22話 スローライフ
エルフの森。その言葉に相応しい大自然。現代日本と対極に属するような素晴らしい場所だ。もしも可能ならば将来的にはこういう場所で誰にも邪魔されずにゲームやアニメ漬け隠居生活をしたい。と耽っていたらノエルの両親らしきエルフが駆け寄ってくる。
「おぉ!無事だったのか…!!」
「えぇ、この人のおかげです」
「娘を助けていただき、ありがとうございます!!」
うぉっ!?近い近い!てかこの人母親か!?どう見ても人間の二十代かそこらだろう…やはりエルフは人間より見た目の変化が現れにくいというのは本当だったわけか。
「いや、私は別にそんなご大層な事は…」
「村をあげて貴方様を歓迎いたします。どうぞこちらへ」
「…あ、あぁ」
やめてくれ、コミュ症に刺さる。てか俺人間なんだが、随分フレンドリーだな。その信頼に押し潰されそうだ。
〜
それからエルフの森生活も1週間が経った。森のエルフ達はみんな優しいから俺も常に他人と争う必要は無い。ここの作物は美味しいし、植物も綺麗。まるで心が浄化される気分だ。争いが無いだけで人はこんなにも穏やかになれるのか。
農作物や植物を育てたり、収穫する以外は全て修業に当てられる。素晴らしい世界だ。1日…いや、数時間で魔力の使い方が凄まじい速度で上達するのが分かる。
インターネットで調子に乗っている害悪プレイヤーにケンカをふっかけて潰して煽り倒す。その上で死ぬほど揶揄って、その怨嗟の声を聞き、悦に浸る。そんなことしかしていなかった俺もこのエルフの森に産まれていたら…敵と呼べる存在がいないこの森でなら…俺もまともに生きられたのだろうか。
そう思うと現代社会…いや、異世界も変わらんから人間の世界か。あそこには敵が多すぎる。
「こんな朝早くから手伝わなくとも良いのですよ?」
ノエルが申し訳なさそうにこちらを見るが、心配することでも無い。
「気にしないでください。美味しい作物は時間との勝負ですから。そもそも俺何も働かずに居座れるような大きな事してないですよ」
「そんな事はないです。あの状況で封印を剥がしていただけなければ私は売られていたでしょう」
「それでも衣食住の恩には報いさせて欲しいです。それに俺は植物は好きなんです。植物や作物は与えただけの愛情を裏切りませんから」
そう、故に愛を注ぐのなら草花や作物などが好ましい。まぁ、百歩譲って人に愛を注ぐのならアニメキャラだ。その愛は俺の見る目が変わらない限り決して俺を裏切らない。花が美しく咲いたり、作物が実る様はいつ見ても素晴らしい。愛の結晶と言っても過言ではないだろう。
「…貴方の身に何かあったのですか?」
「すみません、こういう話はするべきでは無かったですね…」
「貴方の気持ちが軽くなるのなら…是非話していただけますか?」
「…じゃあ、本当に全てを告白します。申し訳ないのですが、少しだけ私のくだらない自分語りに付き合っていただければと」
あれは俺が部活動を辞めて、図書館に引きこもっていた時か。欲しかったのは俺ではなくて速く走れる人間。どうしても嫌だと拒否していたリレーに速いってだけで勝手に出されて、当然連携なんざ取れるわけもなく、無様に負けて俺が皆の非難を浴びて部活をバックれ始めた後。
「俺は虚しさを埋めるために授業をサボって、図書館に入り浸っていたんだ。片っ端から趣味の本を読み漁って一ヶ月か…どう見てもヤバそうな俺に話しかけてきたやつがいた」
「そいつは…俺とそいつしか知らないような互いの趣味で意気投合して…毎日が凄く楽しかった」
「…そんな時、ある日そいつはいなくなった。何の言葉も残さずに。家にも行ったが俺とは会ってもくれなかった」
「誰かにいじめられてたのではないかと疑い、周囲を探ったが何も無かったし、詰めても仕方ない状況だった。そうして俺には無力感と虚しさ。そして他者への不信感だけが残った…ってわけ」
そんな俺だからミサキの魅了が一切効かなかったのだと思う。二次元の創作物しか愛せず、三次元の愛を偽りだと吐き捨てるそんな他人から見れば難儀な性がまぁ、あの時は上手く働くとは。人生分からんな。
こんな事を誰かに言うわけにはいかないからかつい話し込んでしまった。基本的に自分の話を一方的に話すことはしないようにしていたのだが。
「忘れてください。くだらない身の丈話をこうも長々と…ここの生活は本当に楽しいですよ。この世界に来てエルフのみんなと出会う事が出来て本当に良かっ—むぐっ!」
俺が言い切る前にノエルは俺のことを抱きしめていた。俺が今まで感じることの無かった人の温もり。ムスビメと閉じ込められた時はそういう状況じゃなかったからあの時以上にノエルの熱を感じる。胸も当たっていたが、そんな事を考える暇も無かった俺は…気づけば涙を流していた。
「…私にはどんな言葉をかければ良いのかは分かりません。けれど…こうさせてください」
「いや、あの…困る…ですけど…」
俺は最初から人の温もりというものに飢えていたのかもしれない。あぁ、俺が本当に求めていた物はきっと…
