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第14話 襲撃者

ミサキの修行6日目…とは言っているが、その実俺の修行でもあったりする。昨日の封印勇者との戦闘を経て、身体強化のスキルも手に入った。今日早速使ってみるか。



「さて、早くしなきゃ待ち合わせに遅れちまう…むっ、あれは何だ?」



普段であればミサキとの約束の時に寄り道をする事などない。ただ異様な光景につい二度見してしまった。



『助けてくださ〜い!誰か〜!そこにいませんか〜!!』



尻がしゃべっている…なんて事は確実にありえない。つまりはあれだ。壁に挟まって動けないやつ。怪しさの塊しかないが本物のドジっ子である可能性も否定はしきれない。ちょっと軽く人助けしてやるか。



人なら…な。



「すみません。引っ張れば良いのですか?」



【攻撃予測】



魔力やスキルのドレイン。



おっと、早速来やがった。これが出るって事は敵でいいって訳か。ぶっ潰す。



「はっはー!引っかかったな間抜けめ!私ごときに騙されるなんて…これだから童て—がはっ!!」



出てきたのは一見すると幼女。しかし、悪魔の翼などと言った人ならざる身体的特徴を持つことからサキュバスである事が伺える。だが、それにしても何故こんなお粗末な方法で不意を突けるなどと思ったのだろうか。



「ちょっ!いきなり顔面蹴るのやめ—いやぁ!どうして顔ばかり狙うの!?」



「敵だから」



「動機がストレートすぎる!!だから執拗に顔面狙うなぁ!!」



よし、縛りはあるが身体強化は割といけるな。油断せずに速攻で拘束っと。




「ほら、誰の差金だ?早めに喋った方が身のためだぞ」



サキュバスを踏みつけにし、動けなくしてから縄を通していく。傍から見れば通報待った無しだろうが、ドレイン持ちである以上は情けをかけてはならない。



【攻撃予測】


魅了スキル。自らへの好感度を何倍にも引き上げる。


危険度:0



「お願い…見逃して…?ほ、ほら!特別に良い事してあげる!良い事!お兄さんの知らない事たーくさん!教えてあ・げ・る!」



ほう、魅了スキルを使われるとこういう感じなのか。しかし、残念だったな。そもそも俺はこいつに魅力なんざ1ミリたりとも感じていない。故に危険度0って訳ね。



「な、何で魅了が効かないの…?」



「教えてくれるってならお前らの情報を全て教えてもらおうか。そして二度と俺達に逆らうんじゃねーぞ!!」



しっかりと縛り上げ、無力化したサキュバスに尋問するが…



「話が違うじゃないですか。男なんてみんな猿同然。あんなガキ一人素人の貴方でも捕まえられるって…ラキアさん言ってたじゃないですか!」



訳の分からない頓珍漢な答えが帰ってきた。が、今こいつは失言したな。



「おい、今確かにラキアと言ったな?魔王軍四天王直属の幹部にそんな名前のやついたよな?その話を詳しく聞かせてくれよ。なぁなぁなぁなぁ!!」



「ひっ、ひぃ!助けて〜!」



「貴方、何をしているの?」



路地裏でサキュバスを尋問していた所に正義のヒーローがやってくる…わけもなく、昨日嫌ってほど見た封印勇者がジト目でこちらを見ている。



「何って?尋問だけど」



『あいつめ…もう嗅ぎつけてきたか。アオイ、さっさとそのサキュバスを連れてあいつから離れなさい』



封印勇者をどうにか仲間に加えたいと思っていた矢先に余計な横槍が入る。シルフィよ、俺は意図が分からない指示に従うつもりは無いぞ。



「理由は?」



『あいつはね…そうね、デカい口叩く割には大した事ないやつなの!王都に向かってミサキと合流するのが一番安定択よ!』



情報くれるんなら実力は関係無い。それに今シルフィが封印勇者だと証明してくれた。なら話を聞いても悪くは無いだろう。むしろミサキに化けたサキュバスが王都にいるかもしれない。



