13 女子が5人も集まるとかしましいですわ
私とマリアがお互いにマイクパフォーマンスをすると……謎の間が空きましたわ。
そして、マリアがスタスタと私に近づいてきたので、ギクリとした私は思わず、守りに入るボクサーのような格好になりました。
ところで私、真面目に頑張っている殿方には申し訳ないのですが、ボクシングの防御の構えには、どことなく淑女らしい、しとやかさを感じますの。
だって両手の拳で顎を守る格好は、1年生の時のクラスメイトに『両手の爪をこすって匂いを嗅いでみてくださいな? やーいぶりっこですわー!』と言われた時と似ていますわ!?
というわけで、私はこの防御がお気に入りなのです。ガードをする時でさえ可愛らしく。美は1日にしてならずですもの。どのような姿もより素敵に見えるように私は日々心掛けているので、このようなとっさの時もつい出てくるのですわ! ほーほほほ!
などと考えている間にも、マリアはぐんぐんと近づいてきます。私はじりじりと後ずさりしました。
「な、なんですの……!?」
まさか、物理攻撃!?
そういえば『悪役令嬢ざまぁ物語』では、悪役令嬢が『あなた生意気ですわ!』などと言って主人公を突き飛ばしてるシーンがありましたわ!?
ですがマリアは私にたやすく近づくと声を密やかにして質問をしてきただけでした。そしてその声音には、戸惑い成分が多く含まれていましたわ。
「……つかぬことをお伺いしますが、イレタ様はぁ、のぞかれる趣味はおありですかぁ?」
「あ、ありませんわ……っ」
なぜそんな特殊な趣味があると思われているんですの……!? いわれ無き誤解ですわ!?
私は驚きながらも声を潜めて返事をしました。
すると誤解されてたわけではなさそうで、マリアはげんなりした顔で続けます。
「イレタ様の教室前の、廊下の窓が開いてますわぁ。たぶんいつも私を追い掛けてる子なので、嫌なら追い払いますけどぉ……面倒臭い子なんですよ」
私、その方にはとても心当たりがありますの。
そういえばいつもいつもロワイ様とマリアの言動報告をいただいていましたわ。マリアからすると、たまったものではないでしょう。
そっと廊下の窓を見てみると確かに窓は少し開いていて、窓枠の下のほうからは、なにやらチラチラとした光がのぞいています。あれは……手鏡?
そして手鏡の中の目と私の目が合った瞬間に確信した私は、マリアに振り返って謝りましたの。
「……彼女については、本当にごめんなさいまし。
変わった趣味をお持ちな私のクラスメイトですの。
なので、私のほうで対応いたしますわ」
「クラスメイト!? あの外見で……18歳!?」
マリアが別の部分で衝撃を受けている間に、私は一気に後ろに下がって身を屈めました。私を見失った手鏡がオロオロと動き回ってチカチカキラキラしていますわ。
私はそのまま迅速に窓枠下の壁に忍びよると、1、2の3のタイミングでガラッと窓を開けて廊下をのぞき込み……地の底から這い出るような声音で話し掛けましたの。
「な~に~を~、し~て~ま~す~の~?」
「ひいっ!? い、イレタ様」
私の前にはビクリと肩を揺らすブリジット様と、慌てる令嬢ABCがいましたわ。
……思っていたより多いですわね!?
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「わわわ私達は違うんです!」
「はしたないからと、止めようとしたんですわ!」
「でもでもブリジット様が強情で……!」
令嬢ABCの訴えを聞いて私は神妙な顔でうなずきました。どうやら私とマリアの放課後対決は、私のクラスメイト全員が知っていたので……ブリジット様の怪しい行動に気づいた令嬢ABCが止めようとしてくださったようですわ!
