第10話 「いきなり、嘘ついちゃった」
第10話 「いきなり、嘘ついちゃった」
次の日、沙月が起きたのはもう昼近かった。シエラはまだ寝ていて、グラビスのベッドは空だ。
ゲプッ……、ちょと気持ち悪い。昨夜、お菓子を食べ過ぎた。
エリスに会って、お昼はいらないことを告げる。ちょっと、食べれそうにない……、と言ったらエリスに笑われた。
グラビスの姿も見かけなかったので、どうしようかと考えて、とりあえず散歩に出かけることにする。
なんとなく、商店街を歩いて、公園まで行くことにする。
(「馴染みのある道を選択するって不思議だわ……」) と思いながらだ。
商店街にはパンを焼く匂い、肉を焼く匂い、おいしそうなお菓子などの誘惑があったが、全くなびかなかった。
(「今はちょっと無理だわ……。ゲプッ……」)
その代わり、商店街を通りながら、値段をチェックする。ウインドウショッピングというやつだ。
(「あれが5バーラ、これが8バーラ……、あれが1コイン2バーラ……、グラビスの言ったとおりだわ……。」)
物の値段を知ること……、これもこの世界について学んでいる……、というシーンだ。
公園にたどり着く。公園中程に小さな八角形の屋根のついたベンチを見つけてそこに座る。
「ねえ、ファイ。当たり前のことに気づいたわ。宿屋が一軒もないの、それに武器屋もないし、防具屋もなかったわ。」
「はい。あるのが普通ですか?」
「う、うーん……、なんとなく……、あるのが普通って思ってたのね……。でも、普通って難しいわね……。」
「はい。そうですね。……でも、昔は軍隊があった訳ですから、武器屋や防具屋もあったのかも知れません。」
「あっ、そうか……、そうね……。それも、変わったことの1つってことか……、昔はあるのが普通で今はないのが普通なのね……。」
「はい。」
「でも、何か不思議だわ。」
「何がですか?」
「えっと……、支配者が変わることの影響力の大きさ……、かな?……ほら、だって、普通の人は普通の日々を送ってるだけだわ……、確かに、支配者によって安全が保証されるのかも知れないけど……、なんだか、無駄のような気がするの。……実際、魔王は何もしてないみたいだし……、それなのに……、普通さえ変えてしまう……、って感じ?……うーん。上手くいえないけど。」
「はい。普通は環境や時代と供に変化します。難しいですね。」
沙月は公園の奥、西の方に行ってみることにして、歩き始める。
公園を抜ける。この辺りはまだ、住宅街で古い建物もちらほら見かける。やはり、大通りから離れると古い建物が増える印象だ。(ーーここは少し筆者から説明をしておく。古い建物……、と言っても我々の感覚とは違っている。例えばグラビスの家が築200年……、と言われても、ああ、そうなんだ……、と納得してしまうだろう。築50年と言われても同様だ。おそらく、こんな感じだと思う。300年?500年?くらい前に住宅に使われていた石材はあまり品質が良くなくてボロボロになってしまった。それで、新しい石材を使って家を建て直した。建て直した家がグラビスの家であって、大通り付近の家。そして、立て直していない家も残っている……、そういう感じだと思う。……一応、補足しておく。)
しばらく歩くと、視界が開ける。
「アルノ川ね。」
地図にそう書いてあったのを沙月は覚えていた。
「湖かと思ったんだけど……、川なのね……。」
対岸はかろうじて見えるくらい遠い。
右手にお城が見えて、正面は遠くに崖が見える。左手を見ると、砂浜のようなものも見える。船が2、3隻、漁でもしているのだろうか。
「散歩するには絶好の場所ね。湖みたいに大きい川。風が気持ちいいわ。」
沙月は土手の芝生に座る。
「ねえ、ファイ。今日、何日目?」
「6日目です。」
「6日?……ほんと?」
「はい。
- 1日目、シエラさんとグラビスさんに会いました。
- 2日目、グラビスさんにこの世界のことを教わりました。
- 3日目、道具屋に買い物に行きました。
- 4日目、雨でした。アイカさんと通信しました。
- 5日目、トレジャーハント 1stミッションでした。
- 6日目、今日です。 」
「ほんとだ……、もう、遠い昔のような気がするわ……、やばいわ……、処理しきれないわ……」