もちろん役立つ情報が無ければそれでいいし、もしあるならこいつから全部聞く方が確実だ。



「あいつが偽者じゃないなら話だけでもしてくるわ」



『あ、あの生意気な女があんたの話なんてまともに聞くわけないじゃない!』



「…お前はあいつに親でも殺されたんか?こっちには敵の伏兵を捕まえている。交渉の材料にはなるはずし、多少使える奴だという証明にもなるはずだ。一度話してみて、無理そうならお前のプランに切り替えるとしよう」



『待って!待って!実は他にもダメな理由が—』



今はシルフィより封印勇者の方が重要だ。昨日軽く戦ってみたが、彼女を敵に回すのはなるべく避けたい。



「頼む、こいつの尋問に協力してくれないか?きっとお前にも有益な情報があるはずだ」



「えぇ、それはもちろん。そして参考までに聞くけれど…貴方は現状をどれだけ把握しているの?」




「このメスガキサキュバスが王都に不法侵入した事だけだ。それ以外は知らん」



本来ならばここでこいつもサキュバスであるかどうかの識別をする必要があるだろう。しかし、どうしたものか。



「了解。それはそうと…貴方、日本人でしょ?」



「何故そう思う」



こいつ、妙に察しが良いな。もしかして事前情報でも貰っているのか…?シルフィのような低級女神ではなく、シオンのところみたいな上位の神がバックアップしているのかもしれない。日本という国を知っている理由は色々考えられるが…今は仮説推論の時間は無い。こいつ自身から情報を貰えるかだな。



「だって、貴方。昨日から見てたけど魔力の総量がおかしいもの」



「低すぎて話にならんって意味か?」



「話が進まないから馬鹿なフリはやめなさい。今は時間が惜しいの」



「分かった。なら日本の歴代内閣総理大—」



「伊藤博文、黒田清隆、山縣 有朋…まだ続けても良いけど本当に時間が無いの。これでちょっとは満足した?そもそもその格好で日本人じゃないと言い張るのは無理があるわ」



おぉ、まさか俺の無茶振りに答えてくれるとは。そして服装は俺の怠慢だな。少し油断が過ぎたか。



封印勇者の知識量や洞察力の高さに素直に感心していると拘束し損ねたサキュバスが俺たちから逃げようとしていた。それを見逃す俺ではない。すぐさまスクロールを開き、火の玉を放つ。



