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20話 攻略法

「ほんと…律儀だよなぁ、人が出来てる」


わざわざ俺に報奨金で金貨をこんなにくれるとは。これで買い物にも困らないが…



「新スキルを確認しながら研究するか…」



勇者選定戦を開催するなどと言ってしまったため、案の定シオンと喧嘩し、揉めに揉めた末に一か月のエントリーや準備期間を設けた上で開催することにした。

無論計画通りだ。シオンが一通りの事務をこなしてくれている。なぜなら表向きにはシオンが提案したからだ。その本人が他人に丸投げというのはいかがなものかと圧はかけてあるし、シオンがやると話も通した。



すまん、許せ。俺はその間に修業をしなければならない。目標はムスビメに対する具体的な対抗手段を会得する事。それが出来なければ他の勇者にも勝てないだろう。



ファンサービス Lv.1【NEW】


対象の相手に触れる事で魔力を貸し付け、任意のタイミングで取立てを行う事が可能。もし取立て不可能な場合は未返却分の魔力に応じて相手の魔法やスキルを差し押さえる事が可能。



今回の戦闘で得たスキルがこの『ファンサービス』。扱いにくさが多少あるが、どれくらいのレートでやり取りが可能なのか。利息がどれぐらいかを調べる必要があるな。



『何なのこれ。すっごい悪趣味なスキルね。ファンサービスって名前が付いているのが不思議なくらい』



「え?…何で?ファンサービスだろ?おかしいか?」



『…???疑問を感じないの?』



「ファンはスターに全てを捧げる。こちらが与えた上で最後には搾取する。その行為をファンサービスと呼ぶのは言い得て妙じゃないか?」



スターが必ずしもファンの期待に応えてくれるとは限らない。故にそこは距離感を弁えるべき。俺はそう思う。まぁ、裏切られて発狂する人間を傍から眺めるのは素晴らしい娯楽だがな。



『分かった。もう何も突っ込まない』



しかし、俺の能力ではムスビメには勝てない。全力で戦えば負けるのは確実に俺。ファンサービスは下手な奴に魔力を渡せば自分の負け筋を生み出す。格上にはあまり使わないのが得策か。



「少し旅に出る。シオンのことをよろしく頼む」




「は!?あんた私についてくるなって言いたいわけ!?」




「勝つためにはな。今のままでは俺はムスビメには勝てないし、ムスビメが勝てない魔王にも勝てないだろう。違うか?」




「そ、それは…」




言い淀むシルフィ。やはりこのまま正攻法で勝てるなんて甘いことが起こるわけないな。どんな手を使ってでも勝つ手段を見出す必要があるわけだ。



「でも!行く場所くらい言いなさいよ!!」



…お前は何を言っているのか。言うわけないだろう。俺は小学生にでも理解できるくらいゆっくり分かりやすく諭す。



「お前に言えばムスビメを筆頭として、シオンやミサキ。あるいは他の勇者に情報が漏れる可能性がある」



「…アオイ、貴方はムスビメやミサキ達も信用してないわけ?」



拳を握り、震えている様から怒っているのだろうが…俺がそもそも話をしているのは信用とかどうとかっていう話じゃ無いのだが…一応説明するか。通じなければ諦めよう。



「信用問題では無い。ミサキには俺のスキルを半分以上。ムスビメには俺のファンサービス以外の全スキルが特定されている。このままでは勝てないし、裏切られたり、洗脳されたら詰む。ムスビメへの確実な攻略法が今は無いんだ」



おまけにその二人には攻撃予測が割れている。あまりにも致命的すぎる。記憶を消せる魔法があるなら一刻も早く俺の能力に関わる記憶を消したい。



「あんた…!!ムスビメやミサキが裏切るって本当に思っているわけ!?」



声を荒げるな、頭に響く。もうはっきりと言ってしまおう。俺が神々に感じてる不信感とか諸々を。



「直接口には出していなかった事をあえて言うが…普通は思うだろ?まず前提条件として、協力させたいなら協力するようにルールを定めろ。勝者への報酬がデカすぎてあんなの信用するのが無理だわ。誰がいつ目先の欲に釣られて裏切るか分かったもんじゃない。あとおまけにこれら全てが俺の考えすぎだったとしても敵が洗脳の類を使ってくる可能性もある」



この現状に対して何もしないのは非常に危険だ。あの二人はすぐに口を割るようなタイプではない。…と、信じてはいるが、ミサキには万が一拷問された場合はすぐにでも自白するよう指示を出している。もしも更に緊急事態が重なれば俺はなすすべなくねじ伏せられるだろう。