「大丈夫です。処理出来てますよ。」
「そーかなー……、全然自信ないわ……、ちょっと思い出したんだけど、魔法が使えることを隠したい人もいるってグラビスが言ってたわ。魔法が使えるなんてすごーいって単純に思うんだけど、そうでもないのね。……こっちにも、いじめってあるのかしら?……まあ、あるんだろーなー……。」
「いじめ?ですか?」
「うん。ちょっと異質な人をいじめるの。理由はなんでもいいのよ、なんか違う、とか、変な匂いがする……、とか、顔が外人みたい……、とか。」
「なるほど。」
「魔法が使える人は少数派って言ってたから、魔法が使えるっていうのも理由になり得るのね。」
「多様性を認めないということですね。」
「そう。多様性。……私は、いろんな人がいたほうが面白そうって思うんだけど……、なかなかそうならないのよね……」
「多様性を認めない社会は発展しません。居心地は良いのかも知れませんが。一方で、多様性が有りすぎると、効率は低下するでしょうね。」
「ん?そうなの?……効率は低下ってどういうこと?」
「例えば、商売を始めるとします。大多数の人が興味のある商品を扱うほうが効率は良くなります。」
「なるほど。……つまり?」
「つまり?」
「……自分で考えろってこと?」
「はい。」
「……分かったわ、……分かりました。……"有りすぎる"が問題なのね。……ある程度はあったほうがいい。」
「はい。」
「ふーん。何となく分かるわ……、中くらいが丁度いいのよ……、なんでも極端なのは良くないの……。そうよ……、食べ過ぎは良くないのよ……。」
「食べ過ぎは良くない……、さすが沙月様です。」
「でしょ。」
沙月は川沿いを歩いて帰ることにする。グラビスとシエラと見た壊れた橋を見て、家へと帰る。
3人で歩いた見慣れた道だ。
(「6日目かあ……、確かに、シエラの言うように順調なのかなー……。」)そんなことをぼんやりと考えていた。
家に帰るとグラビスが居間にいてお茶に誘われる。シエラはどこかへ行ったようでいなかった。
夜にアイカとの通信があるので、先にお風呂に入らない?とグラビスに提案され、お風呂に入る。
夕食の時間になってもシエラが帰って来ないので、いよいよ2人は心配し始める。
もう外は暗くなっている。グラビスが心配そうに言う。
「シエラ、帰って来ないわね……、どこに行ったのかしら。」
「ほんとね……、道に迷うってことはないと思うけど……。」
エスト地区は縦長な土地なので、大きな通りが南北、ほぼ直線に通っている。大きな通りさえ見つければ北に向かえばいい。お城という目印もあるし、分かりやすいはずだ。
「お金も持ってるはずだから、外で食べて来るつもりかも知れないわ。」
沙月の予想にグラビスも同意する。
「そうかもね……、2人で夕食にしましょ。」
そう言って、2人で食べ始める。
沙月は朝、昼を抜いたお陰で食欲も戻っていて、次々と目の前のお皿を空にしていく。
2人が食べ終わって時計を見ると、アイカとの通信まではあと1時間だ。沙月は少し、緊張を感じはじめる。
かすかにカランコローンという音が聞こえる。
「あ、帰ってきたかも。」
グラビスがそう言って、2人は玄関に向かう。
で………………、玄関の光景を見て2人は言葉を失う。
エリスの肩に抱えられたシエラ。そばには作業服姿の小太りな見知らぬおじさんが立っている。
見知らぬおじさんがペコペコとエリスに頭を下げて、足早に帰っていく。
シエラは顔が真っ赤で目もうつろ、足元もおぼつかない。
沙月とグラビスは言葉を失ったままだ。
エリスはニコニコしながら、シエラを家の中に運ぶ。シエラが顔をあげて、沙月とグラビスに気がつく。
「あーーー、……ぐーらーびーすーー、会いたかったわーーー」
そう言ってグラビスに抱きつく。
顔をグラビスの胸に押し当てながら、
「あーー、やーわーらーかーい、あーー」
「ちょっと……、シエラ、大丈夫?……。」
グラビスが困惑して言う。
「はーー、だーいーじょーぶーよーー」
沙月とグラビスはプーンとした刺激臭を感じる。
次はシエラが隣に立っている、沙月に抱きつく。
「あーーー、わーたーしーのーさーつーきー、会いたかったわーーー」
「ちょっと……、シエラ」
沙月の顔が匂いでゆがむ。