「ひっ!」



「待てよ。何逃げようとしてんだ?このメスガキめ」



「に、に、逃げようだなんて、そ、そんな…人聞きの悪いこと…」



逃げないんならワームホールを開く必要はないよなぁ?全く、悪いメスガキだな。



「あいつを完全に拘束出来るか?」



「了解。《アクア・バインド》!」



「早い!?けどアクア・バインドごときを抜けられない私じゃない!」



「それは一般的な《アクア・バインド》の話でしょう?」



亜美が指を鳴らすとサキュバスを締め上げたアクア・バインドが一瞬で凍りつき、サキュバスの動きを阻害する。



「私をそこらの魔法使いと一緒にしないで」



極めて雑な指示にも関わらず、封印勇者はしっかりと俺の要望以上に応えてくれた。流石だ。



「おい、お前が本物なら昨日のアレ…出来るよな?」



「言われなくてもやるわよ。《部位封印》《魔力停滞》!このサキュバスの四肢と魔法は封じられた。この娘はもう全く抵抗出来ない。まだ疑う?」



うむ、たしかにこれで信頼は確かなものになった。いっそほぼ全て話すか。もしも今が非常事態なら情報共有は早い方が良いしな。



「くっ…異世界の女勇者が何よ!いくら貴方相手だからって口は割らない。サキュバスの誇りに誓うわ」



「やけに強情ね…どうするつもり?自白を促す魔法とか私持ってないわよ?」



《スキャンダル》を使えばすぐだろうが、今あいつに多くのスキルを見せたくはない。万が一のために情報アドバンテージはこっちが上でありたい。



それに相手はモンスター。そういう意味では今後を見据えた上でも普通に拷問しちまうか。



「なぁ、お前。水は出せるか?あそこにある樽がいっぱいになるぐらいの」



「出せるけど…何をするつもり?」



「分からせてやるのさ。おい、メスガキ。お前が悪いんだからな?これはお前のせいなんだからな?」





あくまで情報収集。しかし、楽しそうに玩具で遊んでいるように見えるように拷問を行う。淡々とやるより、頭のネジが吹っ飛んでいる狂人を演じる方がより精神的に追い詰められるだろう。



「ぶはぁっ!…はぁ、はぁ…私をいくら拷問しようと情報は…ごぼぼぼぼ…」



「あっあっあっあっあっ…ほれほれ〜そろそろ言う気になったか?おら、早く答えろぉ!あと何回沈めたら君は喋ってくれるのかなぁ?サキュバスの誇りとやらを粉々にしてやるぜぇぇ!!ふひひ…いっひっひっひ!!」



「ねぇ、何か悩みがあるなら相談に乗るわよ?一応幼女の見た目をしているサキュバスの頭を押さえつけて水に沈めている人間は絶対どこかがおかしいとしか考えられないわ」



「失礼だな。効率的に聞くならこれだと思っただけだ」



「貴方、拷問で真っ先にこれが思いつくのって創作物に毒されてない?あとその豹変っぷりが怖いわ」



「いやいや、これはもちろん演技で…あっ、やべ。気絶してるか。ほらよっ!」



「ひゃっ!!」



気絶したサキュバスに更に冷水を浴びせる。気絶してる暇があるならさっさと喋れ。



「伸びている暇などお前には無い。さぁ、答えろ。俺はお前に殺されかけたんだ。殺されないだけ神対応だろう?」



「殺すつもりなんて無かったもん!私達の役割は王都の男達をみんな攫ってくるだけだったし!」



「ふむ、その調子でどんどん口を割ってくれ。最も?お前のせいでこの世界のサキュバス共は近いうちに絶滅するがなぁ!お前のせいです。あーあ!!」



度重なる水責めと煽りで泣き出しそうになってるサキュバス。更なる拷問で吐かせてやろうと思ったが、封印勇者が本格的に引き始めている。うむ、そろそろ拷問はやめて裏切らせるように仕向けるか。



「落ち着けよ、お前には一つ素晴らしい提案がある。ボスと構成員と能力などといった魔王軍の情報を教えてくれるだけで良い。それさえしてくれたら今後一切俺はお前に暴力を振るわない事を誓おう。今やっている水の中に沈める拷問もやめよう」



「えっ!?」



「ねぇ、悪魔と約束する事の意味が分かってる?反故にしたらどうなるか…」



やはり悪魔との契約は絶対みたいな風潮はこの世界にもあるわけか。むしろその方が正確な情報を貰えるから都合が良い。しかし、そんなものは関係ない。だって、俺が危害を加える必要はないのだから。



「約束するのは俺個人のみ。邪魔になったらあとでお前が奴を殺せば何も問題は無い。最も使えるだけ使うが」



「…貴方、合理的だけど最低よ」



すまないが、俺はバトル系漫画や小説の主人公のように綺麗事や正攻法で勝てるほど強くねぇんだわ。無い知恵絞って、俺でも詰まないように立ち回るしかないんだ。



「ほら、約束してやる。俺は今後一切!お前に暴力を振るわない!今は拘束しているが、必ず解放してやる。代わりにお前はお前が知りうる魔王軍の情報全てを正直に話せ!いいな!?」



