エピローグ 私はヴィーが無双するのを再び目撃します
20 私はヴィーが無双するのを再び目撃します
帝国の傭兵達は『ランツクネヒト』と呼ばれています。元々は、仕事のない農民の若者が出稼ぎのように集められて武器を持って戦争に参加するようになったのが始まりだと聞いています。
傭兵団の団長さんは、大概、貴族の庶子であるとか、帝国騎士である程度読み書き計算などできなければ務まらないようですね。
この傭兵団は「東暁」といい、オタ団長が率いています。オタとはベーメン風の名前で、帝国ではオットーと呼ばれることが多い名前です。意味は『財産』です。貴族の子弟にありがちな名前なので、出身はそうなのかもです。
ですが、他の傭兵同様、左右非対称の衣装を着て髭も伸ばし放題、変な頭巾を被っているので、ぱっと見は宮廷道化師のように思えます。ですが、顔つきが険しく、長く戦場にいる人なのであろうと思わせます。
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どうやら、幾つかの集団に別れ、街道をゆっくり進みながら盗賊団か異民族の戦士団を包囲する予定のようです。傭兵団が正面を受け持ち、公爵家の騎士団や兵士が大原国側に回り込む予定だと聞きました。
「ねえ、ヴィー。追いかけられた敵がこっちに向かってくるのではないかしら」
「よく気が付いたねビータ。多分そうなる」
「……ですよねー」
騎士や兵士に追いかけられた敵がこっちに向かって来たら戦闘になる
んじゃないの?
「ならない。向こうも傭兵でこちらも傭兵ならお金で解決する問題だから」
今までの討伐が上手くいっていないのは、傭兵団同士の関係を優先し、騎士や兵士のいる部隊を避け、傭兵団の担当区域から外に脱出しているからこそ成立する突破だったと想定されているのだそうです。
つまり、ここに突入して来たら……ヴィー達がなんとかしちゃうってことでしょうか。
――― そう思っている時代も私にはありました。
どうやら、酒保商人が大きく店を広げ始めました。
「どんどん酒とか出しちゃって!!」
「どうしたんですか急に。まだこれから戦いが始まるんじゃないんですか?」
「ん、いやまあそうだけど、話がついたんだそうだ」
ヴィーの話していた「手打ち」がなされたのでしょうか。懐の温かくなった傭兵団長から酒保解禁と酒をふるまうように指示されたのかもしれません。
その日は、夜中まで大騒ぎ。私たちも随分遅くまで働かされました。
そして翌日、昼頃までグダグダしていた傭兵団が夕方前にざわつき始めます。どうやら、探している傭兵団がこの後すぐにすり抜けていく予定なのだと言います。
「そろそろ始めなきゃかな」
「準備万端」
「では、ひと暴れしてきます。プルさんをお借りしますね」
「え。ちょ、ビルさん?」
ビルさんがプルちゃんを肩車すると、風のような速さで走り去っていきます。
「ビータは馬車の中にでも隠れていて。さっさと終わらしてくるから」
ヴィーはそういうと、傭兵団の指揮所に向けて歩き去っていきます。
暫くすると通過しようとしている相手の傭兵団が見えてきましたが、最もこちらに近づいた辺りで『裏切りだ!! オタが裏切りやがった!!』という大きな声が聞こえます。
そして、すれ違う傭兵団が大きく混乱し始めたようです。え、そりゃ、大声聞えたら顔出して見ちゃうじゃないですか。俄かに砂塵がもうもうと上がり、剣戟の音と、断末魔の叫び声が聞こえます。
『裏切り者を殺せ!!』
『団長がやられた!! 怯むな、切り殺せ!!』
物騒な声と打ち合うような金属音が徐々に大きくなっていきます。ああ、これをヴィーは仕掛けたかったんだな……と私はようやく理解することが出来ました。
恐らく、プルちゃんも向こうの傭兵団に切り込むビルさんを魔術で援護しているのでしょう。肩車されて。ヴィーは……また埋めちゃっているかもしれませんね。
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夕暮れ時、その野営地であった場所はすっかり戦場となっており、無傷の傭兵はほとんど残っていませんでした。いたとしても……ヴィーとビルさんがちょこんととどめを刺して回っているようです。
酒保商人さんたちは大騒ぎが始まった後急いで逃げ出したようで、私達以外にはこの元野営地に生きている者はいませんでした……
やがて、東の方から、大きな旗を掲げた騎士達が走り寄ってくるのが見えました。多分、あれがヴィーへ依頼をした公爵家の騎士様たちなのでしょう。中に、聖騎士と思われる方もいらっしゃいます。メインツの大聖堂にもいらっしゃる教会を守る騎士様です。
「オリヴィ=ラウスはいるか!!」
聖騎士様がヴィーを呼びます。ヴィーが騎士様に駆け寄り、一言二言会話をし、恐らく傭兵団長の遺体を確認する為に連れて行くように見えます。私は、一人でいるのが怖くなり、死体の転がる場所を周りを気にしないようにぽてぽてと歩いていくことにしました。
「確かに、オットーだな。相手の傭兵団長も……」
「それは私が確かに仕留めております。確認されますか?」
「いや、数的に見て問題ないから特に不要だ。今回は、裏切り者を処分
する事が最大の目的だから。オットーさえ殺せていれば問題ない」
ということで、公爵家では裏切り者の討伐をヴィーに依頼していたのでしょうが、あえてこの二つの傭兵団を同士討ちに持ち込む策を行ったようです。やっぱり、ヴィーって高位冒険者なんだなと実感しました。
「派手に殺し合ったみたいだけれど、公爵家的に問題ない?」
「まあ、傭兵同士のいざこざで私闘があった……という事ではないからな。依頼を受けた傭兵団と元傭兵の盗賊団が正面からぶつかり合って、双方全滅した……ということで問題ない」
はあ、そういう事ですよねー
「あ、ビータ無事だった。一応紹介しておくね、こいつは元盗賊で私に命を救って貰った聖騎士で、ブレンダン公の庶子で聖騎士のバルド。バルド、この子は私の親友でメインツのメイヤー商会の娘でブリジッタよ。よろしくしてあげるわ」
「……なんでお前が許可するんだ。ブリジッタ嬢、バルドと申します。訳在って今は教会の聖騎士をしております。以後よろしくお願いします」
私はかっこいい騎士様に挨拶されて、ちょっとのぼせあがってしまいました。そして、このことは何かのたびにヴィーに揶揄われる良い思い出になります。
fin
『就活乙女の冒険譚』完結です。読んでいただきありがとうございます。
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投稿開始。妖精騎士の物語 第四部の裏で活躍する修道女達の成り上がり。
没落令嬢どんとこい!~修道院に送られた四人の令嬢の物語~『聖エゼル奇譚』
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