だからこそ俺の手を知っている人間に対しての新たな策が必要なのだ。それが何故分からない。




「あのさ、俺の能力って初見殺しで倒す系統の物ってのは分かるか?タネが割れたらジ・エンド。対策なんていくらでも取れる」



あとは攻撃予測がどこまで問題なく適応されるかが分からない。ミサキの攻撃は問題なかったが、まさか事前に対戦相手にテストしてもらうわけにはいかない。相手に弱点を晒す最も愚かな行為だ。俺としては修業中にそれを見分けたい。



「シルフィ。覚えておけ。この世で一番恐ろしいのは…どんな魔物でも災害でもない。人間だ。だからこそ俺は例え全員に裏切られたとしても魔王を殺せるようにならねばならない。以上!!」



まるで話にならない。人間なんざいつ何時どんな理由で裏切ってくるか分かったものではない。神なんていう吐き気がするぐらい人間を眺める事が出来る立場でありながらそんなことすら分からないとは。失望した俺は呆れながら門の外に出た。



やはり俺はこのまま単独でたとえ全ての人間と神が敵になろうとも魔王を倒せるプランを立てなければならない。





事前にスクロールは買い占めておいた。汎用魔法から魔法無効化。魔法障壁。多種多様な物を貰うことが出来た。それもそのはず。道具屋のおっちゃんのコネを活かして、有能な魔法使いの魔法を高額で買い取らせた。そんでもってそれを俺が更に買う。



俺は上質なスクロールが手に入るし、おっちゃんや魔法使いの金は潤う。金があるならそれを更に自己研鑽に使ってくれるだろうし、様々な道具が手に入る。今回の大会の影響で王都の魔法使いが強くなることは俺の強化にも繋がる。大会を開催したもう一つの理由は自己研鑽に集中させるためだ。勇者になれるかもしれないとなればやる気も多少は出るだろう。ゆくゆくは他の村とかにも有能な魔法使いがいれば引き抜いたり、スクロールのビジネスをしたいが…



「待ちなさい、アオイ」



「何だ、ムスビメ。俺ちょっと出かけるんだけど」



「貴方、私の能力。見たでしょ」



「そりゃあ、一通り…」



お前の能力で戦わなければならなかったんだ。仕方あるまい。しかし、ムスビメは俺を壁際まで追い詰め、刺すような視線を向ける。



「絶対喋らないで。何があっても」



「…それはこっちのセリフだ。お前こそ黙ってろよ。お前が話さないなら俺も話さない。この取引に誓って俺から情報は決して漏らさない。互いに困りたくはないだろう?」



「分かった。約束するわ」



流石ビジネスパートナー。俺とスタンスが限りなく近い。そして俺にはムスビメの能力を知っているというアドバンテージを得ている。



「そんじゃ、次はあの大会の決勝で。また戦おうぜ、ムスビメ。お前を確実に倒す攻略法を用意してくる」



「そうしましょう、アオイ。待ってるわよ、戻ってきたらすぐに返り討ちにしてあげる」




俺にとって最強のビジネスパートナーであり、敵。それがムスビメだ。どんなに優秀な勇者がいようと彼女以上の逸材はいるはずもないだろう。



この国で幅を利かせるようになるためにはムスビメや他の勇者を倒す必要がある。次この門の中に入るのはムスビメを倒せる実力を付けた時。そう決意し、門の外へ出た。



のだが…



「どうやったらあいつに勝てる…?俺のタネが全て割れたムスビメ相手に!!」



俺は逆張り天邪鬼オタク特有の無理だと言われたら意地でも道理すら捻じ伏せて可能にしてやるスタンスだし、過去に何度もそうしてきた。



しかし、今回のは特大級の無理難題だ。最初に配られるデッキがランダムで配られ、デッキによっては速攻詰むカードゲームのRTAで世界最速を叩き出す方がまだ簡単だった。というより試行回数の連打で勝てるゲームは時間さえかければ大抵どうにか出来る。しかし、これは敵前逃亡が出来ないリアルクソゲーだ。どんな手段を使ってでも1回で勝たねばならない。



「しかし、まぁ無理ゲーの攻略法を考えるのも存外悪くないな…ん?馬車…?」



どうしたものかと悩みに悩んでいるとそこには分厚い布に覆われており、中身が見えない馬車があった。護衛は…いかにもガラの悪そうな大男が2、3、4…うわ…引くわ。10人か。マジで何を運んでいるんだ?