「もう…水責め…しない?」



「あぁ、しないとも」



これこそまさに計画通り…というやつだ。思わず笑みが綻びそうになるが、ここは我慢だ。表情を殺せ。堪えるんだ。



「分かった。全部話す!」



内心ガッツポーズをする俺とその様を見て、苦笑する封印勇者。情報をたくさんくれる都合の良い捕虜を手に入れたんだぞ?おう、もっと喜べよ。封印勇者。




やり方はどうあれ…ボスのウイハ=アエラ。そしてその直属の部下であるスカラ=ラキア。他にも構成員の中でも主力であるエミカ=ダイフの情報が分かった。しかし、最終的な目的は分からずじまい。あとはアミが聞いたことある情報ばかりで収穫はあまり無かったらしい。これで一度目の利用は終わり。次も上手く使うか。



「末端の情報はこんなものか。しかし、厄介なのはサキュバス軍団が500以上いる事だ。スキルドレイン持ちもいるなら念入りに始末する必要があるし、面倒だな。そして俺以外の男が全員誘拐されている…場合によっては厳しい戦いになるな」



「そうね、もし生かすにしても最小限でいきましょう。低級のサキュバスがドレインで急激にレベルが上がった例もあるわけだし、彼女も…」



「ひっ、ひぃ!!」



「いいや?お前はちゃんと仲間に会える。約束してやろう。それまで殺さないようにこいつにも言っておくよ」



「ほ、本当?」



「あぁ、何なら契約書に一筆書いても構わないぞ?」



「待って!そんな約束勝手にしたら!」



「まぁまぁ、俺に任せろ。上手い捕虜の使い方を教えてやる」



もちろん最後の部分はサキュバスには聞こえないように耳打ちで伝える。



「わ、分かったわ…元は貴方が捕まえたわけだし、余程の奇行に出ない限りは任せるわ」





封印勇者に案内してもらい、王都に足を踏み入れる。



「お前の顔パスすげぇな」



「これでもある程度は顔はきくの。ただ今回は非常事態だから特別に通したって事は忘れないでね」



「もう水は…水はやめて…」



「すっかりうなされてるな…ちょっと悪い事しちまったか」



だが、警備は早朝が一番見張りの数が少なく、手薄であるという素晴らしい情報アドバンテージを得た。尊い犠牲だった。にしても封印勇者が一瞬で奴を眠らせたのには驚いた。こいつえげつないスキル大量に隠し持ってそうだな。



「可哀想なんて心にも思ってないくせに」



「今もなお氷責めしつつ、四肢が動かないように封印しているお前が言っても説得力が無いぞ」



「こ、これは貴方の指示でしょ!?」



「なぁ、さっきから貴方って言うのやめね?俺は青井龍一。リュウちゃん以外なら好きに呼んでくれ」



「分かった。じゃあ、アオイ君のお前もやめて。私は結目亜美。王都序列第3位。東大陸担当封印勇者。これからは名前を呼んでね、アオイ君」



「おう、よろしくな。ヒメちゃん」



「ねぇ、馬鹿にしてる?」



「気に障ったのなら謝る。すまない、ムスビメ」



「これから玉座の間に入るわ。言っておくけど中にいる人の中にサキュバスが混ざっている可能性があるわ」



もうこれだけ内部の侵入を許しちまったんだ。無論、警戒を怠りはしないさ




「言うまでもないぞ。って顔ね。開けるわよ」



王都の玉座の間にはシオンやミサキ達を始めとした生き残った勇者やライムなどといった戦闘員が数人がいた。しかし、王都は既に侵略された後だ。ここにいる奴らもどれくらい信頼出来るか分からん。ムスビメも含め、より警戒を強めなければ。



