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第8話 情報収集

先程シオンと別れたが、さして問題は無い。予定より少し早かったが、方向性を違える事くらいは想定している。だが、こうして王都に入れたわけだ。ひとまずは良しとしよう。



それにしても四天王の一人を倒したからか随分と賑わっているな。だが、もちろん祭りを楽しむつもりはない。俺には王都で真っ先にやるべき事がある。



『あ、あんた…何やってんの!何でシオンと別れちゃったのよ!謝りなさいよ!どうにかして仲間に入れてもらいなさいよ!』



喧しい声が聞こえると思ったらシルフィか。何だ、お呼びじゃないんだが。こいつにさっきの理由を説明するのも面倒だ。適当な言葉で言いくるめておこう。



「方向性の違いだ」



『ふーん、方向性の違い…って、バンドか!…あんたねぇ!今はいがみ合っている場合じゃない事くらい分かるでしょ!?』



「別に敵対する訳では無い。目標は同じだ。ただ一緒に行動すれば向いている方向の違いで揉める可能性が著しく高いと判断した。それを重要局面でやれば即敗北。仲間割れは最も避けるべき行為だろう?」



いざという時、俺とシオンで考えが割れるケースが何度かあるだろう。そうなった際、考えが似通った人間同士ならば衝突の可能性は極めて低い。だが、衝突して揉めている隙を突かれること。そして揉めた末に独断先行されることを避けたい。



『そ、それこそちゃんと話し合いなさいよ!あんな一方的にさよならなんてあり得ないないでしょ!』




「あの堅物を説得するのに時間を割くぐらいならもっと有意義なことに時間を使いたい」




『それに可能性の話をしたらキリがないでしょ!』



「価値観なり物の見方は大事だぞ。見ている方向が合わなきゃ大抵破綻する。それを歴史が物語っているだろう」



ガチ勢とエンジョイ勢は常に対極にあり、押し付ければ崩壊する。自身のプレイスタイルを押し付ける過激なガチ勢とは忌み嫌われるものではある。しかし、今回のような異世界転生で世界を救えとなれば話は別だ。




そして俺が呼ばれた現状を鑑みるに考えうる限りの最適解を打ち続けなければ勝つのは難しいだろう。そんな状態で仲間であるはずの勇者に足を引っ張られるのは論外だ。




「あと言っておくが、信用していい確率は100%と0%だけだ。それ以外はあてにすんな」



「お前は最初に言っていたよな?12人の勇者を召喚するも魔王には敵わなかったと…」



『はぁ!?何弱気になってんのよ!あんたは勇者!世界を救うために選ばれた勇者なのよ!』



弱気になるならないとかそういった気持ちの問題ではない。魔王なんていう得体の知れない難敵を気の持ちようごときで倒せてたまるか。



「もう普通にやって勝てる相手じゃねぇって結果が出てるんだ。正攻法やってる暇なんてない」




シオンを見た限りあいつは『普通に強い』。そうあくまで『普通に強い』の域を出ていないのだ。



今回はその『普通に強い』では叶わなかった。



しかし、他にやりようはいくらでもある。そう、いくらでも。



「任せろ。どんな汚い手を使ってでも絶対に世界を救う」




『そ、そこまで来ると…なんか頼もしいわね…』




「分かったら今後は極力俺の方針に口出しするな。さっきも言ったが、俺とて世界を救う気ぐらいはある」



『それで?どこにいくの?やっぱり酒場?』




ゲームでは正解だ。ゲームでは。だが、現実はそんなに優しくはない。



「…お前は昼間から酒場にいるような人間の中に優秀な仲間がいると本気で考えているのか?」



『いるかもしれないじゃない!普段は飲んだくれだけどやる時はやるイケメンなおじさんとか!』



「お前それアニメの見過ぎだぞ」




『黙りなさい!底辺オタク!!』




神様がこんな底辺オタクにガチギレして恥ずかしくないんですかー!!とでも返したくなったが、流石にこれ以上は話が進まなくなる。こちらとしては早めに黙らせておきたいが、お前のアドバイスは必要ないと言えるくらいもっとこちらがしっかり考えていることを伝えるべきだろう。




