1 傘をさす
むかしむかしあるとことに、おじいさんとおばあさんがいました。
だけどそいつらのことはどうでもいい。
消滅したメイデンドールの話をした方がよさそうだ……。
ぼくと彼女が初めて出会ったときは、確か雨が降っていた。
いや、違う。
よく晴れていた。
あれ、待てよ、でもあの時ぼくたちは傘をさしていた気がする。
ということは、雨が降っていたのではなかったか?
ところが、あの時、
「今日はいい天気だね」
「うん」
という会話を交わしたということも、確かに覚えている。
それならば、やっぱり、晴れていたのだと思う。
じゃあ、あの傘はいったいなんだったんだ。
日傘?
いや、それはない。
メイデンドールならともかく、ぼくは日傘など所有したことが一度もないのだから。それに、あの時、季節は春だった。日差しは柔らかく、長く見つめていられるほどだったのだ……。
じゃあ、天気予報で、後で雨が降ると言われていたから、晴れていたけど、傘を持って行った?
だけどそうだとすると、わざわざ傘を広げて、さしていた意味がわからない。
雨が降ってから、傘をさせばいいのに。
ええい、細かいことはこの際どうでもいいや。
とにかく、よく晴れていた春の日の午後、ぼくたちは偶然あの公園で初めて出会い……どういうわけか傘をさしていて、
「今日はいい天気だね」
「うん」
という会話をした。