「あ、あおちゃん!無事だったんだね!」



「俺はあの程度で死ぬような男では無い。当然だろう?」



「…ムスビメ、あの中にニセモノはいるか?」



「可能性はかなり低い。私は人の魔力総量を見ることが出来るのだけど全員魔力総量は変わってない。どれだけ上手く変身していようと内に秘めた魔力は嘘をつかないわ」



なるほど。ならある程度は信頼出来るか。ムスビメの発言を信じるなら間違いないのだろう。



「揃ったな。それでは早速、サキュバス達をうち倒す会議を始めよう」



「お前が仕切るな」

「貴方が仕切らないで」



そして全員の顔を確認したシオンが何故かしきり始めたので俺とムスビメが待ったをかける。



「なっ!?訳も言わずにいきなりそれか!?」




「ロクに指揮も執れない脳筋ゴリラ女のお前が一丁前に仕切るな」



「上位勇者なのに『瞳の力』に目覚めていない上に『限界突破』もしていない貴方が仕切らないで」



「お、お前ら…」



シオンが悔しそうに震えるが、あくまで会議の場だからか強く拳を握り、怒りを抑える。にしても理由を聞かせろと言われたから理由を伝えたのにこれか。



「まっ、それも仕方ないんじゃない?シオンは所詮上位勇者の恥晒しよ。ボールペン習字勇者は相変わらず身体が弱くて図書館に引きこもり状態…使えないやつばっかりで困るわね」



趣味の悪いサングラスをかけ、フードを被ったいかにも頭の悪そうな女が不満を垂れ流す。消去法からしてこいつが恋愛勇者なのだろうか。口元もマフラーで覆っているし、不審者が紛れ込んだか?



「そんな事を言っている貴方もサキュバス相手なら多分一番役に立たないでしょ?そんなのでよく人の事を偉そうに言えるわね。恋愛勇者」



「くっ…」



「指揮するなら俺はムスビメに任せたい。情報をまとめよう」



「それでは城に向かうメンバーを決めましょう。まず私は確定として、次は…ミサキ。貴方来てもらいたい」



「わ、私!?」



ふむ、妥当な判断だ。人を見る目も申し分ない。それでこそ上位勇者。神々に選ばれた私TUEEE勇者だな。

あそこでポカンと佇んでいる聖剣使いとは訳が違う。



ただミサキを危険な前線に送り込んで良いものかといった気掛かりはあるが、ミサキは俺が近くにいれば危険予測で守れるだろう。



「貴方の能力は前と比べて飛躍的に進化しているのは私でも分かる。今なら上位の勇者達とも引けを取らないと思う」



「ふむ、ミサキは今もなお進化し続けている。その可能性にも賭けるってわけか?」



「それもあるけど、最も注目しているのはミサキの対応力の高さよ。あらゆる属性の魔法が使えるのが凄く良いわ。リーダーの私とサブリーダーのアオイ君で上手く指示を出す。これが一番だと思う」



「つまりは俺とミサキとムスビメで行くんだな?」



「えぇ、異論はないでしょう?」




異議なし。と俺が言おうとしたが、シオンが手を挙げて、反論する。



「待った。それでは近距離で戦えるのがムスビメしかいなくなる上にムスビメ本人も基本的なスタイルではないだろう」




「一理あるな。なら近距離パワー型の仲間を呼んでくるのが得策か。魔法は苦手。いや、最悪身体強化の魔法以外は使えなくても構わない。そんなやつを知らないか?」



「いるわ。じゃあ、早速その娘呼んでくるわね」



「何故そうなる!?」



「何故って…」



「お前よりゴーレムに仕事を任せる方がなんぼかマシだ」



「何だと…?」



お前のような直情型の人間を連れていけばどんな事になるかは火を見るよりも明らかだ。サキュバスに絆されたりするかもしれないし、雑頭が災いしてマインドコントロールにかかるのかもしれない。



それをどうにか上手く説明してやろうかと考えていたところに良いサポートが入る。



「ゴーレムは命令に忠実で裏切らない。プログラムされた行動のみをとるからある程度行動が予測可能。コアが無事なら休憩も必要とせずに長時間の稼働が可能。これ以外に理由は必要?」



「…そ、それは…」



ふん、やはり言い返せまい。ナイス、最高にナイスだぞムスビメ。今すぐ嘲笑いたい衝動に駆られるが、必死にこらえる。貴様には完璧な屈辱を与えさせた上で王都の防衛に勤しんでもらうぜ。へへへっ…



