8.まともな食事?
現実逃避中の俺は、ブツブツと昨日からの状況を呟いていた
彼女は彼女でパジャマを脱ぎだして、浴場に向かおうとしている
「御主人様ぁ、ベトベトで気持ち悪いです、お風呂に入りたいのございます~」
俺は、彼女に声を掛けられ現実に戻されると、軽い絶望感と共に諦めの境地に陥っていた
人間、開き直ると強いと立ち直りも早いものだ
壊れて風通しの良くなった窓から、脱いだ服を小脇に抱えた下着姿の彼女が入ってくる
屋内を汚さないように気配りは出来るようだが、窓を開けて出入りする気配りは出来ないようだ
「八千代ェ・・・」
「なんででございますか?御主人様♪」
褒めて下さいと言わんばかりの笑顔である
「次からは、ちゃんと窓を開けて出入りしてね」
そもそも窓から出入りする事自体どうかと思うのだが
緊急事態だからしょうがないと思うことにする
色々と聞きたいこともあるし、一緒に風呂でも入って落ち着こう
その前にひとつだけ大事なことを確認しておかねば
安心して風呂に入れない
「八千代・・・近くに同じ様な魔物は・・・いるのか?」
彼女は無言で目を瞑り何かを操作するように指を動かしている
「ここから半径3km以内に脅威は確認されません、ご安心下さい」
「そうか、なら大丈夫かな、一緒に風呂に入ろう」
どうやって確認しているのか不明だが風呂に入ったときにでも聞いてみるか
壊れた窓を見ないようにしつつ風呂に向かった
ーーー
風呂は命の洗濯と、偉い人が言っていた気がする
確かにその通りだ、服の洗濯と同時に出来るのも良い
二人で湯船に浸かり、彼女のうなじを眺めながら
気になっていた事を質問する
・・・返ってきた答えを要約するとこうなった
元の場所に帰る方法は不明だという事
俺の能力は、三大欲求の一つである性欲をエネルギーの変えて物を作り出したり、
作ったものを収納したりする事出来るという事
AIとは俺の能力が作り出した、限りなく人間に近い形をした人工生命体だという事
魔物とは・・・とにかく危険だと言う事
・・・どうやら、そう言う事らしい、八千代の言葉を信じれば、と言う注釈がつくが・・・
さっき彼女がやっていたのは、空に展開したUAV(無人航空機)を通して周辺を索敵してたそうな
「・・・はぁ~、この先生きのこる事が出来るのか不安になったきた・・・」
いつもの豆腐メンタルで、気弱な台詞が溢れてしまう
「ご安心下さい!私は御主人様の剣であり銃でありM777 155mm榴弾砲でございます!」
フンスッと胸を張ると、かなりのお湯が押し出され波が立つ
「なんで武器ばっかりなの?!盾はないの?!最後の兵器なんて個人で使うものじゃないよね?!」
ツッコんだ俺に向かって彼女は、得意げな顔で振り向き、こう言った
「攻撃は最大の防御でございます!」
ダメだこの娘・・・早くなんとかしないと・・・・
ーーー
風呂上がりにウインドウを確認するとSPは11170ポイントになっていた
「思ったほど増えてないな、どうしてだろう?」
そんな事を考えながら冷蔵庫からトマトジュースを取り出し蓋を開けて一気に呷る
「キンキンに冷えてやがるっ・・・!」
「あ・ありがてぇっ・・・」
「涙が出るっ・・・」
「犯罪的だ・・・うますぎる・・・」
「染みこんできやがる・・・体に・・・」
「ぐっ・・・溶けそうだ・・・」
「本当にやりかねない・・・トマトジュース一本のために・・・強盗だって・・・」
そんな小芝居をしていると、彼女が着替え終えて台所にやってきた
「お腹空きましたね、お食事にするでございます♪」
と半壊した台所をチラ見しながら何処からともなく戦闘糧食を取り出した
出来ることなら昨日それを出して欲しかったが、今更言ってもしょうがない・・・
俺はOD缶とシングルバーナーを取り出し、汲んできた水でお湯を沸かし始めたのだった