ステルスで落ち着いて近づいてからの…スキャンダル!中身だけでも聞き出してやるか



「うぇっへっへっ、まさか…エルフの女がこんなとこにいるなんてなぁ!?」



「大事な商品だ。絶対守れよ」



エルフ…?あのエルフか。長寿で耳が長いことが様々なファンタジー作品を通じて根付いたあの…



もしかして…人間の魔法はほとんど覚えられなかったが、エルフの魔法。あるいはスキルを覚えることが出来るのだろうか。試してみる価値はあるな。



「あぁ?大丈夫だろ。それにこの辺りは滅多に人が来ない…」



目標のエルフ確保。さて、逃げ帰るか。



「あ、貴方は…」



「おい、コラ。お前。どこ行こうとしてんだ?」



「あら、バレちまったか」



「護衛だってのに魔力感知持ちがいないとでも思ったか?エルフのバカでけぇ魔力が離れたら普通気づくわ、ボケが」


あぁー、うぜぇなー。こちとらまだまだ異世界転移初心者だぞ。接待しろ接待。肩掴んできやがるし…ん?待てよ。ならば…



「しょうがねぇ、くれてやるよ。俺のファンサービスを!おい、後ろのエルフ!俺の背中から離れるなよ!」



「は、はい!」



よし、まずはファンサービスを起動させた。どう出るか。



「うぉっ!?何故だか知らないが、魔力が溢れ出てやがるぜ!」



攻撃予測


ライトニング・サンダー


直線に飛ぶ雷属性の魔法。三連続で放たれる。


危険度10



「弱い。威力はともかく技が弱すぎるな」



『ファンサービス!』



こいつが利息がついた合図か。…それで追加の取立て分は1割。10秒で1割だから…なるほどトイチか。



「さて、じゃっ。早速取立てといくか。さぁ、魔力を返してもらおう」



「ま、魔力が吸われ…」



「足りない分はスキルを差押えるとしよう」



俺の魔力を4分の1ほど貸し付けたが、どうやらこいつは魔力があまりないらしい。というより返せなかった魔力はすぐには返ってこないのか。代わりにスキルは差押え扱いだから俺が使えるわけではない。あまり使えないかもな。



スキル『ブラック・アウト』で辺り一面を闇として、暗視スキルで不意打ちを仕掛ける。誘拐にも使えるスキルだ。



あとは…スクロールで使える程度の汎用魔法か。ムスビメやミサキ。シオンのスキルを見たせいで麻痺していたが、この世界の凡人のレベルはこんなものか。




「ま、魔力が…流せない…!」



「じゃっ、スキルは取立て完了。ここまでが俺の最初のファンサービス。次はお前だ!」



「ひっ…や、やめ…!」



お前にはこいつがファンサービスを喜んでいるのが分からないのか?よし、徹底的に分からせてやろう。





「よし、スクロールの実験成功。前より遥かに質が良い。どれもいけるな」



ファンサービスも使い方次第。近接系の敵を相手取るのは手間だが、短距離瞬間移動で一度触れてしまえば遠距離使い相手でもやりたい放題だ。ただし、取り立てる際に50m以上離れていると失敗。覚えておくか。あんま使わないだろうけど。



ひとまずは近くの街でこいつらを突き出して懸賞金を貰うことにしよう。



「おい、こんなことして逃げられると思っているのか?お兄ちゃん」



「俺をお兄ちゃんと呼んで良いのは声優のあまねるだけだ。ぶっ飛ばすぞ。カスがよぉ!」



「セイユウノアマネル?何言ってんだてめぇ!」



「よし、じゃあ本気で…」



あら、こいつら…マジで多くね?



「こいつの身一つで一生遊べる金が入ってくるんだ。あんな少人数で運ぶと思ったか?」



「ほう、ほうほうほう…」



ざっと見た感じ50人くらいはいるなぁ…ちょっと現実から目を逸らしたくなる人数だ。



「…逃げるかぁ!短距離瞬間移動!!」



からの煙幕を撒いて、その隙に茂みに隠れておく。ステルス勝負といこうじゃないか!じわじわ嬲り殺してやろう!1人ずつなぁ!!