2人の目の前に立っているエリスがニコニコしながら、言う。
「お酒を飲まれたようですね。」
「……」
「……」
沙月とグラビスは言葉もない。
沙月とグラビスがお互いに顔を見合う。二人ともちょっと半笑いだ。
エリスには"後は、私達でやるから"と言って、下がらせて、沙月とグラビスは何とかシエラを2階の部屋まで運ぶ。
ベッドに放り込んで、服を着替えさせる。もう一度言おう。ベッドに放り込んで……、だ。
時折、シエラがうめくように言う。
「あーー、気持ち……、悪い……、ヒック……、」
何とかシエラを寝かせて、沙月とグラビスは1階の居間に向かう。
2人は倒れるようにソファーに座る。二人ともまだ半笑いだ。
「……」
「……」
言葉もない。
しばらくして、グラビスが沈黙を破る。
「さすが、シエラね……、」
「……やってくれるわ……。」
沙月が継ぐ。
沙月がとうとう笑いを堪え切れなくなって笑い始める、それを見て、グラビスも笑い始める。
しばらく、笑いが収まることはなかった。
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一通り大笑いして、沙月が現実に引き戻される。時計を見ると45分を過ぎている。約束の時間まであと15分もない。
「あと、15分もないわ、……シエラは無理ね。」
グラビスも時計を確認して、立ち上がって言う。
「お茶でも飲んで落ち着きましょ。……あ、いいわ、沙月はここで待ってて。」
立ち上がって手伝おうとする沙月を制して、グラビスが台所に向かう。
沙月は、グラビスの手伝いをした時に知ったのだが、お湯は常に用意されている。コットのところもそうだった。魔鉱石を使った魔道具だろう。なので、コップにお茶の粉を入れて、お湯を注ぐ。そんなに時間はかからないはずだ。
沙月はグラビスが用意してくれたお茶をすすりながら、時計とファイをちらちらと確認する。
あと5分というところで、沙月が思いついて立ち上がる。
「私、そっちに座ったほうがいいわよね。」
そう言って、グラビスの隣に座る。
「沙月様、通信が入っています。」
時間通りに、ファイが告げる。
沙月が通信を繋ぐ。画面には3人の女性が映し出される。前回とはアングルが違っていて、ソファーに座っている3人を正面から撮った画になっている。
「こんばんわ、沙月さん、聞こえますか?」
アイカの声だ。
「アイカちゃん、こんばんわ、……ちょっと、待ってね。……ファイ、……こんなふうに出来る?」
「はい。出来ますよ。」
そう言うとファイが沙月の左手上の画面を掴むようにして、沙月の正面に移動する。ファイもその場に留まっている。
(「そんなことも出来るんだ……」)
左手を前に突き出す必要がなくなって、楽になった。姿勢を直して、グラビスの真横に来るようにする。
「アイカちゃん、見える?」
「はい。よく見えます。……あれ、……シエラさんは?」
「あ……、ごめんなさい、シエラはちょっと調子が悪くて寝かしてるの。……今日は私とグラビスの2人なの……、」
「まあ、心配ね、大丈夫なの?」
ヨウコの声だ。
「あ、はい。大丈夫です。明日には良くなると思います。」
…
……
沙月の心の声だ。(「正直に話すつもりが……、いきなり、嘘ついちゃったんですけどーー!!、……酒のんで寝てますなんて言えるわけ無いでしょー!!」)
…
「今日は、私のお母さんにも来てもらったの……。」
アイカの声だ。続けて、隣の女性が自己紹介を始める。
「はじめまして、沙月さん、グラビスさん。アイカの母のエリカです。今日は私も参加させてもらうことになったの。よろしくね。」
「宜しくおねがいします。エリカさん。沙月です。」
「はじめまして、エリカさん、グラビスです。」
沙月もグラビスも3人目はある程度、予想していたので冷静だ。
それに、アイカとエリカはよく似ている。
「じゃあ、始める前に私から一言いいかしら。」
ヨウコの声だ。
「はい。」
沙月が短く答える。ヨウコが続ける
「まず、はじめに、この場での会話は他の人には一切しゃべらないことをお約束するわ。なので、みんな、正直に話しましょう。いいかしら、沙月さん。」
「はい。私達もお約束します。」
そう言って沙月はグラビスを見る。グラビスもコクリとうなずく。その様子を見てヨウコが続ける。