「そもそもお前はなぜ酒場を勧める?仲間の探し方なんて他にもあるだろう」




『この世界に限らず大半の勇者は最初に酒場に行くわ。情報収集も出来るし、仲間を募集している人も沢山いるわ』




飲んだくれがまともな情報を流すと思うか?それにあそこにいるであろう荒くれ者共とまともな会話が出来るとは思わない。十中八九喧嘩になるだろう。不要なトラブルは避けたい。



ただ一応仲間を募集してはいるみたいなのでもしも仲間がどうしてもいなければ…と、いった最終手段にはなり得るか。



『へへん、分かったわ。本当は怖い人に絡まれるのが嫌なだけなんでしょ!』




「…分かっているじゃないか。俺の容姿は他人に舐められやすい。そんな人間が酒場に行けば柄の悪いやつに絡まれるのは自明の理。時間の無駄だ。お前の話に付き合うのと同じくらいな」



そんな柄の悪いやつに限って口だけ達者で大した実力がないくせに報酬関係にはがめつい奴ばかりだ。



もし仲間にするなら俺は対等な関係を築くことが出来る人にしたい。そうで無ければいない方がマシだ。


『う、うるさいわね!あんたなんか仲間がいなきゃ絶対魔王を倒すのは無理なんだから!』




分かってるとも。現状では凄まじく強い仲間を手にするか俺が覚醒でもしなきゃ魔王には勝てない。無論、俺とて努力はするが、最初のステータスを見た限り俺には才能が無い可能性の方が高い。誠に遺憾だが、シルフィの言い分は正しい。



「仲間の厳選は必須事項か」




『厳選って…他に言い方ないの?』




「一度人間界の婚活パーティーでも見てくると良い。分不相応にも高収入・高学歴・高身長の男を厳選する女共と美人を厳選している男共。異性の事をアクセサリー程度にしか見ていない奴らがうじゃうじゃ見られるぞ」




「言い方に悪意ありすぎでしょうが!!」



何だ、厳選は悪か?人間はあらゆる物を厳選するじゃないか。服、食べ物、家、仕事、趣味、ペット、友人、愛人、婚約者。それを悪だと言うのか?



「仲間を厳選するにせよ勝手や相手の中身が分からず、妥協個体を掴まされるのが一番避けなければいけないことだ」



『妥協個体!?掴まされる!?あんた人のことなんだと思ってるのよ!』



俺は世界を救おうと万全の準備を整えているだけなのに何故ここまで言われるのだろうか。別に俺とて普段から周りの人のことを妥協個体とか呼んでいるわけではないし、自分のことを理想個体だとか思い込んでいる痛い人でもない。ただ今回は違う。失敗すれば全てが終わる。ならば真に最強の仲間を集めなければならない。




「お前にも分かるように簡単に言うぞ?美味しい苺を探している。さぁ、何を見る?」




『何って…そうね、色だとか大きさだとかつぶつぶかしら』




「そう、それ。色や大きさ、つぶつぶ。あとはヘタなんかもチェックポイントだ。今の俺はそのチェックポイントが分からない」




「だからこそ!最上級に美味しい苺を見つけ出すために俺はそのチェックポイントを知らなくてはならない」




今回は苺で例えたが、これをこちらで換言するならば…魔法至上主義の世界で凡百の剣士を仲間にしてもほとんど役に立たない。といったところだろうか。

俺はまずこの世界の強さの物差しを知りたい。



『な、なるほど…なんかあんたがまともな事を言っている気がするわ』




「まぁ、それが分からなきゃ強い人間の名前や能力。強い理由が知れたらそれで良い。ソシャゲを始める前にリセマラランキング上位を調べるようにな」



『やっぱあんた最低な事を言ってるわね』



「いずれにせよ、知識、情報の習得は必須だ。早速書物を漁る」





召喚前にシルフィから聞くことが出来たのは勇者達が何をしたか。何故俺を召喚したのかという経緯だけ。



俺はこの世界の事が全くわからない。闇雲に出かけるのは危険だ。そういった意味で言えばシオンにはもう少し案内役を頼みたかったのだが、やってしまったものは仕方がない。




「本当はこういうの事前にシルフィが下調べしておくもんだろう。やれやれ」



自分の代わりに世界を救えと言っておきながら自身は高みの見物を決め込み、ともすれば口煩く指示を出す。なんてクソゲーなんだろうか。だが、所詮。これが現実だと言うのなら俺は潔く諦めよう。



