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15 私は蜂蜜獲りに森へ向かいます

15 私は蜂蜜獲りに森へ向かいます


 砂糖は高級品で、貴族の人しか手に入りません。内海の島で栽培が始まったり、新大陸で大きな農場を始めたという話も噂では聞きますが、私たちの口に入る事は当分先の事でしょう。


 私たちの楽しめる甘みは果物を除けば「蜂蜜」ということになります。


 ミツバチの巣を農村などで育て、ある程度の大きさになれば、巣を半分位壊して蜜や巣を煮て蜜蝋を取るなど利用します。蜜蝋は手に塗ることで手荒れを防ぐのにとても重宝するので、蜂蜜獲りはとても良い収入になる事が多いです。





 森番の仕事も一段落し、私たちは冒険者ギルドと商業ギルドで仕事を探していました。


「渡し守ってどう?」

「……船頭は辛いよ……」


 そうかな? 一日川の上で舟を操作するのは確かに大変かもしれませんが、最近、森歩きの効果もあり、体力に少し自信があります。


「これがいい」

「えーと……蜂蜜獲り『補助』ですかぁ……」


『蜂蜜獲りの手伝い求む。一日銀貨一枚に、蜜蝋30g進呈。働きに応じて蜂蜜の支給もあり。森歩きに慣れている方優先』


 ふむ、悪くないですね。最近、森番の真似事や羊飼いの補助をしていますから、野歩きは慣れています。


「下の追記も」


 あれ、随分と小さな字までプルちゃんは読めるんですね。感心しました。というか、いつの間に色々難しい言葉を読めるようになったのでしょうか。


『追記:弓銃及び『風』魔術を使える冒険者優遇』


 弓銃を持ち、プルちゃんは多分風魔術を使えるので、私たち向きの依頼かもしれません。




∬∬∬∬∬∬∬∬




『蜂蜜獲り』は狩狼官や山師と同じように、特別に認められた『養蜂家』と呼ばれる方達の特権的業務です。ミツバチの巣を管理し、定期的に巣を半分ほど残して壊す事で、その中にある蜜・蜂の子・巣から採れる蝋などを採取します。


 素人では巣のミツバチを全て殺してしまうしか方法がないため、再び同じ場所に巣を作る事が無くなってしまい、その都度巣を探さなければなりませんし、巣に住むミツバチも死んでしまうので効率が良くないのです。


「まあ、慣れだよ慣れ」

「はぁ……でも、刺されないんですか」

「刺されるさ。でも、針が通らないように全身を守っているから問題ない」


 養蜂家のおじさん『ミエール』さんは私にそう説明します。


 顔には細かい目の金網を巡らせた兜をかぶり、厚手のキルティング製の鎧下に薄手の革鎧を着こみます。手は厚手の手袋に革の小手。ブーツも膝下まであるものを着用し、ブーツの中にハチが入り込まないように裾は始末してあります。


「戦場に行くみたい」

「そうだな。おチビちゃんの言う通り、この先のハチの巣は俺にとっての戦場だからな」


 確かに、ハチに刺されて死ぬ人もいると噂では聞きますね。


「何度か刺されると、毒に対して弱くなるみたいだな。だから、初めて刺される分にはそれほど怖くないと思うぜ」

「……なるほどですが……あまり刺されたくないですね。痛そうですし」

「そりゃ痛いよ。ハチも巣を守るには命懸けだ」


 ミツバチ以外のハチも針で刺しますが、ミツバチだけは針が刺さったまま毒を流し込み続けるので、余計に痛いのだそうです。


「針の先に、ミツバチだけ『返し』がついている。釣り針みたいにな」

「それじゃあ、針が抜けないじゃないですか」

「そうさ。だから、小さなハチだからって弱いってわけじゃないのさ」


 花畑で飛び回るミツバチはビロード色の小さな可愛らしいハチです。それが、敵に向かう時は、一致団結し襲い掛かってくるというのは……とても興味深いかもしれません。



――― そう思っている時代も私にはありました。





 ハチの巣は、高い場所にあり手が届かないようなものは……残念ながら半分残すということが出来ないので、弓銃で落とす事になります。


「あの巣を落してもらうから、下に草を敷き詰めるのを手伝ってもらおうか」


 巣を落して中身の蜜が飛び出してしまっては意味がありません。ですので、出来る限り壊れないように、巣の下に草を引き詰めます。


「いらない」

「……いや、それじゃあ、巣が壊れちまうんだよおチビちゃん」

「ビータが撃ち落としたら、『風』魔術で周りを囲んで地面まで落とせる」


 どうやら、プルちゃんは『風壁』で巣の周りを囲む事で、巣を守ることができるようです。そんな魔術を見たことがないミエールさんが半信半疑なので、私は他の物で試してみるように説明します。


 私は、クルクルとまとめたスカーフを空中に放り投げます。


風壁(sylphwand)


 空中の落下速度は大きく低下し、やがて地面にふわりと落ちます。


「……どう?」

「ど、どうって、すげぇなおチビちゃん。俺は詠唱無しのこんな見事な魔術見たのは初めてだ。もしかして『魔女』なのかい?」


『魔女』というのは、悪い精霊と取引をして自分自身を対価に、特別に力を借りる偽魔術師のことです。対価は自分の命や、愛する者の命から色々なものがあります。五感や指や目と言った体の一部を対価に要求される場合もあるとか。


「まさか。この子は『精霊』の『加護』持ちなんです。だから、魔術も年齢以上に上手に使えますし……ちょっと浮世離れしているんです」

「なるほどな……その年で冒険者やれるのも、そういう理屈なんだな」


 ヴィーは詳しいのでしょうけれど、私の知っているのは『プルは精霊の加護を複数持っているから、ほとんど制約なく精霊の魔術が使える』という説明の範囲内です。


 このことは、かなり珍しいことなのであまり大っぴらにしないようにと言われているので、いつもは精々、水と風の加護くらいしか使いません。


「じゃあ、早速、嬢ちゃんの弓銃で落としてもらえるか」

「は、はい!!」

「……命中するかどうかの方が心配。巣の上の部分を狙うこと」


 うえぇ……そんなピンポイントで……と思ってしまいました。ですが、プルちゃんの風魔術で矢をコントロールしてもらい、何とか巣を大きく壊さずに射落とす事ができるようになりました。


 それからしばらく、二人はミエールさんの仕事を手伝い、沢山の巣を綺麗に片付けることが出来たという事で、多めの蜂蜜と蜜蝋をボーナスとして戴くことが出来ました。ラッキーです!!




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本作のスピンオフ元
『灰色乙女の流離譚』 私は自分探しの旅に出る
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本作とリンクしているお話。王国側の50年後の時間軸です。 『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える

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