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16 私はメイン川の渡し守を務めます

16 私はメイン川の渡し守を務めます


 メイン川に限らず、川を渡す渡し守と呼ばれる船頭さんが存在します。橋を架ける場所は大きな街に面している場所が多く、当然橋を渡るのは只ではありません。橋の利用料は結構高いので、仕事で使う以外ではあまり利用する人はいません。


 同じように、川舟で対岸に渡す仕事をしている人がいます。渡し舟は、馬車も載せられるくらいの大きさがあり、両岸に渡した太い綱で教導し、櫓でこぐ事で対岸へ移動することになります。


 当然、私の仕事は櫓をこぐ力仕事ではなく、乗り降りの補助や船上で何かあった場合の対応をする事です。


「メイヤーさん所のお嬢さんがお手伝いか。しっかり頼みますよ」

「はい! 精一杯頑張ります!」


 老舗の商会の娘ですので、船頭さんたちも顔見知りです。いつもは渡して頂く立場ですが、今日は渡す側に立つのはなんだか不思議な気持ちですね。





 メイン川の川幅は500mほどあるので、渡るにはそれなりに時間がかかります。それに、メインツは川の合流点が近いので流れが速いため、渡し場は少し川下にあります。


「なんだか、今までと比べると、とってもゆったりした気持ちになりますぅ」


 お客さんに挨拶しながら乗船を促し、荷物のバランスが悪かったり、妙な物を持ち込む人がいないかどうかを確認します。何故なら、『船頭』ではなく『渡し』『守』であるのは、川を渡って対岸に逃げる悪事を働いた人を取り押さえる事も仕事のうちだからですね。


 え、そんな仕事私ができるわけないじゃないですか。胸を張ってお答えしますよ。ええ、気がついたらさりげなく教えるまでが『手伝い』の範囲です。





――― そう思っている時代も私にはありました。





 渡し船には荷馬車が何台か乗っているのですが、その一つの荷台にある樽が不自然に振動しています。


「ねえ、プルちゃん。あの樽、おかしな動きしているみたいだと思わない?」

「そうかも」


(syl)(sonus)』」


 プルちゃんの魔術で樽の周辺から漏れ出る音を聞き取ってもらいます。すると、唸るような声が聞こえるとのこと。これは、密かに樽の中に人を隠してメインツから逃げ出す誘拐犯の可能性があります。


 馬車は最後尾に乗っていて、船の上でどうこうできそうにもありません。私は、顔見知りの船頭さんに事情を説明することにしました。


「……ということで、誰か樽の中にいるようなのです。何とかなりませんか?」


 私の問いかけに、船頭さんは渋い顔をします。


「もし仮に、メインツの衛兵や騎士団から通達でもあれば別なんだが、勝手に荷物を改めるのは……権限がないんだ」


 あくまでも委ねられた範囲での確認はできるものの、確かに渡し守に捜査権限は有りません。でなければ、勝手に荷物改めをして……というトラブルが頻発するでしょう。


「すまねぇな嬢ちゃん」


 船頭さんはそう申し訳なさそうに答えます。そうです、捜査権限がないなら、捜査できるようにすればいいんです。それは、私がヴィーから学んだ事でもあります。


「プルちゃん、中は船頭さんでは勝手に調べられないって」


 先ほどのやり取りをプルちゃんに説明します。


「馬車の中身を調べざるを得なくなる方法、何か無いかな」

「……まかせて」


 プルちゃんは何か腹案があるようで、私はドキドキしながら対岸に船がつくことを待ちます。




∬∬∬∬∬∬∬∬




 最初に人が下り、次に先頭の馬車から船を卸していきます。そして、怪しい樽の馭者は何やら焦っているかのように周りに文句を言っています。


「こっちは急いでんだ! 早く下ろせ!!」

「安全確保の為に、順番に下船中です。しばらくお待ちくださいね」


 笑顔で対応する私、偉い!! そうしている間に、最後の馬車の下船となります。私はプルちゃんが何をするのか興味津々です。


雷電(tonitrus)


 先ほどの馬車を挽く馬のお尻の当たりに、激しく雷のような光が迸ります。馬は棹立ちになり、馬車を引きつつ前の人波に突入して行くのが見えます。えー それじゃないよねー 危ないよね!!


 幸い、下船したてで周りを気にしている人たちがたくさんいたお陰で暴走馬車を躱すことが出来ています。また馬のお尻に青い輝き……


雷電(tonitrus)


雷電(tonitrus)


 先行する馬車にぶつかりそうになり、無理やり進路を変えさせた怪しい樽の乗った馬車は道を外れ、低くなった原っぱに転がるように降りていきます。


「作戦成功」

「……めちゃくちゃ危ないじゃない!!」


 得意満面なプルちゃんを窘めつつ、私とプルちゃんは転げ落ちた馬車に駈け寄ります。


「大丈夫ですか~」


 私が馭者の気を引いている間に、プルちゃんが馬車から転げ落ちた樽に近寄ります。


「お、おいそこのガキ!! 荷物にさわんな!!」

「けがは大丈夫ですか~」

「おい、いいからあのガキ、止めろ!!」


 頭から血を噴き出しながら、何故か自分の体より樽を心配している馭者。明らかにおかしいです。


 バキ


「おい!! ガキ!! 何してんだテメェ!!」

「あー 荷が崩れちゃったみたいですねー ちょっと様子見てきますねー」


 私が樽に近寄ると、中には手足を縛られ、口に布を噛ませられた若い女性が入っていました。ビンゴです。


雷電(tonitrus)

雷電(tonitrus)

雷電(tonitrus)

「ゲエェェェ……」


 馭者改め、人攫いはプルちゃんの魔術で仕留められ、身動きが取れなくなりました。ああこれで一安心です。





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本作のスピンオフ元
『灰色乙女の流離譚』 私は自分探しの旅に出る
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本作とリンクしているお話。王国側の50年後の時間軸です。 『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える

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