1.プロローグ
空前?のキャンプブーム
「どうしてこうなった?」
いつも、週末はソロキャンで静かな時間を過ごしていた俺は困惑する
テントを張る場所がどこにも無い位混雑するキャンプ場
いつもはガラガラ・・・と言うかほぼ貸し切り状態なのに・・・
「俺の、癒やし空間がぁぁぁぁぁ!」
今から他のキャンプ場を探すとなると、時間的に絶対無理・・・
とりあえず、天幕を張れる場所を探してキャンプ場内を歩き回る
「なんだ?ここだけ妙に空いている場所があるぞ?てかこんな場所あったけかな?」
俺は辺りを見回し、天幕が張れそうな平地を探す
「まぁ、変な小祠が立っているが、気にしたら負けだ、ここをキャンプ地とする!」
良さげな場所を確保し天幕を張り始める
隣のやつがちょっと五月蝿いが、気にしたら負けだ!
天幕を張り終わり、椅子とテーブルを設置し、焚き火台の準備をしながら今後の予定を考える
焚き火をするなら事務所が閉まる前に薪の買い出しもしないとな
「とりあえず疲れたから、休憩してからにしよう」
ーーー
日も落ちてランタンと焚き火台に火を入れる
「これからご飯炊くの面倒くさい・・・鍋と袋ラーメンで良いか」
OD缶とシングルバーナーを用意して、コッヘルにモツ鍋の元入れる
切ってある野菜セットとモツをぶち込むだけのお手軽料理
「あとはしばらく煮込んでっと」
コッヘルに蓋ををすると、椅子に座り焚き火を眺める
「ハァ、今回は場所を確保出来たけど、これからこの状態が続くなら他のキャンプ場を探さないといけないなぁ」
ここのキャンプ場ですら麓からかなり離れていて秘境に近いのだが・・・
「くっ・・・これはもう、ダメかもしれんね」
などと思いながら
沸騰しグツグツ音のするコッヘルの蓋を開け、麺を投入する
「まぁいいや、飯食って今日は早めに寝とくか」
・・・出来上がったモツ鍋ラーメンを啜りながら焚き火を眺めていると・・・
「おぬし良い匂いをさせておるの、わしにもちょっと分けてくれぬか?」
急に後ろから声を掛けられビクッとする
ゆっくりと後ろを振り返ると、仙人ような老人が立っていた
両隣のキャンパーは特に気にしている様子もない
暫くこれが現実かどうか判断出来ず固まって居たのだが
老人はニコニコしながら「どうかしたかの?」と問うてきた
ハッとして、自分が間抜けな顔で呆けていた事に恥ずかしくなり
「イエ、何故コンナ所ニ?」
と、片言で老人の問に返したが
老人は笑いながら
「近くに住んでおるからじゃよ、
で、その美味しそうな食べ物は分けてくれるのかの?」
俺は考える、近くに住んでいるのなら、この辺の地理には詳しいだろうし
ひょっとしたら静かにキャンプが出来る他のキャンプ地を知っているかもしれない!
打算で出した答えは、飯で恩を売る事だ
「良いよ、コレを食べ終わったら新しく作るから、そこのボックスにでも座って待ってなよ」
急いで残りの鍋ラーメンを食べ、残っていた食材で新しくモツ鍋ラーメンを作りながら老人に聞いてみた
「この辺りで静かにキャンプ出来るキャンプ地知らない?」
老人は暫く思案し
「あることにはあるの、おぬしが望むなら後で案内しよう」
内心ガッツポーズをしながら、乾麺をコッヘルに投入する
「ありがとう、もうすぐ出来上がるから3分待ってね」
蓋をして吹きこぼれないように弱火にする
「で、その場所は近いのかな?」
俺は畳み掛けるように質問する
老人はコッヘルを笑顔で凝視しながら
「近いと言えば近いが、遠いと言えば遠いかのぉ」
良くわからない老人の言葉を訝しんでいると鍋ラーメンが完成する
割り箸を添えて老人に差し出す
「はい、どうぞ」
「これは、美味そうじゃのう」
老人が食事を始めると小祠が輝き出した
こんな山奥でも夜にライトアップとはすごいな
寝る前に消えてくれればいいなと思いつつ
食事中、キャンプの話が聞きたいと言うので
最初はすばらしい自然の中で、何もしない贅沢が幸せだとか
家では出来ない、焚き火の素晴らしさとかを語っていたのだが
途中から、荷物を持ち歩くのが大変だとか、やる場所が限られているとか
一人でいるときにふと誰かと喋りたくなる時があるとか
ほぼ愚痴みたいな話を、美味しそうに食べながら聞いていた
そして、全て完食した後も暫くその話は続くのだが
老人は嫌な顔もせず「そうか、そうか」と言いながら楽しそうに話を聞いていたのだった
「さてと、美味い飯を馳走になった礼として新天地に案内しよう」
「え?今から?」
「嫌なら案内しなくてもいいんじゃよ?」
ダメなら戻ってくればいいかと、気楽に考えた結果
俺は行くことにした
「撤収するから、ちょっと待ってて」
老人は微笑んで頷いた