第13話 煽り勇者と精霊勇者
アオイはミサキと修行をしていると聞いたが…一体何をしているんだ…?1日目は見られなかったが、今日からは全て見張らなければな。妙な真似をしたら即止めに入る準備はしておこう。さて、今日は何をしているのやら…
「あらあら?水の精霊さんよぉ!相変わらずの脳筋っぷりだなぁ!!」
あいつはミサキを煽ってはいなかったが、その精霊を煽っていた。精霊は人と会話が出来ない事を知らないのか?無駄な事を…
「お前らはミサキの言うことも聞かず、持ち前の火力で好き勝手にやりすぎている。まるで前が見えてない。持ち前のパワーだけでゴリ押すのは小学生以下!だから俺に一撃も当てられない。繊細さと応用力。あとは風の精霊のような協調性を身につけろ!」
「本来水属性の攻撃はかなり応用が効くはずだ。ミサキ、お前の知り合いに水魔法を使える奴はいるか?なるべく強い奴」
「いる…にはいるね。能力については詳しく言えないけど」
ここで言う知り合いは封印勇者の事だろう。あいつは慎重派で能力を話したがらないし、能力を知っている人間に対してもしっかり口止めをしている。
「最初はそいつの模倣で構わない。あとは戦いの最中等で自分のやり方を見つけな」
「うん!」
2日目…特に問題無し。思ったよりまともな指導をしているのだな。私は奴をみくびっていたのかもしれない。
〜3日目
「水の精霊よ!」
3日目のミサキは精霊の力で水の檻を作り上げ、アオイを閉じ込めた。…しかし、やはりアオイはその程度では止まらず、瞬間移動であっさり切り抜けていく。
「まだまだ!」
そこから水の弾丸で追い詰めながら本命として、遥か上空に水の槍を生成していく。
今まで一撃必殺の超範囲かつ高火力でゴリ押ししていた精霊はもういない。たった3日であんなに使いこなせるようになったというのか…
「明らかに怪しい影が出来ているぞ。上空を見ろと言わんばかりのな。ただ、狙いは悪くない!範囲を広げたり、影ができない場所でやるならいいんじゃないか?」
「技を使う上で大事な事は用途を覚える事だ。ミサキは万能故に選択肢を絞るのに時間がかかるのだろう。経験を積んで使い時ってのを覚えていこうな。まぁ、お前は持ち前の発想力でどうにかしちまいそうだが」
「これでもっとシオンちゃんの役に立てるね!」
「あ、あぁ。そうだな」
3日目にして、ここまで進化するのか。
〜4日目
「次は土魔法をやっていこう」
「土魔法?」
「土の精霊は大規模な地割れ、地震。地層の隆起なんかを使っていたが、もう少し防御を考えてみたり…あとはそうだな。風の精霊と組み合わせれば砂嵐に。水魔法となら土石流…と、いった様に応用の幅が限りなく広がるはずだ」
「そして土魔法のプロフェッショナルはいるか?」
「イシガキ君が確か得意…だったかな。土魔法で要塞まで作れちゃうし…あの人も私には絶対に教えてくれなさそうだけど」
「イシガキ…名前からしてそいつも勇者か。やっぱこの世界はどこまでも勇者至上主義ってわけね」
そうだな。勇者こそが魔王を倒しうる唯一の存在。だからこそそれを盾にとって好き放題やったのがドラゴン勇者や恋愛勇者だ。貴族制度を廃止し、政治にも口を出し始め、最終的に国民からあらゆる物を搾取していった。
止められなかった私も悪なのだろう。あの二人に屈してしまった私を呪う。…認めたくはないが、私はこうして特に口出しもせずにずっと修行を眺めている。期待をしているのかもしれないな。アオイがこの停滞を終わらせ、ミサキが最強の勇者になってくれることに。
「そいつが教えてくれようがくれなかろうが、構わん。俺が土の精霊もその気にさせる。精霊達には必ず屈辱的な敗北を与えさせる」
「さぁ、かかって来い!土の精霊!」
巨大な岩を落下させ、押し潰すというのか!?
あの範囲内は流石に短距離瞬間移動の範囲外…さぁ、どうするんだ?
