プロローグ 私は街で仕事を探します
『灰色乙女の流離譚』第二幕から登場するメインツの街娘『ビータ』が商人ギルドや冒険者ギルドの紹介を受け相棒の孤児プルちゃんと様々な職業を経験しながら成長する……冒険譚です。
物語はヴィーの旅立ちから数か月後から始まるものです。
親友のオリヴィ=ラウスことヴィーがメインツを旅立ち、冒険商人の修行に出てからはや数か月。街を訪れるたびに会いに来てくれるのは嬉しいし、プルちゃんもとても楽しみにしている。
けれど、婚約者もいなくなり、私自身の将来の事を考えると実家で家事手伝いという名の無職を続けていくのは少々心苦しい。家族は傷心を気遣い、しばらくは修道院で活動しつつ新しい出会いを探るということで今は専らプルちゃんの相手をして過ごす毎日だ。
でも、ヴィーが会うたびに成長している気がして、その冒険譚を聴くたびに「私も何かしなきゃ」という思いが胸に募る。プルちゃんの相手をしつつ、でも自分も何か遣りたいのだ。自分だけができる事を。
そんな私が経験した、様々な街で勉強したことをここに綴っていこうと思う。
商業ギルドに私は登録をしている。これは、以前、修道会でお手伝いをする時に、商業ギルド経由の奉仕依頼という形で受けた時に登録したものだ。商業ギルドは、色々な商売に関わる『臨時職』を仲介している。
資金繰りが悪化して一時的に仕事を畳んだ商人を景気の良い商会・商人が期限付きで雇わせてもらう。また、見習のような関係で手伝いを依頼する事もある。期間は一ケ月から半年と限られているが、間に商業ギルドが入る事もあり、雇用主も被雇用者も安心できる内容が多い。
仕事を紹介してもらうなら、家の伝手やコネを使えば良いと思うかもしれないが、それじゃあ私自身じゃなく、実家の商会の関係で雇われた『お客様』扱いにしかならない。護衛のいる『冒険者』みたいで、それじゃあ全然修行にならないと思う。そういう物語ってあるじゃないですか。王子様のお忍びみたいな感じのやつです。
そして、仕事のできる商人や忙しい商会の空気を感じて、その中で自分らしく生きる商売を見つけられたらなと思ったんだよね。
プルちゃんは職場によっては手伝いとして連れて行こうかと思っている。将来、ヴィーと旅に出るなら、お手伝いくらいできないといけないし、それに、プルちゃんは無口だから、もう少しお話しできるように色々な人に会わせた方が良いと思うの。
目と肌は仕方ないから、髪だけはウイッグを付けて白髪が目立たないようにしようと思っている。あと、設定は男の子にしておく。女の子が喋らないのはおかしいと思われるけど、男の子で言葉が遅い子は全然珍しくないから。
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「こんにちは」
「おお、メイヤー商会のお嬢さんじゃありませんか」
メイヤー商会は、手堅い商売でメインツでも名の知れた食品関係の商会で、諸侯の軍の兵站なども任されることのある大きな商会なので、私の事もそれなりに見知った人がいる。ギルドの顔見知りの職員さんが声をかけてくれたというわけです。
「今日は商会の御用で?」
「……いえ……商会とは関係なく……お仕事をしてみたいと思っておりまして……『臨時職』を見に参りました」
「なるほど。修道会絡みですね」
いいえ、自立する為です!! と言えずに私は「ええ」とか「まあ」とか適当に答える。お金はともかく、自分でもできる仕事を選びたい。実家の名前の影響のない仕事を……これなんかどうかしらね。
「『洗濯女』……はどうでしょうか」
「……力仕事ですぜ」
横で募集用紙を見ていた男性が私に呟く。そう、力仕事……ヴィーは私より細い体なのに、重たい物だって平然と持つ。
(作者注:魔術師だからです。身体強化使っています!!え、元から力持ち……)
お母さまも「若いうちに運動しておかないと、年を取ってから太るのだから、若いうちに痩せていることは良い事じゃないわ」とおっしゃっていました。若い頃に体を使っている方が、痩せている人が多いというお話です。
洗濯は力仕事なのであれば、私もお仕事をしながら太りにくい体質も手に入れられるということです。なんて素晴らしいのでしょう!!
――― そう思っている時代も私にはありました。
私は、プルちゃんが「洗濯するの見たい」というので、渋々洗濯の場に連れて行くことにしました。初日から、子供連れで心証が悪くならないか心配でしたが、むしろ話し相手に丁度いいくらいの感じで、ウエルカムな空気になりました。
「今日からしっかり働きなよ。細っこい腕して、まあ無理せずに続けられるようなら続けな」
「は、はははは、はい!!」
樽のような体をしたマーサさんがこの洗濯場の責任者です。洗濯物を預かり、洗濯して乾かし、ものによってはアイロンなどを当ててお返しすることになります。
洗浄する為の薬剤や水を使うので、常に湿気ていますし、床は濡れて滑りやすそうです。最初に、手に油をしっかりと塗り込んで、手の油が無くなってガサガサにならないように注意しろという事でしたので、持参のものをしっかり塗り込みます。
あ、足踏みで洗濯をするので、足にもしっかり塗り込みます。
「最初は、あの樽に入れて水とあとは……これを入れるんだよ」
凄いにおいのブツを示されます。ナニコレ……
「知らないのかい? 糞尿を入れて洗うと、汚れが落ちるのさ」
「……」
知りませんでした!! え、汚れないの? うんちとかだよ!!!
最初に樽に入れ、かき混ぜる帽子掛けの出来損ないのようなものでグルグルと汚れ物をかき混ぜます。なんだか……弟が子供のころ粗相した時の片づけを思い出す臭いがします……
そして、グルグルが……すっごい腕が疲れる。重たい、水を吸った衣類って……なんなのでしょう。
「水……かき混ぜればいい?」
座ってみていたプルちゃんが呟きます。そう、見ているのは楽だけど、動かすのは大変なんだよ。もう、指も腕もプルっちゃってます。
『水流』
あれあれ、樽の中の水がグルングルンと渦を巻きます。おお、これはもしかして『水』の魔術かもしれません。えーと、プルちゃんのお陰かな?
「頼んだら良いよって」
「そ、そう。ありがとうね」
「うん」
こうして、仕事の半分はプルちゃんの魔術で片付き、その後は、足踏みをし、すすいで絞って乾すだけ……だけです。
『脱水』
「……ありがとう」
結局、私は足踏みと乾すだけの仕事になってしまい、この仕事を続けることは諦めました。次の仕事は、ちゃんと一人で出来るもん!!
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スピンオフ元のお話。
幼馴染の勇者に婚約破棄され、村を追い出された私は自分探しの旅に出る~ 『灰色乙女の流離譚』
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