03 私は街を見守ります
03 私は街を見守ります
皆さん、私一応、冒険者ギルドにも登録しているんですよ。素材採取とかの依頼や奉仕依頼を受ける為になんですけどね。そこで、ちょっとしたお仕事を発見しました。
『塔の見張人募集。経験不問、週七日間できる人。衣食住完備 週給大銀貨一枚……』
大銀貨一枚は銀貨十枚です。一週間で大銀貨一枚稼げる人は腕の良い職人さんクラスにならないと難しいです。それに、衣食住完備で……なんてとてもすごい待遇な気がします。
「こんにちは。あの、この塔の見張人の仕事って、星無でも受けられますか?」
「こんにちはビータさん……え、貴方がこの仕事を受けるんですか!!」
顔見知りの受付のお姉さんがとても驚いている。ゲイン修道会でお仕事をしているものの、所謂家事手伝いの範囲から大きく外れるような内容ではない。だから心配してくれているのだと思うのです。
「塔守とも言われるんですが、大概、お年寄りの仕事なんです」
「……そうなんですか」
家族もいない年配の元冒険者や兵士がなるのだそうです。一日、塔の上の見張台にいて、周辺を監視し異常があれば知らせる仕事だそうです。
因みに、城壁の上を巡回したり、街の中を警邏するのはそれぞれ別の『衛兵』の仕事なので見て知らせる仕事なのだと言います。
「えーと 何を知らせるんですか?」
「一番多いのは火事です」
なるほどと私は思いました。てっきり、魔物やどこかの傭兵団が現れるのを監視するのだと思っていました。
昼間は外の警戒も大事ですが、夜は門を閉じているので、そこまで監視をする必要もありません。大体、よく見えませんしね。昼間は周辺の異常がないかと市内の監視。よりは主に、火事が起こらないか市内を確認するということになります。
「それと……食事も休憩もトイレも塔の上で済ませることになるから大変ですよ」
交代制ではなく、塔の上に住んで監視し続けるお仕事。その代わり、週替わりで別の人がお仕事をします。それなら、実際は二週間で大銀貨一枚ですから、それほど割のいい仕事もでもないかもしれません。それでも、一週間は別のことが出来ますし、本を読んだりプルちゃんに勉強を教える時間
もとれそうです。
え、勿論一人じゃ寂しいのでプルちゃんも一緒です。
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幸い、暑くもなく寒くもない季節です。暑い時期は風通しが良い高い場所にあるので案外過ごしやすいかもしれません。けれど、冬や嵐の時はとても大変そうです。
メインツは一周数キロはある城壁に十以上の見張塔が立っていますが、全部に見張がいるわけではありません。戦争とかになったら別ですけど、いつもは四人くらいで見ています。夜中も半分半分で寝ているので、一応、全然寝られないわけではありません。
日没後から夜中までを監視する組と、夜中から明け方まで監視する組があります。私は、新人なので楽な夜中まで組です。
「おお、あんたか。メイヤーさんとこの……」
「ブリジッタです。ビータとお呼びください」
「ビータ嬢ちゃんか。ワシはダフィトだ。あんたと交代で一週間づつ見張をする。寒いし眠いかもしれんが、真面目にやらんといかんからな」
「も、もちろんですダフィトさん!!」
背後にいるプルちゃんに気が付き、ダフィトさんが心配げに声をかけます。
「お嬢ちゃんも一緒なのかい?」
「そ。ビータ一人は心配」
「はっはっ、しっかりした子だね。大変になったら、休憩時間にでも降ろしてあげればいいさ。まあ、頑張りなさい」
ダフィトさんは子供の頃に見た記憶があります。確か、衛兵の班長さんで門で何人かを束ねるお仕事をしていました。立ち仕事は大変ですから、退職してここで座って周りを監視する仕事に変わったのかもしれません。
因みに、火事や魔物の襲撃があった時には、備え付けのラッパを吹きます。プー……プー…… と間隔をあけ二回ずつ鳴らすのが魔物や人間の賊に対する襲撃の知らせです。火事の時は連続してプープープーと三回吹きます。
これは、塔に登る前に練習で吹きましたが、結構大変です。
それに、野営するのと変わらない環境だというので、厚手の毛の男物の服に、ウールの外套を羽織り、足元も革製のブーツでまるで旅人か冒険者のようないでたちです。
監視場所にはハルバードが備え付けられていますが、私が振り回せるとはとても思えないので、見てるだけです!
でも、念のために腰にはバゼラードとバックラーを括りつけてあります。御守りみたいなもので、本当に護身程度の装備です。いつか、ヴィーに使い方を教わって、自分の身くらいは護れるようになりたいと思います。
さて、ワクワクの夜更かし体験始まるよ☆
――― そう思っている時代も私にはありました。
さ、寒い、鼻水と涙が止まりません……うう、こんなに風が冷たいとは思いませんでしたぁ……
おまけに、霧雨が吹き込んできてしっとりと服が濡れています。外套は着ていますけど、既に水を含んで重くなっています。プルちゃんも似たようなものです。かなり心配です。
「……失敗しちゃったね……」
プルちゃんを私の外套の中に入れます。少しでも暖かく感じられればいいんですけど。屋外で寝るのは初めての体験。これで、行商の旅になれば野原で寝る事もあるわけで……朝起きたら夜露でびっしょりなんて事もあるのだと思うと、心が折れそうです。
「大丈夫。壁を作るから」
『風壁』
空気の壁ができたのか、吹き込んでくる風と霧雨が当たらなくなりました。え、最初からやってくれれば、こんなに水浸しにならずに済んだのに……
『小火球』
私たちの目の前に、こぶし大の炎が浮き上がります。あ、これは本当に燃えている炎です。暖かさを感じます。
やがて、風の壁の中が暖かい空気で満たされると、私たちは湿った外套を脱ぎ、乾かすように備え付けの椅子の背もたれにそれを掛けました。
こういう感じで、天気の良い日は気持ちのいい職場で、夜も星空が綺麗な場所で、将来的な野営の練習にもなると、私とプルちゃんは……プルちゃんの魔術の恩恵を受けながら、快適な塔の見張人として働くことが出来ました。やっぱり、プルちゃんだよりになったのは……役割分担?