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6 文句を言われる筋合いはございませんわ!

 貴族科3-Cクラスは緊迫感に包まれて、私はクラスメイトの視線が私達に集まっているのを、ひしひしと、きめ細かい雪のような白い肌に感じましたの。


 目の前には私の婚約者、ロワイ・ド・ガグリアーノ様と、その隣で抱き寄せられているマリア・ジュリアン。


 そして、その2人に向き合うのが、この私イレタ・ル・ブロシャールと、その隣で私を守るように立つジャン・ルヴォヴスキ様ですわ。


 ジャン様は……旧校舎から走って駆けつけてくれたのでしょうか。乱れた息を整えていましたわ。

 なぜ、昨日出会ったばかりの私のために?


 ロワイ様が、ジャン様に質問をしました。


「お前は、どこの誰だ?」


 その態度はとても横柄で、私は口を出そうとしましたが、ジャン様が私の肩を抱いて微笑みましたの。『ここは任せて』とその態度で伝えてくださっていると感じたので、私はうなずいて静かに見つめましたわ。


 ですが、体が密着するのは気になりますので、私はジャン様と私の間に、ちょうど手に持っていたノートを差し込みました。ギュギュッギチギチ……と、ねじり込みましたわ! そうして出来上がった構図が、私とジャン様と、間に宙吊りノート。私は達成感で、ふぅ! とやりきった気持ちになりました。


 ジャン様は若干微妙な顔をしましたが、私の行動を見なかったことにして、ロワイ様に応じました。


「平民科3年のジャン・ルヴォヴスキです」

「そうか、ジャン・ルヴォヴスキ……私の婚約者に、なぜ平民が触れているんだ?」


 私にかれこれ2年間は触れていない、婚約者ロワイ様は不服そうですわ。

 私がいくら苦言を呈しても、他の令嬢にお触りし放題でしたのに、よくばりですわね?


「ロワイ様とマリアさんの関係と、同じようなものだからですよ。イレタ様だけが我慢するのはおかしいと、そして私の想いを伝えたのです」


 ジャン様はロワイ様からの圧のある質問に対して、実にスラスラと答えています。こんなにスラスラと答えられると、本当にそうだったような気がしてきますわ!?


 私は、あたかもジャン様に告白されたかのような気分になって、ぽっと頬を赤らめましたの。


 ロワイ様は、ジャン様に凄むのは効果が薄いと感じたのでしょう。厳しい目線と質問の矛先を今度は私に向けました。


「……イレタは、この男には触れることを許すのか?」


 それは、ロワイ様が先ほど伸ばした手を、私が避けたことについての質問なのかしら?


 婚約者であるロワイ様の手を避けたにも関わらず、ジャン様に肩を抱かれることは、甘んじて受け入れている私に。


 ですが私がそのことについてロワイ様にお叱りを受けるのは微妙な気分ですわ?



 だってロワイ様だって、この話をしている今も、マリアの腰を抱いておりますし……?


 それに、私とジャン様の間には宙吊りノートがあって、そもそも私のお胸は貧……控えめですが、ロワイ様にはマリアのたわわなお胸がゼロ距離で体に当たっているような……?


 あら? どちらかと言えば、私のほうが怒る立場なような……?



 どうせ高い山も深い谷もありませんわ!?


 ですが、ですが、そ、それほど平坦でもございませんわよ! 寄せて! 上げれば! こう、背中から肉を持ってきて……。


 すると、私の肩が軽くゆさゆさと揺れましたの。そうして思い出しましたジャン様の存在が、私に優先順位をも思い出させてくれたのです!



 そうでしたわ!

 私が果たしたいのは逆ざまぁですわ!?


 そう考えた私は、イチャつくロワイ様とマリアを見て、余裕の微笑みを浮かべました。


 私は以前の私とは違いますの!

 もう嫉妬はしませんわ。私の美しい唇も、とてもなめらかに言葉をつむぎました。


「ほーほほほ! まるでそれが許されないことのようですわね? ロワイ様がいつもマリア様にしていることと、同じことですわ!」



 ああ、なんて良い気分なのかしら!?


 あのロワイ様がとっても傷ついた顔で私を見つめておりますわ! ようやくわかりまして? 私のこれまでの気持ちを! ほーほほほ!


 私の隣にいる恋人役のジャン様が、大変見目麗しいものだから、先ほどまで私を可哀想な目で見ていたクラスメイト達も目を白黒させていますわ!


 そしてなぜだか、ロワイ様の寵愛を一身に受けているマリアまでもが、私へと憎しみの目を向けておりますわ!?


 それにいつもなら私がいても、ロワイ様にしか話しかけないあのマリアが、私に話しかけましたの。


「イレタ様、お話がありますわぁ。放課後に校舎裏に来ていただけません?」


「え!?」


「あらー? 怯えているのかしらー? 天下のイレタ様がー!?」


 私が絶句したからか、マリアはどんどん調子に乗り、クラス中に聞こえる声で話しています。


 ですが私はそれどころではありませんでしたわ!


 とてもびっくりした私は、マリアをぷるぷると指差しながら、ジャン様に目で訴えましたの。するとジャン様は神妙風な顔でうなずきました。


「ジャン様とぉ仲良しアピールをして、私のことは無視ですかぁ、イレタ様ぁ?」


 ジャン様と目で会話をしている間も、マリアがなにやら話しかけてきています。


 私はようやくマリアを見ました。


 このシーン、この会話、今のマリアの嫉妬にかられたような鬼の形相……その全てが『悪役令嬢ざまぁ物語』で、ヒロインと悪役令嬢がやり取りする場面と、とても似ていますわ!?


 私、もしかして、もうヒロインと入れ替わってるんですの!? 

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