「では、簡単に私達のことをお話するわ。私達が何者かが分からないとね、、私はこのガートランド王国の宮廷魔道士長だったの、今は引退して、相談役ね。実質ほとんど何もしてないから、余生を楽しんでいるわ。私の娘のエリカも宮廷魔道士よ。彼女は今も現役ね。彼女の夫、つまり、アイカの父親は魔法は使えないの。だからこの場には呼んでないわ。私達のことはこれくらいでいいかしら、沙月さん。」
「あ、はい。よく分かりました。ありがとうございます。」
「では、前回、アイカがいい出したことについて私の考えを言うわ。私は反対なの。かわいい孫の顔が見れなくなるんですもの、やっぱり、寂しいわ。でも、アイカがやりたいんだったら、応援したいという気持ちもあるわ。複雑なのね。私の正直な気持ちは以上よ。後はアイカが進めなさい。」
アイカが手に持ったノートを見ながらたどたどしく始める。
「えっと……、今、問題は3つあります。……1つ目は、私がパーティーに入ることを沙月さんたちはどう思っているか……、です。」
如何にも、文章を読むというような口調だ。沙月が後を引き継ぐ。
「私達は歓迎します。会って話をしないとお互いのことは分からないと思うからです。それで、もしアイカちゃんが嫌になったら、ガートランド王国に帰ればいいんじゃないかって話しています。」
沙月もアイカにつられてたどたどしく回答する。
アイカが"あっ"と声を上げて、ノートに書き込む。すぐに戻って続ける。
「……2つ目の問題は両親の許可です。……3つ目は行くとしてどうやって行くか……、です。」
2つ目と3つ目はまとめたほうがいいと考えていたようだ。アイカが続ける。
「まず、3つ目の 行くとしてどうやって行くか について議論したいと思います。何か意見はありますか?」
(「学級会っぽくなってきた……。」) 沙月は思う。
沙月はこれは私には無理……、という顔でグラビスを見る。グラビスが理解して答える。
「チス国とガートランド王国は細々とではあるけど、交易があります。だから、多分、交易用の馬車で移動……、というのが妥当かなと思います。1週間から2週間の旅程になります。問題は、魔物に襲われる可能性があることです。」
グラビスの後、ほんの少し沈黙がある。沈黙を破ったのはヨウコだった。
「……そうねえ、……隨分、懐かしい話になるんだけど、私が宮廷魔道士になる前ね、生きていくために、何でもやりましたよ。それで、荷馬車の護衛もやりました。お給料も良かったからね。チス国にも何度も行きましたよ。通算すると、1年くらいはチス国で暮らしたんじゃないかしら。1度ね、魔物に襲われそうになって、丸1日、アイスピラーで籠城したことがあったの。丸1日アイスピラーを維持するのは本当に大変でね、その後、1週間くらい寝込んだのよ。でも、そのことが王様の耳に入ってね、宮廷魔道士になれたのよ。」
ヨウコが話し終わると、アイカがすぐに続ける。
「おばあちゃんは、アイスピラーが使えるの。……それで、私、考えたんだけど、おばあちゃんも一緒に来てくれたら安全だわ。」
「……え?……。」
「……え?……。」
「……え?……。」
アイカの発言にガートランド王国側は騒然となる。それまで、冷静だったヨウコも取り乱す。
「アイカ!突然何を言い出すの……、ビックリするでしょ」
「ねえ、おばあちゃん、お願い、一緒に来て!」
「アイカ!、おばあちゃんに確認もしないで、そんなことを……、」
「応援したいって言ったでしょ!!」
そんな声が聞こえる……、沙月とグラビスは呆然と黙って画面を見つめる。
しばらくして、ヨウコの声だ。
「沙月さん、ごめんなさい。また、連絡するわ。」
そう言うと、プチッと通信が切れる。
「沙月様、通信が切れました。」
ファイが言う。パーソナルステータス画面も消える。
沙月とグラビスが顔を見合って、ニヤリと笑う。グラビスが言う。
「アイカちゃん……、策士ね。」
「ほんとね。」
沙月とグラビスはクスクスと笑っている。
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沙月とグラビスは2階の自分たちの部屋に戻る。
「あっ……、誰か寝てるわ。」
