第4話 証明方法
「13番目の勇者…だと…?はっ、何を言うかと思えば…そんな訳ないだろう。私達は12人で世界を救うようアテナ様から神託を受けている」
案の定鼻で笑われた。デスボルトを倒しただけでは信憑性に欠けるってか。所詮あいつも裏付けにならない程度の実力だったわけね。
「12人もいるのに世界を救えないお前らの不甲斐なさを目の当たりにしたから俺が呼ばれたんじゃないか?」
「…何だと?」
若干声が低くなり、こちらを睨みつけてきた。…よし、プライドは割と高めなタイプ、っと。
「おっと、失敬失敬。これはあくまで俺の推測、可能性の話だ。それよりも…俺が日本から来たってことは割と簡単に証明出来ると思うぞ」
「どうするつもりだ。見たところ【ギフト】もないようだが?」
やはり【ギフト】は本来勇者が当たり前のように所有しているものなのか。だから疑いが中々晴れないと。シルフィめ、大人しく何かくれていればこうはならなかったものを。
「なに、初歩的な証明方法だ。日本の内閣総理大臣の名前を初代から順番に全て。そして主に何をしたかも言う」
「…すまない、それは私が分からない」
「は?お前さては非国民か?」
「日本人でも言えない者が大半だろう!!」
無論そんな事は微塵も思ってもいないが、多少冷静さを欠かせる必要がある。俺が知りたいのはシルフィ程度でも分かるような一般知識のレベルではない。
シオンは言うまでもなく現地にいる人間だし、アテナ様という高位な女神をバックに付けている。おまけにあれだけの実力者。王都でもかなり幅を利かせているのだろう。信憑性が高い情報だけではなく、トップシークレットの情報も手に入る可能性がある。上手く探れよ、俺。
「なら歴代プリピュアの名前を初代から順番に全て。そして必殺技も言う。それなら分かるか? まずは初代。ピュアヴァイスにピュアシュバルツ。必殺技は…」
「尚更分からん!!」
「分かった。なら変身時のセリフも全て言おう。デュアル—」
「だから!私が証明できないと言っているだろう!!」
シオンはいい感じでヒートアップしてるな。思いの外反応も見えやすいし、煽りやすいタイプだ。
「…ならどうすりゃいいんだよ。これ以上はどうすればいいのか分からん」
あえて間違えた事、的外れな事ばかりを言うことで相手に選択肢を委ねる。そうして、相手の情報を引き出すことにした。さて、お前は何を持ってきてくれる?
「そんな回りくどい事をしなくてもスキルの画面を出せばすぐに分かる。何故ならそこには解放した女神の名前が記されているのだからな」
おいおい、人の大切な情報であるスキルを晒せと?
やはり相手からすれば得体の知れない自称勇者。もしかしたら自分より強いかもしれない存在が目の前にいる。そう考えれば当然の帰結か。
…少し考えたが、俺のスキルは見られたところですぐに対策が出来るものではないし、対価としてシオンのスキルが見られるなら…ありか。
「…仕方ない、シオンになら見せてやろう。秘密にしておけよ」
「安心しろ、スキル一覧は許可した相手にしか見えない。お前が危惧している覗き見の警戒は必要ない。それに私も誰にも言わないと誓おう」
「ほらよ、これが俺のスキルだ」
「さて、これでお前の真偽がはっきり…」
煽り Lv.99
煽り返し Lv.99
デコイ Lv.99
ハイド Lv.99
危険予知 Lv.20
短距離瞬間移動 Lv.1
おぉ、新しく短距離瞬間移動が追加されているな。
流石魔王軍の幹部。良い経験値してるじゃねぇか。
詳細を見たところ飛ばせるのは自分のみである上に距離は半径4mと短いが、瞬間移動が出来るのは大きい。
危険予知で物理的に回避出来ない時や刀の射程距離ギリギリで煽ったりするのにも使えそうだな。
「…こ、このスキルでどうやってあの死電のデスボルトを倒したんだ」
そう思うのが当然か。俺もあれは何もかもが奇跡的に噛み合った事とデスボルトがアホだった結果だと思うよ。そしてあいつそんな御大層な通り名があったのか。
「煽り散らして、魔力切れまで粘った後、最大限に研いだ短剣で首を切り飛ばした」
「何!?」
「終わった話だ。そんなことはどうでもいい。それより?人のスキルを見せろって言っておきながら?自分は見せませんよ。なんてことは…ないよなぁ?」
「…分かった。と、特別、だからな」
フラッシュ Lv.99
パージ Lv.99
ホワイト・アウト Lv.99
ホーリー・シールド Lv.99
シャイニング・スラッシュ Lv.99
セイクリッド・バニッシュ Lv.76
シャイニング・ブレイク Lv.30
