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19 私は先祖の仕事に興味を持ちます

19 私は先祖の仕事に興味を持ちます


 酒保商人という人たちがいます。軍隊に従い、その行動を共にしますが、軍隊の一部ではなく『遍歴商人』の末裔の一つの形でもあるようです。


 元々、狩猟と牧畜を主な生活の糧としていた帝国に住む住人は、もっと東に住んでいたのですが、沢山の馬に乗る遊牧の民との争いに敗れ、森の多い帝国の地に移り住み、森を開墾し、村を築いて生活を始めたのだと言われています。


 全員が戦士であった時代もありましたが、開墾に専念するものの中から戦う事に優れたものを選び、十人に一人が専業となり他の九人から『年貢』を集めるようになります。


 これが「騎士」「貴族」の始まりと言われています。


 村と戦士の館、そして教会しかない時代、街はなく、あっても定期的に襲ってくる賊に盗まれたり破壊されるため、帝国内にあった古帝国の都市もやがて無くなってしまいます。その頃にはまだ、商人は店を構えていました。


 都市が無くなり、店舗を構えることが出来なくなった結果、全てが商品を持って馬車などで売り歩く『遍歴商人』となる時代が長く続きました。その場合、教会や修道院、川の渡し場や橋の周りに『市場』が立つようになります。


 その修道院・教会と市場に定住するものを守るために柵で囲うようになり、やがて聖征でカナンから石壁の技術が伝わると、古帝国以来作る事の減った城壁を備えた街ができるようになり、今に至っているようです。


 さて、聖征をはじめ、軍隊が移動する際には全て現地の住民から食料を調達するわけには行きません。それに、人のいない場所だって通過します。という事で、一部の遍歴商人は、軍隊の移動に連れ添うようになります。『酒保商人』の始まりですね。


 我がメイヤー商会も、今は穀物を主に扱う商会として歴史を重ねていますが、そもそもいつの事かは知りませんが、聖征に付き添った酒保商人がルーツとされています。ですので、一度はそういう仕事も請け負ってみたいと考えていました。でも、私とプルちゃんでは……ちょっと無理がありそうなので、臨時の手伝いで経験するのが関の山だと思います。




――― そう思っている時代も私にはありました。




『代闘士』の際、メインツに立ち寄ったヴィーは、ある提案をしてきました。


「ビータとプルと私とビルの四人で臨時にパーティーを組もうかと思うの」

「どうしたの急に?」


 ヴィー曰く、酒保商人の護衛兼手伝いをするのに、女手が少し欲しいのだという。王国には「女性酒保商人」というものがあるそうで、所謂女給さんが食事を提供する酒場のようなものを野営地に開くのだそうです。


 帝国でもそういう試みは面白いのではないかという事で、ヴィーが懇意にしている公爵様の騎士団と傭兵団の遠征に同行し、それを試みたいという依頼があったのだというのです。


「期間はそれほど長く無いと思うの。長くて二月くらいから。いきなり行商の旅に出るよりも、集団で軍に同行する野営を経験しておくのも悪くないと思うけど。どうする?」

「……行く……」

「プルちゃん……決断ハヤ!!」


 私の場合、両親に承諾がいるから即断できないだけです。




 酒保商人の手伝いをする為に暫くヴィー達とパーティーを組むという話を両親にしたところ「是非行ってきなさい」と認めてもらえたのは、このところの私の成長が著しいからだと思うの。


「オリヴィに同行してもらえるという機会を逃すのは人生の大きな損だ。それに、一度ブレンダン公の領地を見ておくことも良い経験になる」

「ヴィーちゃんとビルさんがいるのだから安心だわ。お願いするわね」


 私の事、掠りもしていませんでしたね。確かに、私自身も不安で仕方ありません。


「ヴィーの観察力や社交性は冒険者として問題ないレベルだと思います。私やビルは顔も名前も覚えられてしまっているので、情報収集にはビータやプルの方が向いていますから。今回は、その絡みもあります」


 え、聞いていませんよ。何でプルちゃんが深く頷いているのかな?




∬∬∬∬∬∬∬∬




 メイン川を下り、ブレンダン公の領地に入り、騎士団との合流を目指します。お話によると、東の大原国との国境線の周辺都市に、異民族の集団か賊と化した傭兵団が出没し、荒しているとのことで、ある程度規模を動員して包囲する為に軍を発するのだそうです。


「今回は、公の騎士団だけではなく、一部傭兵も動員しているのね。そのお目付け役というか監視役として酒保商人の護衛兼使用人としてついて行くということになってるのよ」


 つまり、何度か討伐に出てもその都度逃げられているのは、内通する傭兵がいるのではないかという事なのですね。その中で、一番怪しいけれど、腕もある傭兵団に……我々の冒険者パーティーが送り込まれるということなのです。


 それにしても、いつ見ても良い馬車と良い馬を持っています。馬車は行く先々で拿捕した馬車を乗り継いでいるようで、相変わらず出鱈目なほど魔法の袋からひょいと出してきます。


 馬は今回、途中まで私とヴィー、プルちゃんとビルさんで二人乗りで移動、合流場所で馬車を出し、荷駄もその際に馬車に魔法の袋から移していかにも酒保商人の一員とその護衛という(なり)をします。




 酒保商人は傭兵隊長と契約を交わした商人で、今回はヴァンディエールという名前の商人さんが同行しています。一応、こちら側の人ということになっていますが、実際は分からないというのがヴィーの見立てです。


 見た目は太った禿げ親父で、私の事をジロジロみて来たのですが、プルちゃんから『雷電(tonitrus)』を頂いて、大人しくなったようです。確かに、馬があれだけ暴れるのですから、普通の人間ならかなり堪えることでしょう。お腹のぜい肉で守られている分丈夫そうですけれど。


 酒保商人は、お酒や嗜好品の他に売春婦なども管理しているそうで何故か着飾った女の人がいるなと思っていたのですが、そういう理由であったことを知ります。私は、地味な冒険者服なので……多分大丈夫です。


「ビータは、私かビル、プルの誰かと必ず一緒にいなさい。どこかに連れ去られてもおかしくないから」

「……で、ですよねー」


 寝る時も馬車の中で寝て良いと言われ、私とプルちゃんは馬車泊となります。


「世の中には、素人の女の方が好みという人も少なくありません。ブリジッタさんは商家のお嬢様ですから、傭兵が手の届く存在ではないので……かなり危険だと思います」


 うう、ビルさん、この時点でそんなこと言われても……困りますぅ……


「大丈夫。三人いればこの傭兵団ごと潰せる」

「それはそうかも知れないわね」

「ヴィー一人でも大丈夫そうですよ」


 確かに、百人くらいの傭兵団なら……ヴィーが穴掘って埋められるから多分大丈夫なんでしょうね。






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本作のスピンオフ元
『灰色乙女の流離譚』 私は自分探しの旅に出る
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本作とリンクしているお話。王国側の50年後の時間軸です。 『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える

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