「それだけか?それだけなのか?土の精霊。ほらよっ!すり替え!」
あいつめ…投げた石と自分の位置を入れ替えて回避したというのか。自分以外の物の交換だと思っていたが、自分自身すら対象に取れるスキルだとは…中々に恐ろしい。
「ミサキ!ガードは大丈夫か!?」
凄まじい速さで落下した衝撃によって岩の破片が周囲に飛び散る。しかし、アオイはミサキに気を回しながらそれら全てをスキルも使わず、当然のように軽々と回避していく。
「うん、私は大丈夫!」
そしてミサキもすかさず水の障壁を張る。ミサキも対応力に磨きがかかっている…なんて成長の早さなんだ。ミサキ…
「一気に行くよ!土の精霊よ!!」
「初日にやった地割れ攻撃か!それは通用しない!」
「…どうかな?」
1日目と同じように空中に逃げられている。これでは1日目と同じパターンだが、ミサキは何か策があるかのように笑みを浮かべる。
「おいおい…割れた大地がくっつき始めてる…って事は…嫌な予感しかしないんだが…?」
そうか。ミサキは壁を築いているのか!アオイがもしも視線で見える範囲しか移動出来ないのならこれで逃げ道が無くなる!
「短距離瞬間移動はもう使ったからしばらく出来ない!その上すり替える物体もこの辺りにはない!おまけに逃走ルートもあの遥か上空を塞げばすぐに完全に封鎖される!もう逃げられないよ!」
「まだまだ甘いぞ!スクロール《アサルト・サンダー》!からのすり替え!」
上空にアサルト・サンダーを放ち、アサルト・サンダーと場所をすり替えたのか!くぅぅ…凄く良いところまで行っていたのに…
「嘘…これもダメなの…?」
「うむ、俺の能力の特性をよく観察した上で発動を上手く潰す立ち回り。見事だ。やっぱお前には才能がある。これからも励んでくれ」
「うぅ…悔しいなぁ、もうちょっとで一発ぐらいは当てられそうだったのに!」
「オーケーオーケー。次はクエストに行く。そこでお前の成長ぶりを見せれば良いだろう」
4日目。アオイに全く攻撃の意思がないからとはいえ、かなり追い込んでいる。すごいな、ミサキは。私もより一層頑張らないとな。
〜5日目
「土の精霊よ!」
あれからミサキは土の精霊を上手く利用し、砂嵐や拘束等々…今まで大規模魔法しか撃てず、連携が取れなかった昔と比べると爆発的に進化している。
特にアオイという一度見た攻撃を精密に回避する相手がミサキの発想力をより一層加速させているのだろう
「おぉ、いいじゃん。特に今やっている地面を泥沼にして、相手の動きを削ぐのなんかスゲーセンスあるぞ」
そう言いつつ、しれっと短距離瞬間移動を使って沼地を避ける。だが、それで終わるミサキではないはずだ。
「水の精霊よ!」
「ちょ、ちょい待ち!うぉっと!!」
私は…制御不能の精霊を使わせず、後方支援のみに徹底させた。回復能力を持つ勇者の数は実は少ない。
それだけでも役割は充分あると思っていたし、事実攻撃は私が賄えていた。そう、思いたかっただけだったがな。
そしてそれは私の大きな誤算であったと魔王との戦いで思い知らされた。その戦いで殿を務めた全能勇者とミユキは行方不明…今でも所在が明らかになっていない事から亡くなったのだろう。
しかし、今となっては二属性だけとはいえ、圧倒的な練度の精霊を使いこなしている。その点に関してはアオイに感謝しなければな。ミユキ…お前の遺志は私達が引き継ぐ。必ず魔王を倒すからな。
「だ、大丈夫!?やりすぎちゃった?」
「…いやいや、まだ大丈夫だ。ほんと、段々と動きが良くなってきている。まさか沼地と水の弾丸で陽動しながら並行して極小の水魔法を通す穴を地面に作っていたとは。」
「どう?どうかな?これでみんなの役に立てるかな?」
「うむ。問題は無いと思う。俺が相手で無ければ通用している手の方が多かっただろう。さぁ、引き続き特訓を始めるぞ」
「そこの貴方、ちょっと良い?」
「ダメだ。他を当たれ」
圧倒的理不尽。それがこの男。詳細を聞きもせず、高圧的に断る。しかも、相手は…
「まだ何も言ってないのだけど」
「ちょっと良い?って言われたんだが」
「ねぇ、あの人。封印勇者だよ…あおちゃん」
「ほう、あれが勇者か」
そう、あの青髪ショートヘアの彼女は封印勇者。下の名前は亜美というらしい。敵に何かしらの封印を施したり、味方の封印や状態異常を解除したりする後方支援タイプ…で収まるような生温い勇者ではない。
高レベルの水魔法と派生である氷魔法を使いこなし、本人の身体能力も高い水準でまとまっている。正に非の打ち所がない勇者だ。…それでもドラゴン勇者には勝てないとの事だが。
「数日前からここら一帯で何度も大規模魔法を撃っているのは貴方なの?ミサキ」
「あっ、ごめ—」
「俺が命令して、撃たせていた。こいつは何も悪くない」
おい、あの馬鹿!今は勇者同士で争っている場合じゃないだろうに!!