シャイニング・ベール Lv.20
うぅわ、普通に強そうな技が並んでやがる。テンプレ俺TUEEE系勇者か。勇者の強さ基準は分からないが、強い奴らは基本大半のスキルはカンストしてると考えても良いだろう。
「そうしたらスキル画面を一番下までスクロールしろ。そうすれば担当女神の名前が出てくる」
『女神アテナ』
『女神シルフィ』
なるほど、確かにシルフィのものであろうサインが書かれている。これが俺の転移を証明する動かぬ証拠になるって言うならあいつも少しは役に立ってくれてるな。
「女神シルフィ…?そんな名前の女神は聞いた事がない」
「お前が知らないだけだろう。待っていろ。すぐに呼び出す」
「…シルフィ、シルフィ!シルフィ!!」
…しーん。神界にいるであろうシルフィに呼びかけるも何も反応はない。
「やーい、やーい!デスボルトさんと戦う時、何の役にも立たなかった置物女神パイセーン!息してますかー?今どんな気持ちですかー!?」
「ひ、人って…こんなにもウザくなれるのだな…」
俺を困らせてやろうという魂胆で沈黙を貫いている可能性があったので憤死させる勢いで煽り散らしたが、それでも応答はない。
考えられるとしたら何かしらの罰を受けていて、すぐには反応出来ないといったところだろうか。あいつ泣きながら土下座とかしてるのかな…
「はっ、それ見たことか。シルフィなどという女神など聞いたこともない。そんな得体の知れない名前を言うあたり、やはり新手の勇者詐欺だったか。お前ごときが勇者を騙るな」
理不尽な批判がシルフィを襲う!だが、そんなことより勇者詐欺って何だよ。少し気になるが、今は世界の現状を把握するのが先。この場は再びシオンを焚きつけるプランで行くか。
「いやー、でもさ。あんたは俺を偽者呼ばわりしますけどね?召喚されたての俺にとってはあんたの方が怪しいんだわ」
「私は白戸詩音。【ギフト】は聖剣デュランダルと不滅の鎧インフィニティ。女神アテナ様に召喚された聖剣勇者だ」
え?待て、鎧も【ギフト】なのか…?【ギフト】複数持ちとは贅沢だな、この野郎。
「俺は青井龍一。【ギフト】は女神がくれなかったから持っていない。女神シルフィが召喚した煽り勇者です」
「…煽り勇者?先程のスキルといい、ふざけているのか」
「ふざけてなどいない。文句はそんな才能を引き出したシルフィに言え。てかさ、本当に勇者だって言うなら神を呼び出せんだろ?是非とも実演していただきたいもんだねぇ!」
「アテナ様はお忙しい方だ。応じるかどうか分からない」
「へぇ、長い間いることあってか中々面白い言い訳を思いつくねぇ。やっぱあんたが偽者か?」
馬鹿にした態度で挑発的な笑みを浮かべて煽る。シオンに対してはこれだけで充分だろう。
「っ…よく見ておけ。私こそが本物だということを思い知らせてやろう」
俺の目論見通りに事が運び、アテナ様を呼び出してもらえることにはなったが、酒場で呼び出すのは流石にマナー的に良くない。それに一般人に知られると都合が悪い秘匿事項を話すかもしれないのでさっきシルフィを呼んだ教会にて、アテナ様を呼び出してもらうことにした。
「アテナ様、私です。シオンです。どうか私の呼びかけに応えていただけますか?」
シオンが天に祈りを捧げると神界の映像が映し出され、シルフィとは比べ物にならない程神々しいオーラを放つ女性がシオンと同じ金色の髪をなびかせて登場した。
「おぉ…この方が…アテナ様なのか」
『どうかしましたか?勇者シオン』
「アテナ様。ただ今よろしいでしょうか」
『えぇ。ですが、少しだけお時間をいただけますか?』
「は、はい。構いませんが…」
アテナ様は忙しい方と言っていたのは本当だったのか。やはり女神ともなると沢山の仕事があるってわけか。俺がシオンを焚きつけて、勢いで呼んでしまったが、悪いことをしてしまったな。
『だって…アオリが…私を散々馬鹿にするからぁ…』
『だってではありませんよ、シルフィ!勇者アオイにいきなりあれだけの天罰を下すなんて…今回はアオイに当たらなかったことや目立った器物破損が無かったので厳重注意といった形で大目に見ますが…今度特別な理由なく天罰を下したら…始末書を書いてもらいますからね!』
『す、すみませんでした!!』
用事って…俺の担当女神はアテナ様に土下座して、号泣しながら謝罪をしていた。頼りない事この上ない。女神の威厳とかどこ行ったんだろうな。
『お見苦しい所をお見せしてしまい、申し訳ありません。勇者シオン、そして勇者アオイ』
「勇者アオイ…?それでは、彼は本当に…」