「貴方は…優しい人です」
「いえ、それだけは絶対違—」
「本当の貴方は…きっとみんなと仲良しでいたい。誰かと争いたくない。そう思っているのではないですか?」
誰とも争わない世界。そんなものは存在しない。いつ何時であろうと火の粉は突然降ってくる。悲しい話だがな。
「…そこは自分でもよく分からないです。すみません、そろそろ離れてください。あと拭く物をください」
〜
数分後、ようやく涙が止まって気持ちが落ち着いてきた。誰かと触れ合う事は苦手なんだってのを今一度再認識する羽目になるとは。
あの時は感覚が麻痺してたんだな。きっと。
「そうだ、貴方。エルフの力を見たいと言ってませんでした?」
「それはそうですが…」
「私で良ければお伝えしましょう。私達のエルフの魔法を」
〜
とりあえずこの広い草原でノエルからエルフ魔法を教えてもらうことになった。
方針としてはまず封印勇者を倒さなくてはならない。そして他の勇者も同じく確実に。俺の力量だと少なくとも全員に初見殺しをかますのが鉄板か。さて、確実に物にしないとなぁ。
『ア…オイ!』
「…ん?呼びましたか?」
「私は違いますが…」
『ねぇ、聞こえてんでしょ!アオイ!!』
「…ここに脳内に直接声を届ける能力者はいますか?」
「いえ、いませんが…」
『あぁ〜!分かった!秋空美麗!これで分かるでしょ!!てかテレパシー通じてんの分かってるから!テレパシーで返しなさい!』
「…すみません、少し失礼します」
どこにいるかは分からないが、テレパシーを飛ばせるってことは近くにいる…のか?
『おいおい、今雨が降ってんだ。とりあえず屋内に入っていいか?』
嘘である。外はのんびり日光浴が出来るくらいの快晴である。これに対してどう出るか。
『…分かった。時間あげるから早く話するわよ』
よし、視線もない以上相手は俺の状況を見られていない可能性が高い。とりあえず話を聞くとしよう。
『先程ミレイと言ったが、そんな奴は知らん。転移した日本人なら勇者名で名乗ってくれ』
『分かった。言い方を変えるわ。恋愛勇者!あんたに平手打ちされた女とまで言えば流石に分かるでしょ!?』
恋愛勇者か。ムスビメから生意気なメスガキだとなじられていたあいつか。魅了のためとはいえ、もうあいつ服装ぱっと見不審者のそれなんだよな…
『あぁ、分かった。…で、何?俺忙しいんだけど』
『王都から出た記録が見つかったから確認しただけ。戻ってくるんでしょうね』
『…ふっ、言われなくともそうするさ。急に日程ズラしたりとか特殊な水でドーピングとか戦う直前に鉄骨落としたりとかすんなよ』
俺に個人的な怨みがあるなら卑怯な手に出る可能性がある。大事をとって、数日早く到着した方が良さげか。
『鉄骨を落とす?そんなことしない。わたしはわたしの力であんたを叩きのめす。そうじゃなきゃわたしの踏み躙られた尊厳は取り戻せない。日程も提案通りにするわ!何してるか知らないけどあんたはただ万全に存分に準備しなさい。分かった?わたしが伝えたいのはこれだけ!』
…もし、これが本心で言ってんならその気概は嫌いじゃないな。本気で相手しなきゃまずそうだ。
『言われなくとも何度でもブチのめしてやる』
『じゃあね!』
『待て、このテレパシーお前がやってんの?』
『違うわよ、図書館にいたあの—ごめん、やっぱ言えない』
『おけ、じゃあな』
これを境にテレパシーは聞こえなくなった。ミレイ自身の能力ではないと分かっただけ今回は良しとしよう。
「あら、お仲間さんですか?」
「…まぁ、そんなところですね」
嘘とはいえ、まさかミレイのことを仲間呼ばわりするとは。ノエルに気を遣っているのか?俺は。
「では、問題が無ければやっていきましょう!…まずは何故エルフの魔法が人間は使えないか。分かりますか?」
「…それはそもそもエルフが扱う魔法に対する文献が少ないから。でしょうか?」
俺は図書館で歴史を学んだが、エルフは何処かの森にひっそりと暮らしていることしか書かれていなかった。魔法に関しても特殊な魔法が使えるとだけ。中身が分からなきゃ使うに使えないだろう。
そもそも魔法は大気中にある魔力の源みたいな物を取り込み、それを出力すると発動可能な物だ。それが何も教わらずとも出来るようになっているのも異世界転移の特典と言えなくもないな。そんで俺達勇者は人よりそれを多く貯めておける。
「半分正解です。…そしてもう半分は…エルフしか大気中のマナを味方にする方法を知らないからです」
マナ。まぁ、よくある力の源的なアレだよな。まず真っ先に潰したいものだ。この世界じゃ絶対に無理だが。
「マナを味方に?」
「それを知れば貴方はより大きな力を振るうことが可能です。しかし、本来ゆっくり時間をかけて行う行為を強引に押し進めます。厳しくなりますが、お許しいただけますか?」
「当たり前です。私が強くなる理由は一重に貴方達の住むこの世界を守るためですから。お願いします!ノエルさん!!」