沙月はシエラのことをすっかり忘れていた……、というように、冷たく言い放つと、グラビスも応じる。
「ほんとね。……誰か寝てるわ。」
2人はシエラの顔を覗き込む。すやすやと気持ちよさそうに寝ているのを見て少し安心する。
2人は寝るのには少し早いが、寝間着に着替えてベッドに横になる。
沙月が思い出したようにグラビスに訊く。
「ねえ、シエラ、国外追放になったりしない?」
半分、真剣で半分、冗談のような調子だ。
「え?……、ああ、大丈夫よ。……こんなことで、追放なんてされないわ。……むしろ、飲み屋では大歓迎されたんじゃないかしら……、"おう!お嬢ちゃん、俺のおごりだ、どんどんの飲め……"なんて感じね……、目に浮かぶようだわ。」
「そ……、そう。……未成年でも?」
「う、うん。15歳が大人なんだけど……。普通は飲まないわね……。家によっては18歳以上とか20歳以上、自分で稼いだお金なら自由とか色々ね。」
「ふーん。家によるんだ……。」
「ええ、基本的には些細なことと思われてるわ。他人に危害、損害を与えることじゃないからね」
「ふーん。」
グラビスが飲み屋でのシエラを想像して笑いながら言う。
「フフフ……、ほんと、大歓迎されたと思うわ……。飲み屋ではみんな友達になるんだって……、お金が無くてもお酒は飲める、って言われてるの。」
沙月もおじさん達に混じって騒いでいるシエラを想像する。
「うーん。……でも、ちょと、恥ずかしいわ……。」
会話が一段落したところで、グラビスが言う。
「明日は無理ね……、トレジャーハント。」
「そうね。」
沙月も同意する。二日酔いという言葉は沙月も知っているが、どんなものかは分からなかった。
でも、まあ、無理なんだろーな……、と沙月は想像した。
沙月が話題を変える。
「ねえ、アイスピラーって有名なの?」
「え?、うん。……氷柱魔法ね。自分の周りに氷の柱を作って、身を守るの。魔物に破壊されても、魔法力が続く限り、すぐに再生されるの。防御するには有効な魔法ね。……私も使えるけど、1日中は無理ね……、せいぜい2時間くらい?……、やったことはないけどね。」
「そう。」
グラビスも使える……、そのうちに見られるのかな……、と沙月は思う。
グラビスも先程の通信を思い出して言う。
「でも、アイカちゃん、考えたわね。説得する相手を両親からおばあちゃんに変えたのね。元宮廷魔道士長が一緒だったら、旅もより安全になるし、チス国に一人で行かせることを考えれば、両親も安心するだろうし。」
沙月が返す。
「一石二鳥ね。……それに、おばあちゃんがアイスピラーの話をすることも予想通りって感じだったわ。」
「うん。間違いないわ。おばあちゃんから何度も聞いてたのね。」
(「まるで、グラビスみたいね……」) と沙月は言おうとしてやめた。グラビスとアイカちゃんはちょっと感じが違う……、と思ったからだ。
グラビスが感心したように言う。
「おばあちゃんを説得できるかどうか……、問題はここに絞られた訳ね。」
「ヨウコさん、チス国に1年くらいは住んでたって言ってたわね。」
「うん。交易はしょっちゅうしてる訳じゃないから、数ヶ月滞在してから、出発……、なんて感じなんでしょうね。」
「あれ?……、チス国に宿屋ってあるの?」
「ん?、そうね……、宿屋だけをやってるところは今は確かにないかな……。でも、部屋を貸したりとか家を貸したりはやってるの。交易の人にはカラカスさんが用意してるわ。ほら、交易に関する情報はカラカスさんから聞いたのよ。」
「そうなんだ。」
沙月は少し、話の意図がずれたことに気がつく。
しばらく間をおいて、沙月が続ける。
「チス国に1年くらいは住んでたなら、友だちもいるかもしれないし……。」
「うん。私も思ったわ……、説得のハードルは下がるかもね。」
そう言ってグラビスは物思いに耽る。ガートランド王国、宮廷魔道士、ヨウコさんくらいの年齢……。まず最初に思いついたのは道具屋のコットだが、すぐに諦めたようだ。コットは職人気質でゴシップネタには興味を示さないタイプのようだ。
沙月はシエラの寝顔を見つめている。明日は休みだ。今日は夜更しできる。
グラビスとの会話も面白かったが、シエラも起きてればよかったのに……。そう思った。
10話完




