者は刑期短縮付きで借金奴隷は住み込みの仕事が斡旋だと」
前日まで飴を与え、焚きつけられ続け、夢をみた収容者に得物を持たせるとどうなるか。
―――明日、一番死亡率の高いメインイベント出場者にだけ配られる果実。
一喜一憂する声が各所から上がり、俺の所へも赤い実が投げ入れられた。
ここの環境も最悪だと思ったが、下種な支援者に目ぇつけられたのも最悪だなと思いつつも翌日のバトルロワイアルに備えて寝た。
最近支給された毛布は大判で…包まってよく眠れるようになった。
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週1で興行されるもので人気なのは収容所の約4割…50人で行うバトルロワイアル当日。
生死は問わず、戦闘不能にした人数で1位2位3位が決まる。
得物を持ち会場へと向かわされると闘技場に降り立つ参加者の顔色は良く目がギラつき、やはり今までに無い活気…客席もそうだ、満員御礼で立ち見も出ている。
どこのどいつが元締めか知らないが、ここはあくまで収容所でギャンブルは非合法。
それでも目こぼしされているのは、偉い人間にそれなりの収益が袖の下に入るのと、人員の間引きも兼ねているからだろう。
体調も改善され、生活環境がある程度整っているのなら慌てて出ていく必要もない。
同じ闘技場に居る従者2人に目配せをし、いつも通りやり過ごすことにした。
―――そう、目立たず騒がずやり過ごすはずだった。
「ふざけんなそこのニーキュッパァァァァ!!!!お前左利きだろ舐めてンのかぁぁ!!!」
可愛らしい女の子の、誰よりも汚い罵声が飛んでくるまでは。