「貴方、見ない顔ね。誰かは知らないけど私の邪魔をしないで」
「魔王討伐が怖くなって、今度は町のお巡りさんにでもなったか?全く大したもんだぜ、封印勇者さんよぉ」
「ふーん、この国にもまだ口だけは達者な男がいたのね」
もうやめてくれ…何でお前はそう人を徒に刺激する発言しか出来ないんだ。封印勇者は顔にこそ出していないが、明らかに気を悪くしている。早く謝った方が身のためだぞ。アオイ。
「ねぇ、やめよ?私が謝れば済む話だから」
「いいや、絶対謝らせない。全ては俺が撒いた種だ。俺が始末するのが筋だろう?」
「あ?何言ってんだ?あいつと関わるのはやめとけ?知るか。それに…仮にも同業者ってんなら戦闘力測っとくのもありじゃないのか?」
アオイがとうとう虚空に話しかけ始めた…いや、違う。担当女神との対話か。やはりそうだろう。大人しく忠告を聞けば痛い目に遭わずに済むのに。
「なるほど。じゃあ、ゆっくり尋問するわ。貴方を倒した後でね」
「そらよっ!」
アオイの代名詞とも言えるナイフ投げ!流石汚い。有無を言わさせない不意打ちで刺しにいくつもりか。
「こんな物簡単に避けられるわ」
「すり替え」
避けられたナイフと自分を入れ替えて背後を取るか。不意を突くにはそれだけでも充分だが、更にすぐさま空中で身体を捻って蹴りを浴びせる。なんていう身体の身のこなし…流石の私もこれには奴も少しは動揺する。そう思っていた。
「貴方のスキルを含めても…ね。じゃあ、まずは貴方の足から奪おうかしら」
まるで先読みしているかのように蹴られる寸前でアオイの右脚を掴んだ!?そして指定された部位の感覚を封印する『部位封印』をわざわざアオイに使うというのか…?
彼女は他人には絶対に能力を教えないし、人前では勇者特有のスキルをほぼ見せずにあくまで汎用スキルや魔法で立ち回る女だ。
まさに堅実という言葉が似合う勇者だ。そんな彼女が己がポリシーすら捨て去ってまでこのような戦い方をするのには少し違和感がある。
「!?…すり替え!!」
上手い!開いたスクロールと自分の位置を入れ替えるという事だな!そうすれば封印勇者はスクロールを握りしめ、確実に命中するはずだ。
「術式圧殺」
な、なんだ。あの技は…封印勇者の掌に発生した水が中の魔法を押し潰した…のか…?
「…その異常なまでの感の鋭さは褒めてあげるわ。…いえ、貴方の場合は知っていたって方が正しいのかしら」
「けれど…ここまでね。…海神の咆哮」
超広範囲を押し流す水流がありとあらゆる物を押し流す。封印勇者め。まだそんな切り札を隠し持っていたのか…
それにしても何故封印勇者はまるで見ているかのようにアオイの転移先が分かるんだ…?あれはまるでアオイの攻撃予測ではないか。
流石のアオイも手の内をあれだけ読まれては…
「スポットライト!」
そんな封印勇者の攻撃にも動揺せずにアオイは数十m先にある木を指さす。
「なるほど。そう来るのね」
するとありとあらゆる物を押し流していた水流は突如収束し、方向を変えライトが当たった木を木っ端微塵に粉砕する。
「うぅわっ…マジかぁ。これ絶対人に向けて良い威力じゃないだろ」
「技の軌道を逸らすスキルにアポート能力持ち…まさかあの国がこんな隠し玉を持っていたとは驚いた。あのおじさん…ただの置物国王じゃなかったってことね」
「いてぇな…さっきはよくも人の足首ガッツリ掴みやがったなぁ!」
逆上したアオイは再び袖に仕込んでいた二つのスクロールを取り出し、封印勇者を攻撃するが、どちらも術式圧殺で防がれる。
「さっきからよくやるスクロールの攻撃…悪いけどスクロールで使える魔法なんてたかが知れてる。この程度じゃ私には効かない。貴方、決定打が致命的に足りてないわ」
そうだった。あれから少し調べてみたのだが、そもそもスクロールとはクエスト等で生計を立てられないお金に困った魔法使いが自信の魔法を売っているという物だ。故に余程の事が無ければ高水準のスクロールが手に入る事などない。やはり今のアオイでは歯が立たないのか…?
