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02 私は抜歯を手伝います

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02 私は抜歯を手伝います


 大道芸人というのは、街の広場や大通りで芸を見せながら商品を売る商人さんたちの事です。怪しい物を売っている人もいますけれど、お祭りのようで、口八丁手八丁の口上と実演でショーを見ているみたいです。


 そんなお祭り気分で楽しく物を売る『大道芸人』と比べると、今回、お手伝いする事になった『大道医』さんは、ちょっと楽しくありません。





 怪我をした場合、薬師さんから薬を買ったりして付ける事もありますし、切り傷や骨折の場合は『理髪師』の所に行きます。大概、風呂屋の傍か中にいます。入浴時に髪を切る人が多いからですが、髪を切るのと傷を縫う、矢を抜くなどと言った行為が同じ人物が担っていたからという話があります。


 修道院などでは、外科医を務める人が平時には理容師をしていたからという理由で、市井に戻った際に理髪師を務める事になったということもあるようです。滅多に髪を切る場所に怪我人を連れて行かないので、私自身にはあまり実感がないですけどね。


 そして、今日紹介されたのは『大道医』の助手の仕事です。え、どうしても手伝ってほしいってギルドの職員さんにお願いされちゃって……みんな……嫌なので直ぐに辞めてしまうそうです。

 




 いま私は、若干血の跡が残るエプロンを身に着け、修道会で着るような黒っぽい地味なワンピースに髪を隠して口元には布を巻いています。目以外は顔を露出していないので、これなら私とわかりません。


 今日もプルちゃんが近くで大道医さんたちを見学しています。攫われないかちょっと心配ですけど、精霊さんたちもいるので大丈夫だと思います。


 大道医のおじさんは、この街でいつも仕事をしているわけではありません。この街からコロニアの間の大きな街を巡回しながら月の内メインツには四日くらい滞在しています。大きな街だと二三日、小さな街だと一日二日街の広場で屋台のように店を広げます。


 いつもは年配のパワフルなおば様が専門で依頼されているのですけど、今回は娘さんの出産に立ち会うので『ビータちゃんこれも経験だよ☆』と顔見知りの職員さんに押し付け……お勧めされたので私がとりあえず一日だけでもお手伝いすることになっています。


 正直、ヴィーといると多少血生臭い経験もするので……だ、大丈夫じゃ無いかなと思っています。






――― そう思っている時代も私にはありました。






 どう見ても怪しい派手な衣装を着た太っちょのおじさんが大道医さんです。どう見ても……大道医芸人さんです、本当にありがとうございます。道化師か怪しい金貸しにしか見えません。


「聖なる医師、パラケススス様の一番弟子である吾輩が……『嘘つけ藪!!』『お前、先月も来てたじゃねぇか』……口上は省略だ!!!」


 罵声が飛び、ヤンヤと声が掛かる中、太っちょのおじさんは地面に杭で打ち付けた頑丈そうな椅子に最初の患者さんを座らせます。


 年齢はうちのお父さまより少し上でしょうか、ですが、頭が禿げ散らかし、歯も何本か欠けているような不摂生さの滲み出ている貧相な男性です。


「お、奥歯が痛くてたまらねぇ。わりぃ歯抜いてくれ!!」


 あー 多分歯磨きとかしなかったんでしょうねー でも、見た目より若いのかもしれません。酒飲みで歯を磨かない人は四十手前で歯茎が腐って抜けてしまう事が多いですから。それで、固い物が噛めなくなって、食事が取れずに亡くなりますね。


 歯は健康の元なので、大事にしたいものですね。


「助手君、左右の腕を椅子のひじ掛けに固定してくれたまえ」

「は、はい!!」


 歯を抜くのはとても痛いので、暴れても動けないように椅子に体を固定します。大道医のおじさんは胴体を椅子に括りつけています。もう、身動ぎすることも出来ません。


「次、口を閉じられないように、当て板を噛ませなさい」


 はい、痛みで口を閉じられないように、拘束具で口を開け、さらに板を嵌めて閉じられなくします。


 座っているおじさんは、もうフガフガ状態です。この辺からかなり見世物度が上がります。因みに、座っているおじさんは饐えた匂いがします。お風呂にもあまり入らない気がします。


 因みに、私は今、おじさんの頭に帯紐を結んで、後ろで頭が動かないように背もたれに頭を押し付ける役目をしています。完全に動かせないのはヤットコで歯を抜く際に頭を動かす都合上、ひもで縛りつけたくないからだそうです。そして、頭皮の脂で残り少ない髪もギトギトでバッチいです!




 患者さんの口に、ヤットコを入れ、抜くべき虫歯をがちっと掴みます。


「あ、歯が砕けた……」


 どうやら相当ボロボロの歯だったようで、引き抜く前に砕けてしまったようです。この場合……次の段階に移ります。先ず……


「ランセット寄越しな助手君」

「はい!」


 ランセットというのは、L字に小さな刃をつけた切開用の道具です。これとヤスリを使って砕けた歯を全部外す事になります。腐った歯は顎の骨まで腐らせてしまうので、そのまま放っておくと確実に死期が早まるのだそうです。まあ、そんなに差がない気もしますけれど……


『Ugaaaaa!!!!』

「しっかり頭を押さえて!!」

「ははは、はいぃぃ!!」


 腕に帯を絡め体重をかけて引っ張りますが、患者さんは暴れる一方です。口の中を刃物で切るわけですから痛いのは当たり前です。


 周りはその姿を見てゲラゲラと笑っています。公開処刑みたいなものですね。お金を払って自ら見世物になるなんて……とてもチャレンジャーな人です。その精神を衛生観念方面で発揮すれば、こんなことにならずに済んだのではないかと思います。


「おい!! 力を入れろ!!」


 大道芸人から私に罵声が飛びます。なんでこんなヒョロガリのおじさんがこんなに力があるのでしょうか!!


彫像(statuam)

静寂(silentium)


 患者さんが石の像のように固まり、声が聞こえなくなります……


 後ろを振り向くと、耳を塞ぐ手を下ろしプルちゃんがサムズアップしてくれています。ああ、今日もプルちゃんのお世話になってしまいました。でも、この仕事は一日限りで辞めさせてもらいます。向いていません私には。


 大道医の歯医者さんは元々旅芸人の一員だそうで、大道芸人たちと街々を巡る生活をしていたそうですが、この辺りで名前が売れたので固定で回り歯を抜くようになったのだそうです。


 歯を抜いた後は、蒸留酒で口の中を消毒することになるのですが、そのまま飲み込んで酔っ払う人も少なくありません。と、消毒用の蒸留酒を飲みながら大道芸人医のふとましいおじさんは教えてくれました。





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本作のスピンオフ元
『灰色乙女の流離譚』 私は自分探しの旅に出る
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本作とリンクしているお話。王国側の50年後の時間軸です。 『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える

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