「どこ行きやがった!逃げられると思うなよ!」



「…マジふざけてやがるな。ほとぼり冷めるまでやり過ごすのが得策か。俺じゃああの人数をまとめて倒すのは難しい」



一体多数はこれから幾度となく想定される。自分の苦手分野では戦わないが俺のポリシーではあるが、流石に異世界でそれを許してくれるかどうかは怪しい。いつかは覚えるかスクロールが要るな。



「…一つだけ方法があります。私の封印を解いてください」



そう告げて彼女は背中に貼ってある札を見せる。それには素人目線でもまぁ、良くないものだと分かる大量の魔法陣が書き込まれている。



「…封印。つまりはこの身体に貼られているお札を剥がすのか?」



「えぇ、私自身は剥がせないので…お願い致します」



嘘をついていたり、この後俺を害するようには感じない。利害関係は一致している。剥がして問題ないか。



「オーケー。…よし、剥がれた。お前は自ゆ—」



このあとすぐに思い知った。エルフの持つ圧倒的な魔法の力を。人間とは比べ物にならない力を。




「ご協力感謝します」



「いえいえ…」



封印を解いた少女の力は凄まじいものだった。彼女が魔法を唱えた瞬間、巨大な暴風が売人共をゴミか何かかのように吹き飛ばしてしまったのだ。一瞬で終わってしまったがために俺も何が起こったのか理解するのに頭が追いつかなかった。



とりあえず売人共は出すとこに出したし、あとはこのエルフをどうするかだが…



「それにしても…彼女のその耳や風貌はまるで…」



!?エルフが近くにいるとまずいのか!?あいつら売る気満々だったし、そりゃそうか。ならば…



「まさか。見間違いではないですか?」



「そ、そうですよね。エルフがこんな場所にいるはずがないでしょうし」



ふぅ、俺の偽装スキルが無ければ身バレしていた。危ない…



「この子は責任持って私が送っていきますよ」



「勇者アオイ。改めて感謝致します」



「こちらこそ。ではまた」



役人に敬礼を返して、この場をあとにする。このエルフには聞きたいことが多すぎる。それも今すぐは聞けないことがな。



ある程度離れ、誰にも見られていない状態であることを確認した上で俺は核心に迫る。



「…さて、別にお前がエルフだろうが、なんだろうがどうでも良い。売り飛ばそうとか騙そうなんて1ミリも考えてない。人里でやりたい事があるなら俺も少しは手伝うから悪いことは言わない。早く帰れ。どれだけ人間が恐ろしいか…知らないわけじゃないだろう?」





「どうしてですか?」





「ん?」





どうして?か。人を疑うという普通の行為に対して理由を求められるとちょっと困るな。どう説明するか迷っているとエルフの少女は悲しげな表情で俺に問いかける。



「どうして私を助けてくれたのですか。私の乗っていた馬車なんて通り過ぎてしまえば良かったではありませんか」



「小銭稼ぎだ。あいつらには賞金がかかっていると見て、突き出した。そんだけ。おかげで懐が温かい」



「自慢…などではありませんが、お金が欲しいなら私を闇市に売り飛ばす方が効率が良いのではありませんか?」



たしかにそれは非道徳的でこそあるものの、最効率であることは間違いない。ただ、言わせてもらうなら…



「それは俺の好きなやり方じゃないからだ。…と、言ってもそれも理由の一つでしかない。だから…これから本当の事も全て話すわ。俺の本性を嘘偽りなく。聞いたあとでどうするか決めてくれ」



俺は中にいるのがエルフだと分かった上で助けたこと。俺が魔王を討伐するために修業をしていること。そしてそのために可能であれば先程の売人共を蹴散らしたスキルを覚えたいと。全てを告白した。



別に開き直ったわけではなく、理由はある。俺が会った中で彼女からは刺すような敵意が全く見られないからだ。人間に対してここまで純粋な信頼を向けられるその在り方を信じてみることにした。



そこらの人間よりかは信頼出来るだろう。そんな打算だ。もし怒りを買ってしまったのなら何かされる前に全力で謝って許してもらおう。



「えぇ、いいですよ」



「すまない、無茶を言ったな。忘れて—え?」



予想外の結果に目を剥く。…おいおい、あっさりしすぎじゃないか?こいつらがちょっと心配になってきたな。



「良ければ私達の集落に来ませんか?」



「…待て、そこまでしてもらってもいいのか?」



「悪い売人から私を助けてくれたのですからきっと村長も喜びますよ」



「じゃあ、お言葉に甘えて貴方達の村に…」



「私の名前はノエルです。これからはそう呼んでいただけると嬉しいです」



よし!!やったぜ。嬉しい誤算だ。エルフの村ねぇ、もし俺を入れてくれるなら修業するのにはうってつけの場所だろう。


一か月篭って、ムスビメに対抗する手段を見つける。それが俺のなすべきことだ。待ってろよ、ムスビメ。俺は必ずお前に勝ってみせる!!

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