2 トレーディングカードゲーム
そして、メイデンドールが突然、ぼくに名刺を差し出した。
「こういうものです」
ぼくはびっくりした。
あたり前だ。
まだ中学生なのだし、普通は名刺など持たない。
ぼくは名刺を読んだ。
それには、
メイデンドール
とあった。
あと、住所とか、電話番号とか、好きな食べ物(この項目、必要か?)とか、いろいろ書いてあったわけだ。
ぼくは、彼女がふざけているのだと思った。
まず、メイデンドールとかいう、人間離れした名前が、変だ。とても。
メイデンドールはどういうつもりか笑っていた。
おかえしに、ぼくも名刺だと言って、ポケットから「無双龍騎ボルバルザーク」をだし、それをわたした。
「こういうものです」
レアカードだったが、禁止カードなので、持っていても使えない、と判断したのだ。
それらは当たり前のように交換された。
「ほほう」
とメイデンドールが真面目にカードを見て言うので、ぼくはメイデンドールがふざけているのか、本気なのか、よくわからなくなる。
とにかく、ふざけているにせよ、大真面目にせよ、これでぼくたちの関係は赤の他人から知り合いということになった。
それを公園にいた子供達が見ていた。
異様な光景だったと思う。
よくわからないものを交換して、晴れた日に傘をさしていて……。
そして。
それ以来、そのまま、ふざけているのか、本気なのかわからないような関係が、ずっと続いていくことになる。
メイデンドールが消滅するまで。