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05 私は素敵な香りを調香します

お読みいただきありがとうございます!

05 私は素敵な香りを調香します


 ヴィーの影響で薬草の調合の勉強を始めた私ですが、流石に錬金術や薬師の工房には『臨時職』の募集は見当たりませんので、修道会でせっせと修道士さんのお手伝いをしておりました。


 商人ギルドでの求人の中に、それに似たお仕事のお手伝いの募集を発見しました。


『調香助手募集 経験不問 若い女性が望ましい 決められた日にちに工房に来れること』


 普通の軽作業の助手なので、日当は大銅貨八枚とギルドの定める最低のそれに近いですが、私としてはとても興味があります。プルちゃんが一緒でも代書屋さんの時のように邪魔にならないかもしれません。


「すみません、調香助手ってどんな感じですか?」

「ビータちゃんでも問題ないと思うよ。賃金は安いけれど、仕事はそれほどきつくないし、若い女性向けの仕事だね。ただ、出勤日が向こうの作業の都合で毎日じゃないところが好みの分かれるところだよ」


 私は、家でもやる事はそれなりにありますし、修道会へも行きますので毎日出ないのは逆に有難かったりします。





 調香師さんの工房は、思っていたより下町……革職人や染物工房がある場所でした。ちょっと色々なにおいが混ざっていて正直臭いです。水路の水も……変な色をしています。


「……臭い……」

「ご、ごめんねプルちゃん。よく聞いてなかったから……」

「大丈夫。興味ある」


 子供は変わったものが好きなので、そういうものなのかと思います。今は男の子の格好させていますから、違和感は有りません。自分自身の弟はそうでもありませんでしたが、やはり気カン坊の弟のいる子は大変そうでした。……理屈じゃないから、興味のある物を見つけると梃子でも動かないって半泣きでしたね……よかったうちの弟じゃなくってと思いましたよ。


 因みに、そう言う弟を持つ姉たちは、気が強く男性に対してビシビシと物を言える子になっていったのは当然なのでしょうね。


 看板を発見……ここですね。なんだか、一段とキツイ刺激臭がします。


「こ、こんにちは! 商人ギルドから紹介されて伺いましたー」


 返事もなく、暫く立ち尽くしていると、奥の方から何やら近づいてくる気配がします。すると、中からは全身に生成りのローブを着た多分女性と思われる頭からフードを被り、口元も布で覆った人が出てきました。なんか、思っているのと違います。


「ああ、待ってたよ。どうぞ中へ……その子は……」

「わ、私はブリジッタです。ビータとお呼びください。この子はプルです。大人しい子なので、工房の端っこにでも座らせてください」

「そうかい。悪戯すると、命にかかわるからそれだけ注意してくれりゃ私は構わない。私の名前はヘルタだ。よろしく頼むよ」


 ヘルタさんは母より若い感じの女性でした。その薄い灰色の目は意志の強い感じをさせています。




 中は手前に様々な乾燥した草花や瓶に入った鉱物や甕のようなものに入っている物が所狭しと並んでいます。これ、何なんでしょうね……


「その辺のものには触らない事。ビータに頼むものは草花の乾燥とか、その片付けだね。それと、簡単な蒸留器の操作くらいさね」

「蒸留器ですか」

「ああ。二昼夜連続で稼働させるから、昼間の火の晩をしてくれる者がいないと、私は寝る事が出来ないからね」


 なるほど。調香師さんは錬金術師のようなものだと聞いていましたが、蒸留器で調香した香水を作るのにはそのくらい時間が必要なのだということですね。納得です。


「そっちの大きいのは、ワインからアルコールを蒸留する分だから、危険はないけど、こっちの小さいのは蒸留の難易度が高いから、火の調整が大変なんだよ」


 なるほどです。大きい方は薪で熱するタイプで、大きな鍋みたいなものですけれど、小さいほうは細いガラスや金属の管を組合せているようで、繊細な細工物だと分かります。下で燃えているのは薪ではなく油なのも火力の調整が繊細であることを物語っているようですね。


「じゃあ、材料を揃えるところから手伝ってもらおうか」

「は、はい! 頑張ります!!」


 今日はこれから『妖精女王の水』という万能香水の原料を作るのだそうです。若返りの効果を持つ薬効を持つという有名なものです。お母さまも欲しがっていました。え、若返りたいのではなく、鎮痛や体力回復の効果を期待して薬箱に入れておきたいのだそうです。お父さまの為に。


 さて、準備万端ですね。あとは火の番をするだけの簡単なお仕事です。






――― そう思っている時代も私にはありました。







 最初の数時間はヘルタさんが付き添ってくれましたが、「このあと少し寝させてもらうよ。夕方の鐘が鳴ったら起こしておくれ」と言われ、私は承知しました。


「錬金術っぽいわね、この蒸留器が特に……」

「……」


 プルちゃんは無言で部屋の中を色々見て回っているようです。私も、行商の旅の後で、ヴィーが錬金術の工房を開いたりするなら、一緒にお店を手伝いたいなと思ったりします。そりゃ、ヴィーと比べれば私は非才の身ですが、彼女自身が行う必要がない接客や帳簿付け、配達等は商人の娘である私の方が経験があると思うんです。


 私とヴィーとプルちゃんでメインツの街にお店が持てたら、とってもいいなとおもっていたりします。勿論、ヴィーはずっといる必要はないですし、私は店番だってバッチリするつもりです。


 と思っていると、蒸留器を加熱するランプの油が減ってきて足さなければならないようです。


 私は、火を消さずにそのままランプに油をさしました……すると……あっという間に、ランプの周りにこぼれた油に引火して燃え始めました!!!


「ひゃああぁぁぁぁ」


 私の叫び声に驚いたプルちゃんが、急いで部屋に戻ってきました。既に完全にパニックの私が硬直していると何やら呪文が聞こえます。




風壁(sylphwand)




小火球(parvusfla)





 見えない風の壁にランプの周辺が遮られ、さらに火球が中に灯ります。炎はやがて燃え尽きたかのように消え……小火球も消え去りました。え、なんで?


「水を掛ければ錬金道具が破損するかもしれない。直ぐに油を入れなおす。器具が熱くなっているので、手袋をするのを忘れないように」


 ああ、ヘルタさんに確かに言われていました……金属もガラスも熱には強いけれど、急に冷やすと割れたり歪んだるするからって……だから、燃え尽きさせるようにしたんだと……本当に幼児なのかなプルちゃん。


「それに、ランプの油の補充は一旦火を消して、温度が下がらない間に素早く油を補充してから、もう一度火をつける事と言われていた」


 は、はい、確かにその通りでした!! あー すっかり忘れてしまっていました。錬金術って私にはやっぱり難しそうです。





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本作のスピンオフ元
『灰色乙女の流離譚』 私は自分探しの旅に出る
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本作とリンクしているお話。王国側の50年後の時間軸です。 『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える

― 新着の感想 ―
[良い点] プルちゃんしっかり者ですね♪ ビーちゃん… …火と刃物と壊れ物、貴重品は扱わない現場から学ばないとダメですね…
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