時間がかかりそうと思ったからか、いつの間にか私の隣にはマリアがいて、とっても残念なものを見る目で見ています。
「それにしてはあなた達もぉ、なにかを後ろに隠してますわぁ。手鏡じゃなくて?」
「そんな……! だましていましたの!?」
マリアの発言に令嬢ABCがギクッとして、それにより嘘と気づいた私が悲痛な声を上げると、令嬢達は「だって楽しそうでしたの」などと言いました。欲望に負けたようですわ。
そしてそれを見て元気になったブリジット様が「その通りですわ!」と言いながらしゃっきりと立ち上がりました。
「イレタ様、私だけを信じてください! 私こそがイレタ様の真のお友達! 欲望に負けてふらふらしたり自分可愛さについつい嘘をついちゃうような軟弱者とは違いますよ! 私はだましたりしませんし、真面目に全力で取り組んでいますの! 全てはそう……イレタ・ル・ブロシャール様の為に!」
ブリジット様……!
私はガーンとした衝撃の後、正直に言いました。
「でも私そういうのいらないですわ」
「イレタ様!?」
「だってやってることは盗み聞きですもの。
私を理由にしてそんなことされても困りますもの」
「で、でも……だって……」
ブリジット様は伝家の宝刀『うるうる上目遣い』で私を見ましたが……本日2回目なので私はスルーしました。1回目ならうっかり許してたと思いますが、残念でしたわね!
「お帰りはあちらですわぁ」
「い、イレタ様あ……」
「皆様ごきげんよう」
「イレタ様あああ!?」
ブリジット様はまだ残りたそうでしたが、マリアの誘導と私の挨拶から引き際を察知した令嬢ABCが、ブリジット様も運んでくださいましたわ。
ブリジット様の声がドップラー効果で遠くなると、ひゅうう……と風が鳴り、どっと疲れた顔でマリアと見つめ合う私です。
なんで私、ここにいるんだったかしら。
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「イレタ様わぁ、ジャン・ルヴォヴスキ様とお付き合いなさってるそうですわねぇ?」
「ええ、その通りですわ」
先ほどの一連の流れから気を取り直して、当初の目的通り女の戦いを始めた私達です。なんて素晴らしい切り替え力。そしてバチバチと火花を散らすさまは、あたかもコブラ対マングースのようですわ!
初手マリアの質問へ私がうなずくと、マリアの目に一瞬殺気がこもりましたが、すぐにその表情は取り繕われて、勝ち誇った微笑みに変わりましたの。
「あらあらー? ということわぁ、ロワイ様はもうよろしいのかしらー? ロワイ・ド・ガグリアーノ様とは婚約解消なさいますのー?」
なるほど、そういう方面で話を進めるつもりですのね!
ですが、ジャン様としっかり作戦会議をした私にとって、この程度の返しは想定の範囲内ですわ。
ですから私は余裕の表情で答えましたの。
「そうとも限りませんわ? だって私はロワイ様と婚約関係のまま、ジャン様と恋をすることもできますもの」
私が意地悪くそう切り返すと、マリアは今度こそビキリと鬼の形相になりました。
なんということでしょう、やっぱり思った通りでしたわ!
ジャン・ルヴォヴスキ様と仲良くなることが、マリア・ジュリアンにここまでのダメージを与えられるだなんて……!
私、ついにあのマリアを逆ざまぁできましたわ!
ああ苦節1年……この日をどれほど心待ちにしたことでしょう。私は感無量になりました。さあとくとご覧あそばせ、このマリアの憎しみの表情を!
これぞ逆ざまぁですわ! ほーほほほ!
すると、マリアの方向から、地獄の淵から響く怨念のような声が聞こえてきました。
「認めませんわぁぁ……」
「……マリア様?」
この声、マリアから出ていますの?
そんな疑問を感じて思わず声を掛けた私は、続く声に、やっぱりこれはマリアの声なのですね、と、恐れおののきました。こ、この世の邪悪を煮詰めたような声ですわ!?
「認めませんわぁぁ……ズルいですわぁぁ。妬ましいし羨ましいし酷い上に罰当たりですわぁぁ。よりによってぇ学園の2大美男子を1人占めしようだなんて……! どう考えても片方でお釣りがくるんですから、どっちかは私にください!」
「どっちかでいいんですの!?」