俺とて合理的かつ指示を出した意図が分かるのなら命令されようが従うのもやぶさかではない。



しかし、シルフィの指示はどうにも『あんたは私が召喚してあげた勇者。だから黙って私の指示に従えばいいのよ』みたいな合理性のない俺に対してマウントを取りたいだけの浅はかな思考しか見えてこない。



どうせ異世界転移させる神々の中にはこいつのように送るだけ送って適当に叱咤激励を飛ばせばどうにかなるとでも思っているやつがいるのだろう。一度目はどうにかならなかったはずなのに。



『…はぁ、最近の若い勇者はこれだから…すぐ攻略本だの強い武器だのを欲しがるんだから』



俺はあくまでも世界を確実に。そして可能な限り最小限の犠牲で救うために使える物は何でも使おうとしているだけなのに何故それが伝わらない。犠牲が出てからでは遅いんだぞ。



不覚にも腹を立ててしまった俺は真面目に煽るのも面倒になっていたので最小限の言葉で返すことにした。



「黙れ老害」



『ろ、ろ、老害!?何を以てそんなこと…』



「お前は人間の歳に換算すりゃ100歳余裕で超えてるだろ?つまりいくら見た目で誤魔化してもババアはババアなんだよ…むしろその努力が痛々しい」



『ひ、ひっぐ…うわああああああん!アオリのバカぁ!』




「俺の情報は絶対にこれ以上他の神に晒すなよ。たとえ親兄妹、親友。勇者を召喚していない神であっても細心の注意を払え」



『うるさぁぁぁい!!それくらい分かってるわぁぁぁぁぁ!』



よし、これで静かになった。これから行く場所でうるさくすれば出禁になりかねない。早めに帰らせておくのが正解だ。



図書館か本屋。俺が求めているのはそのどちらか。まずは近くの人から本が沢山ある場所を聞こう。



俺は先程会った武器屋の店員に図書館の場所を聞くことにした。幸先が良いことに図書館のことを知っていたので詳細を確認したところ城下町のずっと北の外れにぽつんと建っているらしい。

 


「ここが話で聞いた図書館か」



想像以上に大きいな。もしかしたら俺の求めている物も手に入るのかもしれない。



「お邪魔しまーす…」



流石にいきなり無言で入るのは失礼なので軽くノックをした上でしっかり挨拶をして入る。そして俺がドアを開け、中に入ったのと同時にドサッという本を落とした音が聞こえた。



「あ、あの!わ、私の図書館に…何かご用…ですか?」




可能な限り驚かせないように努めたつもりではあったが、どうやら司書の方を驚かせてしまったらしい。




メガネをかけた内気そうな司書の黒髪ロングヘアーの女性は驚きのあまり口をぱくぱくしている。突然の来客でフリーズしてしまったのだろうか。



とりあえず俺はこの司書が反応できる状態かどうか確認のため、そしてここに来た目的を果たすために要件を伝える



「ここに歴史の本はありますか?」




「…あ、れ、歴史の本…ですね、あります。今持っていきますね」




よし、司書は起きているな。良かった良かった。流石にあの無数の本棚から狙った本を探し出すのは至難の技だろう。




「貴方が知りたいのはこの国の歴史ですか?…それとも勇者と魔王の歴史ですか?」



「どちらも興味はありますが、まずは勇者と魔王の歴史から」



今回俺のような力の無い者が世界を救うためにまず知らなくてはならないものが歴史だ。魔王はかつて封印されていたかどうかとかもしも封印されていたら封印をした方法とか魔王を倒した伝説の武器があるかとか。歴史から知る事が出来る要素というものは思いの外多い。あとは俺達がどう使うかだ。





「そ、それにしても…歴史を知りたいなんて…珍しい方…ですね…」




「変ですか?」




「あっ、いえいえ!別にそういうわけではありません!よ、よろしければ私がお話しましょうか?」




「いいんですか?」




「はい、どうせ人は来ませんし。ただ全て話すとかなり長くなってしまいますので少しかいつまんでお話しいたしますね」





司書さんの話を端的にまとめると突如先代勇者が施した魔王の封印が解かれ、世界の半分以上は魔王軍に支配されてしまったのだという。東西南北の4つの大陸は全て魔王軍に侵略され、この世界の大多数の住民は中央大陸にある絶対不可侵の地。今俺達がいる『王都』に住んでいるようだ。



