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08 私は魚の塩漬けを売りあるきます

誤字訂正・ブクマ・評価・感想をありがとうございます!

08 私は魚の塩漬けを売りあるきます


 ヴィーがルベックで漁師さんから直接仕入る塩漬け屋さんと知り合って、何度かうちに持ってきてくれたことがある。一生懸命食べたし近所にもそこそこ配ったんだけど、売るほど残っている。


 流石に、何度も配るとあまり良い顔をしてくれなくなったので、家に残る原因にもなっている。


「また塩漬け……ですか……」


 と、使用人の賄に出しても渋い顔をされたりする。揚げたり、焼いたり、するけど、味は似たり寄ったりで尚且つショッパイから仕方がありません。私は好きだけどね。


 白身の魚は肉より栄養価が低いって考え方もある。魚ばかり食べさせるのは使用人の皆さんからすると「ケチな雇い主」と思われなくもないかもしれないので、心の声に耳を傾けないといけません。


 肉を食べると陽気になるけど、魚を食べると陰気になるって、根拠はなんなんでしょうか?




 魚売りには縄張りというか、担当してよい場所が決まっています。ショバとか言うみたいですね。その範囲から出て売るのは『荒らし』になるので、揉める事になると言います。

 

「では、ブリジッタ嬢は商会のある街区をお願いしますね」

「……はい……」


 その辺りは、全然売れないと思います。だって、もういらないって暗に言われているからね。あーだから今までの売り子さんが辞めちゃって、臨時職の求人が出たんだろうな……


 悲しいくらい、自分で自分の首を絞めている私。


「……行こうか……プルちゃん……」


 私は、頭の上に塩漬けの魚の入った木の入れ物を乗せ、トボトボと歩き始めました。




∬∬∬∬∬∬∬∬




 さて、家の近所を周っても、遠回しに「いや、今までさんざん貰ったし、いまさら買わねぇし」と言われ、「そうですよねー」と言わざるを得ない状況に陥ること数度。今回は、全然ダメそうです。







――― そう思っている時代も私にはありました。








 トボトボ歩いている私の横に一緒にいるプルちゃんが話しかけてきます。


「……ビータはもう少し頭を柔らかくした方が良い」

「えー」


 ガーン 幼児に言われてしまった……と衝撃を受けていると、プルちゃんが私の頭の上の木桶を寄越せと言います。


「重たいよ?」

「だいじょうぶ」


 プルちゃんは口の中で小さく唱えると、ひょいと木桶を自分の頭の上にのせます。


「だ、大丈夫?」

「だいじょうぶ。ついてきて……」


 私の胸の高さの当たりに木の桶が見えます。近くで見ると、空中を桶が移動しているように見えて、なかなか面白いです。


 プルちゃんはテクテクと歩いて行き、先ずは以前ヴィーが招待してくれた『黄金の蛙亭』の前に到着します。え、ここで何する気ですか?


 受付さんがギョッとした顔でこちらを見ています。


「……ラウス様のご友人でしたでしょうか。それと、お連れ様……プルプァ様でしたか。どうなさいました」

「……料理人に会いたい」


 受付さんは裏に回るように言ってきます。私は、お礼を言い、裏にプルちゃんと案内します。裏手には休憩中の料理人さんたちがいました。


「こんにちは」

「ん。おお、その赤目の嬢ちゃんは、あの黒目の若い商人の嬢ちゃんの連れだね。どうした、遊んで欲しいのか?」

「……重たい……」

「はは、塩漬けか。どれ、見せてみな」


 この手の高級料亭では魚は新鮮な川魚が多く使われ、安い海の魚の塩漬けはあまり好まれません。


「悪くねぇな。どうする?」

「賄でつかいましょうや。ちびっ子が重そうでかわいそうですぜ」

「はは、そうさな。賄で川魚は使えない。それに……フライにすれば、酒のつまみにもなるしな。いつも断っちまってるけれど、まあ、そういうことなら買ってやってもいいな」


 え……ここは多分担当じゃないところだから……


「ははっ、そうだな。まあ、お前さんたちの顔があるからって事で、特別買うんだ。それに、これは重たそうだから……ここで降ろしてやったってことにしてもらおうか」


 今後は、週一程度なら持ち込んでも良いと言っていただけました。販路が広がったので、魚売りの元締めに話をして、特別に許可を取るほうがいいかもしれません。ヴィーが太いお客だから特別に配慮して私たちから買ってくれただけなので、いつもの魚売りさんではお断りされてしまうからです。





 という調子で、私たちは、今までお世話になった洗濯屋さんやエール工房にも顔を出し、「プルちゃんが大変そうだから」という、お涙頂戴セールスで何とか魚を販売することが出来ました。


 商業ギルドに戻り、魚売りの元締めさんに今日のやり取りを話すと、最初は乗り気であったようですが、今までのベテラン魚売りさん達からダメ出しを貰ったようで、結局その売り方は止めるように言われてしまい、私は「それでは続けられそうにもありません」という事で、一日だけで魚売りを終わりにすることになりました。


「勿体なかったね……せっかく、プルちゃんに頑張ってもらったのに」

「……大丈夫。まだ、魚の塩漬けたくさんある」


 私は、はっと気が付きました。今まで皆さんからお断りされて困っていたヴィーからもらった魚の塩漬けが浮いていたのを思い出しました。折角、顔も繋がり、喜んでいただけたのですから、これからもしれっと魚の塩漬けをもって訪問すればいいなと思う事にしました。


 え、魚売りギルドが黙っていないって。いえいえ、只のおすそ分けですから。只じゃ悪いからって、いくらか包んで下さるだけなので、売っているわけではありません。


 行商人は街中で物を販売するのは、その街のギルドの許可が要りますが、『メイヤー商会』として街の中で魚の塩漬けを小売りする分にはとくに許可が不要です。元々メイヤー商会は、食料品薪炭一般が取り扱いの商会ですから。


 普通は、仕入れの関係で魚の塩漬けは扱わないのですが、直販でヴィーから卸されるので問題はない……ということになります。


 こうして、魚売りは私がヴィーと行商の旅に出るまで、定期的に行う家事手伝いの一部となりました。



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本作のスピンオフ元
『灰色乙女の流離譚』 私は自分探しの旅に出る
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本作とリンクしているお話。王国側の50年後の時間軸です。 『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える

― 新着の感想 ―
[良い点] プルちゃんの有能さが留まる所を知らない…
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