09 私は鉱山を探して街を出ます
お読みいただきありがとうございます!
09 私は鉱山を探して街を出ます
メインツからコロニアにかけて、メイン川流域には鉄の鉱山がそれなりにあります。コロニアに武具工房が多いのは、その辺りの事情があるのかもしれません。
街の中での臨時職の経験もそれなりに積んだ私は、少し街を離れることも考えて仕事を見つける事にしました。
商業ギルドでは街の外での仕事を見つける事は難しく、冒険者ギルドに足を運びます。メインツ近郊で日帰りで出来る仕事。もしくは、近隣の街に泊りがけで行く程度の仕事でしょうか。
野営は『塔守』の仕事で大変そうだと思っているので、余り乗り気ではありませんが、一日くらいなら大丈夫な気もします。流石に風が吹き込むような場所では野営しないでしょうから。
何度か足を運んだのですが、「これは」という仕事がありません。それに、私は『星無』の冒険者ですから、素材採取以外の仕事が見つかる方が珍しいのです。
「……ないですねー」
今日も空振りかと思い立ち去ろうとすると、顔見知りの職員さんが話しかけてきました。
「ブリジッタ嬢、これ、掲示前の物ですが、貴方でも受けることが出来ます。検討されるのなら、暫く掲示しないでおきますよ」
その内容は以下の通りです。
『メインツ近郊に詳しい方。野営の可能性ありですが、基本は街を起点に活動します。山野を歩くことになるので、健康な方で我慢強い人を希望します』
報酬は一日銀貨一枚ですが、食事と宿泊先などは相手負担となっています。悪くないような気がします。多分、パンと薄いスープとかなのでしょうけれど。
「仕事内容がはっきりしませんけど、どんなことをする予定なんでしょう」
「ああ、ハッキリはおっしゃらないのです。なにせ『山師』さんですから」
『山師』というのは、貴族ではありませんが特権を有する方達です。本来は、自由に様々な領地を移動することはできませんが、この方たちは『鉱山』を探すという点で自由に出入りが出来るのです。また、薪炭や狩猟に関しても大きな裁量が認められている別名『森林貴族』等と呼ばれる事もある
方達なのです。
故に、傭兵ほどではありませんが割と傍若無人な方もいるので、怖い人、という印象を持つ街の住人は少なくありません。勿論私もです。
「どんな方ですか?」
「お名前はヴェルベルクさんです。お年はメイヤー様と同世代でしょうか。見た目も言葉遣いも豊かな商人のような方ですね。それに、錬金術や薬師のことも学ばれているので、教養のあるかたです」
私は、ヴィーのイケおじを想像した。少し、興味が持てる人だ。少なくとも、野蛮人ではなさそうだ。
「一度お会いして、一日だけお互いに試してみることは可能でしょうか」
「ええ。先方も力仕事をするわけではないので、快活で社交的な方をお望みでしたので、私も提案してみます」
若い男性ではどうも山師手伝いを受けそうな冒険者に心当たりがなく、掲示しても問い合わせだけで大変そうだと考えていたそうで、職員さんも少しホッとしている感じを受けた。
∬∬∬∬∬∬∬∬
翌日、冒険者ギルドで、ヴェルベルクさんと私、そして……
「このお小さい方はどなたでしょうか」
「私の従者でプルと言います。小柄ですが、中々優秀なのです。ただ、無口ですし人見知りなので私以外との会話は難しいかもしれません」
「……こんにちは……」
今日は如何にも従者という格好をさせたプルちゃんを連れてきている。お母さまは「心配だわー」とお話していたが、お父さまと弟は「プルちゃんがいれば安心だ」と言い切っていた。幼児に負ける私のクオリティ……解せぬ。
「それほど深い山に入るわけではなく、メイン川に沿って鉱山を探していく仕事の最中でね。ここからコロニアまでの間を徐々に川を下りながら調査していくことになるんだ」
メインツ近郊だけで依頼を止めることも出来るし、気に入ればコロニアまで長期で同行してもらう事も可能だとヴェルベルクさんは言ってくれた。
「では、明日は北門で待ち合わせをしよう。門が開く時間には直ぐに出たいので、朝早くなるが大丈夫かい?」
「は、はい。パン工房でも仕事をしておりましたので、早起きは大丈夫です」
そう、なら良かったと言葉を交わし、翌日、私は野営も可能な装備を背負いの雑嚢に収め、プルちゃんには革の水筒を持たせ足元はしっかりとしたヴィーの作ってくれた皮の柔らかいブーツを履く。プルちゃんとお揃いだ。
北門で挨拶を交わし、渡し船に乗り対岸へと渡る。いよいよ私の行商人への道が始まった。
――― そう思っている時代も私にはありました。
川岸を離れ、森の奥へと向かうヴェルベルクさんを追い、私とプルちゃんは遅れまいと一生懸命に歩きました。彼は時折、地面を確認し、懐の地図に何か書き込みながら、森の奥へ奥へと進んでいくのです。
「疲れたかい?」
「……いいえ大丈夫です! 私も、この子も」
「……」
時折声を掛けられるものの、お昼の休憩まで何も仕事らしい仕事の話もなく、足はドンドンと進んでいきます。
昼食を済ませた頃には、そろそろ戻らなければ渡し船もなくなるのではないかと不安に思っていると、森の中に忽然と広がる集落が目に入ります。どうやら……そこには住んでいる人がかなりいて、何かを運んでいるように
見えます。
「ここは、私の鉱山の一つでね。みんな鉄鉱石を掘り出してくれているのさ」
木の柵で囲われた野営地のような集落には煤で汚れたような男の人や小さな子供が沢山います。あの先の穴のような場所が鉱山の入口なのでしょう。
「でも、鉱山を探しに来たのですよね。何故、ここに立ち寄ったのですか?」
ヴェルベルクさんの顔が今までの愛想の良い笑顔から一変して、冷酷
そうな顔に変わります。
「それは、今日からお前がここで働くからだよ。男どもの世話をいろいろしてもらわねばならない。若い女はどこでも貴重だ。もう少し器量が良ければどこかの娼館にでも売ったんだがな」
なんてことを!! 娼館勤めとここで飯炊き女をするののどっちがましかという最低な選択肢を考える前に、プルちゃんだけでも逃がさなければと思っていたのですが、二人は別々に捕らえられ引き離されてしまします。
「安心しろ、あのチビは鉱山の狭いところで仕事をさせる。運が良ければ何年か生き延びるかもしれねぇ」
鉱山は危険な場所、狭いところはそれだけ崩れやすいから大きく掘れない場所だと言います。鉱山では、よく生き埋めになる事故が起こる事を考えると、私もプルちゃんも絶体絶命なのです!!