「もう!二人してシオンちゃんをいじめないで!シオンちゃんを連れて行かないなら私は討伐に参加しないよ!」



何…だと…?それなら好都合だ。ミサキを連れて行かないプランに切り替えだ。上手く誘導しろよ、俺。



「そうか、だとすれば代わりの穴を埋める必要があるが…」



「え、ちょっと待って?そこはもっと駆け引きしないの…?」



ミサキよ、武力行使を伴わない駆け引きにおいては真に求める相手が自分自身であった場合は成立しない可能性が高いんだぞ。ムスビメの様子を見るに主導権はこちら側にあるし、代替案もあるようだ。



「なら!お願いします、美麗様!って跪いて懇願するんならわたしが代わりについて行ってあげても良いけど?亜美」



「なぁ、あいつって強いのか?」



「対男性特攻のスキルを多く持っているけれど女性相手には全くと言って良いほど役に立たないわ。男を都合良く操るスキルも無意味と化する。協調性も皆無。今回は連れていけばお荷物確定だと思う」



「なんですって…!?男なら…!そこに一人!いるじゃない!!さぁ、わたしの虜になりなさい!」



【攻撃予測】


蠱惑する甘美な声(チャーム・ボイス)



恋愛勇者がマフラーを外し、声高々に命令を下す。なるほど、こいつは恐らく魅了のために不審者じみた格好をしていたというわけか。孔雀のようにここぞという時にだけ武装を解放し、身を魅せて悩殺。これが恋愛勇者か。



「そ、そんな…バ、バカな…」



「…なんのつもり?一応彼は私の仲間なんだけど」



「さぁ、あの生意気な女を倒しなさい!哀れなオタク君!…え?何で貴方がこっちにいんの?」



「短距離瞬間移動。お前は自分の能力を過信しすぎだ」



「いったぁぁ!」



操っているかいないかの定義を指示に忠実か否かでしか判断が出来ない可哀想な能力か。あるいは慢心しすぎか。いずれにしても俺のただの平手打ちにすら対応できてないではないか。



「生意気な女はお前だ。それでよく勇者が務まるな」



俺に魅了が効かなかったからとはいえ、この程度の攻撃すら防げないのなら頼む価値などないだろう。



「何で…わたしの魅了をくらって操り人形にならないの?あれはわたしに少しでも気があれば…はっ!」



「そのまさかだ。あんたと俺。最初から相性最悪だったんだ。すまんな」



「なら…!!よりレベルの高い魅了を…」



「くどいわよ、美麗。仮にアオイ君に効いたとしても貴方のその傲慢さや協調性の無さは身を滅ぼす。今回は連れていけない」



マフラーだけではなく、サングラスとフードに手をかけて魅了を仕掛けようとしたところをムスビメが止める。



「今回の討伐は明日の朝。私とアオイ君。あとは私の仲間を二人連れて行くわ。他のみんなは防衛に徹して。アオイ君はこの後打ち合わせするから私達の拠点に来て」



「オーケーだ。俺も流石にお前の仲間だからってだけで無条件に信用は出来ん。しっかり顔合わせさせてくれ」



「そうね、じゃあ。これで解散よ。防衛は今まで通り。貴方達なら問題なく出来るでしょう?」



「じゃあな、シオン。王都の防衛に励んでくれよな。そして、ミサキ。頼む、くれぐれも無茶はするな。我が身を大事にしろよ」



よし、これで良い。使える人材がいないのであれば連れて行かない方が良いし、ミサキは王都に引きこもっていてくれ。その方が危険は少ない。もしもミサキに危険が訪れるならこちらが早くサキュバスの拠点を滅ぼし、速攻で帰れば良い。シオンは防衛に徹するだけなら問題無く責務を全うするだろう。だからミサキ、頼む。無茶はしないでくれ。

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