そして、世界を救うために救世主として現れた十二勇者は魔王に立ち向かったものの2人の勇者がやられ、撤退を余儀なくされた。


「こうして、今に至ります」



「おぉ…」



シオンやシルフィの話を聞いていたが、ここまで分かりやすい話し方は他に無い。一番有意義な時間だった。



それにしてもこうやって図書館で話しながら勉強となると昔を思い出すなぁ…




「どうかいたしましたか?」




しまった。つい気を緩めてしまった。この先どんな情報が魔王討伐に役立つか分からない。しっかり聞いてメモをしなくては。




「い、いえ。何でもありません。ただ何故ここの人々は突如現れた方が勇者様であると分かったのですか?」



俺が前々から思っていた疑問の一つ。何故日本から突然来た得体の知れない人間をこの世界を救いに来た勇者だと思えるのか。普通の感性があれば勇者を名乗る不審者をはい、そうですか。と信用したりはしない。



「一つ目は神様からの信託…そして二つ目は…勇者様が召喚された時は一瞬膨大な魔力が発生したからです」



「ふーん、なるほどね」




「勇者の皆様は例外なく常人を遥かに超越した魔力を持っています」



「それが…つい先日同じような反応があったそうです」




どうやらこいつは13番目の勇者が現界したという事を知っているみたいだ。もしやこいつも勇者なのか?


 


「そしてまた奇妙な話ですが、同日、南大陸の四天王レオンハルトと幹部のデスボルトが討伐された」




「…つまりどういう事だ」




「私は二つの仮説を立てています。一つ目は13番目の勇者様がありえない高レベルで現界し、四天王と幹部を倒した。二つ目はその勇者がものすごく頭の回る人間で一緒にいた勇者と共に倒したか。です」




「共に倒した?」




「聖剣勇者シラト・シオン様。彼女はその魔力源の調査を引き受け、南大陸のヤスガンの村に行かれました」




「貴方、あの村でシオン様と会いましたよね?」



「えぇ、シオン様はとてもお強い方であの四天王をあっという間に倒したのです」



「…そうですか。ありがとうございます」



「申し訳ございませんが、本日はそろそろ閉めようと思います」



「…また明日、来ても良いか?」



「えぇ、歓迎いたします。またいつでも来てくださいね」





図書館は閉まってしまったが良い情報を聞くことが出来たし、司書の人も中々良い人そうだ。今後図書館ではあの人を呼ぶとしよう。



「この後は新武器を探すとしよう。流石に短剣では心許ない」



薬草系の回復アイテムはとりあえず後回しで良い。今現在の俺では物理攻撃を無効化する相手への対処方法が無い。何か良さげなアイテムを探し出す必要がある。


「今考えるとシオンと別れたのは少し惜しかったな…」




あの真面目堅物のシオンであれば自分が使わなくとも下調べくらいはしていただろうに。




どうして俺はあそこまで才能を至高の物とし、努力を否定したかったのだろうか。やはり許せなかったのだろうか。努力をすれば全てどうにかなるなんて浅はかなあいつの考えを。




「いやいやいや、今はシオンの事を考えている暇はない」



俺は世界を救いに来たんだ。煽る事しか能のない雑魚に過ぎない俺だが、神々が俺の召喚に踏み切った以上は1%くらいの勝算はあるはずだ。出来ることを徹底的に探し尽す。そして必ず魔王を…




ん?だが、何か大事なことを見落としているような…




「シルフィ、確認させろ。シルフィ!!」



『この電話は現在使われておりませ—』



「頼む、どうしても気になるんだ」



『な、何よ…急に改まっちゃって…そんな態度取ったって私の傷ついた心が癒されることは…』



「そうか、ならお前が職務怠慢で俺のちょっとした質問にすら答えてくれないとアテナ様に言ってくるけど構わないな?」



『な、何でも聞きなさい!答えられる範囲内でなら答えてあげる』



「この世界ってさ、眼鏡普及してんの?」


『…何を聞くと思えば。拍子抜けしたわね…眼鏡は基本的にこの世界には無い。これは確実よ』



「…やはりそうか。シルフィ、お前今一番担当女神らしいよ」



メガネで辺りを彷徨くのはもう自分が転移者だと言っているようなものか。…だが、良い情報を手に入れた。逆を言えばあの司書は勇者だ。



膨大な知識量に鋭い洞察力。そしてあの論理的な考察力。おまけにほぼ勇者確定。これはもう…



「俺の仲間第一号は…あの司書で決まりだ」

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