『えぇ、シオンにはまだ報告していませんでしたね。我々はこの度、新たな勇者を召喚いたしました。彼がその勇者です』
アテナ様。何と神々しく、頼りになる女神様なんだろうか。物腰も柔らかく、口調も丁寧。まさに女神の鑑だ。
「お初にお目にかかります。私は13番目の勇者。青井龍一と申します」
『えぇ、お話はシルフィからお伺いしております。先の件ではシルフィが貴方にご迷惑をおかけした事を謝罪いたします』
「いえ、貴方が頭を下げる必要はありません。確かに急に放り出された事には驚きましたが、あとはもう気にしていませんよ」
『ちょっと!何で私とアテナ様で態度が違うのよ!』
「アテナ様は煽る必要がないだろう。必要が無ければ俺とて煽りはしない」
俺にとって煽りは戦術の一つに過ぎない。冷静さや判断能力を欠かせ、情報引き出す。欺く。あるいは隙を突く。そのための手段だ。
不覚にもシルフィを煽っていた時は最初に散々バカにされた事もあって、情報を引き出すという目的を果たす以上に煽ってしまったが。
そしてせっかく上位の女神様が姿を現してくれたので例のアレを聞いてみることにした。
「アテナ様。私、実は【ギフト】を貰っていないのですが、そちらの件はどうなっておりますか?」
この一言で空気が更に一段と重くなり、アテナ様の表情はより険しいものとなった。
『シ、シルフィ…まさか【ギフト】も渡さずに勇者を転移させたのですか?』
『え?あ、あの…いやー、それはですね…何というか…あの煽り勇者には【ギフト】なんて必要ないかなーなんて…事実デスボルトだって、楽勝でしたし…』
楽勝な訳あるか。流石にあんなのがいきなり来るのは想定外すぎたし、決定打が無さすぎて大変だったんだぞ。
『必要ありますよ!!それに【ギフト】を渡さなかった事で世界が滅んだら真っ先に糾弾されるのは間違いなく貴方なんですよ!?』
『は、はい…』
『もし、世界が滅んだ責任を取らされたとしたら…貴方は神界から永久追放は確実。最悪無に帰されてしまいます。そうなってしまっては私は悲しいです』
『ア、アテナ様…!!』
なるほど、ただ無闇に怒るってわけじゃないってところも良いな。もう人間性から他の女神とは格が違うってわけか。いや、人間じゃないけど。
『えー、こほん。勇者アオイ。貴方の【ギフト】は私が相応しい物を用意させていただきます。そのため、2〜3日程時間をいただきますがよろしいでしょうか』
やはりアテナ様に相談して正解だった。早くも【ギフト】を貰う算段がついた。これからは極力アテナ様を頼るとしよう。そしてその為にはやはりシオンを仲間にしておきたい。
「何から何までありがとうございました。アテナ様」
アテナ様にお礼を言って、通信を終えた途端、シオンは突然俺に向き合い頭を下げてきた。
「何だ、急に改まって…おい、やめろ。頭を下げるな」
「すまなかった。私はお前の事を誤解していた。今までの無礼を許して欲しい」
「いや、こちらこそ…些細な事で怒ってしまった。すまない」
「…まぁ、その…なんだ、お前とは長い付き合いになるかもしれないしさ、今後ともよろしく。シオン」
「あぁ、よろしく頼むぞ。アオイ」
よし、まずは聖剣勇者を仲間にした。これは大きい。今後は俺がシオンのサポートに回る。俺が相手の冷静さや判断能力を奪い、シオンのパワーでねじ伏せる。
これで完璧だ。今日はもう疲れたし、宿を取ろうか。
「何?一部屋しか空いてないだと?」
それぞれお金を出し、一部屋ずつ取ろうとしたら一部屋しか空いてないと宿屋の女性に言われてしまった。シオンは信じられないといった顔をして、固まっている。
「はい、残念ながら一部屋しか空いてないんですよ。おまけにベッドも一つしかありません」
怪しい。明らかに怪しい。まず声色が残念ながら〜のそれではない。次に俺と視線を合わせようとせず、シオンに目を向けている。これは俺相手に嘘が効かないと素早く判断し、相対的に騙しやすいと感じたシオンをターゲットにした。といったところか。
「またまた〜本当は何部屋空いているか。さっさと教えてくれないか?」
「一部屋しか空いてませんよ?だって…」
『勇者様!どうぞごゆっくり!!』
はー、なるほど。全員グルか。やってくれたな。シンプルかつ対処しにくい手だ。だが、方法がない訳ではない。
『お前達!デスボルト討伐の報償金が欲—』
「ささっ、夜は長いですし?お二人とも、ゆっくりお楽しみくださいませ〜」
『お楽しみくださいませ〜』
…はぁ、世界一最悪な宿屋だ。おい、お前。指で円を作るな、人差し指を抜き差しするな、俺にニヤついた笑みを浮かべてくるな!
抵抗するも無理矢理余った一部屋に押し込まれた。木造の部屋でテーブルも椅子も簡素な物のみ。失礼を承知で言わせてもらうならいかにもボロ宿といった感じの部屋だが…
「何故かボロ宿には勿体ないというか…やたらと気合の入ったベッドがあるんだが」
何で他の物があんな残念なんだよ。もっとベッド以外に気合を入れろよ。
「そ、そうだな。う、うん」
一体あの女は何を期待しているんだ!!
「ん、この皿に盛ってあるのは…」
山盛りにされている種…でいいのだろうか。所謂ルームサービスといったやつか。そしてよく見るとメモが書き記してあった。
『力の種です。これを飲むとわずかな時間ではありますが、飲んだ分だけ力が上昇します。ありったけを用意いたしましたので夜も頑張ってくださいね、勇者様❤︎』
おい、ここはラブホじゃねぇんだぞ。あの女…マジで覚えてろよ。
…だが、念のためいただいておこうか。いつか使える可能性があるかもしれん。
「アオイ?何かあったのか?」
「い、いや。別に。何でもない」
流石にあのメモをシオンに見せるわけにはいかない。力の種ごと俺がしまっておこう。
「そ、それよりも…ぜ、絶対に見るなよ!?今着替えているからな!?」
「わーってるよ。それ何回言えば気が済むんだ」
俺達は世界を救うために呼び出された勇者であって、その手の事に現を抜かしている暇などない。
シオンと俺のために弁明しておくが、シオンの容姿はかなり整っており、控えめに言っても美人。まさに高嶺の花と言っても過言ではない。
そんな美少女と付き合いたいという願望はない事もないが、頭御花畑になっていては救える世界も救えない。それに余計な感情は思わぬミスを招く。女一人のせいで滅んだ国も存在するくらいだ。
それに…もしも仮に…万が一、いや、もうほぼ無し寄りの無しってくらい低い可能性だが、そうなったとして…あとで何かあるくらいなら…
「ほ、ほら…早く入れ。寒いだろう」
そうこう考えているとシオンが赤面しながら布団をめくり、入るように勧めてくる。
「嫌だったら俺は床で寝ても構わないが」
「う、うるさい!風邪をひかれても面倒だ!早く入れ!!」
「…あいよ。仕方ないから添い寝してやるよ」
「わ、私が頼んだみたいに言うな!!」
異世界転移1日目だってのに…色々ありすぎだろう。
開幕変なところに飛ばされるわ、女神は天罰落としてくるわ、魔王軍の幹部もやってくるわでもう散々だ。
今日だけでやたら疲れたし、早いとこ寝ちまうか。
【危険予知】
凄まじく強い敵がこちらに接近中。
ふーん、危険予知か。まぁ、いいか。寝よ—
いや、良くねぇ!すぐシオンを叩き起こして向かわなきゃやべぇ!!
「—シオン!シオン!!」
多少揺らして叫ぶだけでシオンはすぐに目を覚ました。寝起きが割と良い方で助かった。だが、何か誤解をしているのか酷く赤面している。
「なっ、やはり貴様私を襲うつもりだったのか!このケダモノ!」
「あ!?ちげぇよ!んなことする訳ないだろ!早く外に出ろ!!」
「な、なら私の事を…そ、その…ア、アレに…」
「話は後だ!今すぐ武装して来い!!間に合わなくなっても知らんぞ!」
シオンが【ギフト】インフィニティとデュランダルを装備したことを確認次第、俺はすぐ村の入り口までシオンを連れ出した。
「…全く、一体何だと言うのだ」
「ほら、見ろ。あれだ」
「あれ…?—!?」
奴を見つけた途端、寝起きで半目になっていたシオンの表情が一気に強張った。
現れたのは二足で立つ巨大な獅子。まさに百獣の王といったところか。そして奴から感じるとてつもない威圧感。
確信した。あいつは…デスボルトよりも遥かに…何十倍も強い。もしかしたらあいつが四天王なる存在かもしれない。
だが、俺のやる事は変わらない。例えどれだけ格上の相手でもな。ひたすら煽り殺す。俺のやることはそれだけだ。
それに今回は聖剣勇者シオンもいる。お手並拝見といこうか。
「デスボルトとコボルト達が世話になったな。勇者よ」