「嘘が下手だな。本当に効かないならスキルを使わず、耐性で受ければ良かっただろうに。魔力も節約出来るし、それが確実だ」
「貴方に言われたくはないわ。耐性があって、ノーダメージになったにしても命中した事による副次効果を狙っている可能性が少しでもあるなら多少魔力を使ってでも防ぐ方が確実じゃない?」
「あっ、バレた?…さぁ、そんな事より!証明してくださいよ、ミス勇者様。貴方の強さとやらを。こんなもんじゃないってのは俺でも分かる」
「…私の全力が見たい…ねぇ。それならそっちも本気でかかるのが筋だと思うんだけど?」
「そうかよ。そんなに見たけりゃ見せてやるよ!」
アオイは腰巾着の中身を炸裂させる。というかこいつどれだけアイテムを持っているんだ。手品師じゃあるまいし。
「煙幕…!?小賢しい真似を…一撃で蹴散らす!ぐっ…!?足払いか。しかし、これで見つけたぞ。アオイ!!」
まずい!暗闇で全く見えないが、それ故にアオイは何をしでかすか分からない!早く止めなければ…
「待った!待て待て待て!!」
「か、風の精霊よ!」
闇を払って現れたのはアオイと封印勇者。アオイはナイフを。封印勇者は地面から伸ばしていた水の刃を。アオイが封印勇者を押し倒すような体勢で互いの首元に突きつけて…いや、冷静に状況判断している場合ではない!
「ミサキはアオイを頼む!」
「わ、分かった!」
「土の精霊よ!」
「ホーリー・シールド!」
もう水の刃が首元に届くまであと数cmしかない。おまけにかなりの魔力が込められている。ならばピンポイントで絞った一点特化で防ぐしか方法はあるまい!
『っ!!』
ふぅ…ミサキが土の精霊でアオイの身体を拘束し、こちらも無力化に成功。ギリギリセーフか。
「くそっ!離せ!あとほんのちょっとなんだ!」
「やめて、あおちゃん!そのほんのちょっとは超えちゃダメだって!」
「…余計な邪魔しないで。聖剣勇者」
「お前達…人間同士で殺し合いをしたところで何にもならない事ぐらい分かってくれ。…そしてお願いだ、封印勇者。この戦いは私の部下の失態。どうかここは私に面じて矛を収めてくれないか?」
「部下?てめぇ、何を言ってるんだ?」
おい、アオイ!空気を読んでくれ!この状況が分からない訳じゃないだろう!?
「ダメよ。私はこいつを倒さなきゃいけない」
「右に同じく」
「倒すだと?…全く、ナイフを突きつけ合っている状態なんだ。お前達は引き分けで良いだろう」
『良いわけない』
「こいつが屈するまでやめない」
「彼が屈するまでやめない」
お前達は相手を殺す気か!?何故そんなに殺意が高いんだ!?これ以上はやめてくれ!
「勇者様!もう、探したんですよ!交代の時間はとっくに過ぎているのに何をしてたんですか!?」
「おっ、サボりか?サボタージュか?勇者様」
隙あらば煽るな。何故争いは終わったのに再び争いの火種を生み出そうとするんだ。
「…そんな訳ないでしょ。私があの子と交代ってだけ。今回はこれで引いてあげる。またね」
「おう、またな。そこらのモブキャラに負けかけた勇者様」
「そうね…貴方、私の目が黒いうちは見逃してあげる事にするわ」
目が黒いうちは見逃す…?あぁ、慣用句の言い間違いか。あの結果で動揺でもしていたのだろう。だが、今気になるのはそこではない。
「なぁ、アオイ。あいつはどうしてお前の位置が手にとるように分かったんだ?」
「…何でだと思う?俺の動きから想像してみ?何故新しいすり替えの不意打ち戦法をやめて、ハイドの闇討ちに変えたのか…お前はさっき見えなかったかもしれないが、何故あの足払いをあいつは回避出来なかったのか」
「…つまりお前は何を言っているんだ?」
「じゃあ、お前は一生勝てないな。俺にも。あいつにもな」
「な、何だと!貴様…!!」
5日目。問題しかなかった。全く、こいつという奴は…
〜
「どうされたのですか?わざわざパトロールの区域外にまで出向くなんて…」
「ただのきまぐれ。それにあれだけ大規模な魔法を放つ者を止めるなら私が行く方が確実でしょ?」
「た、確かに…」
「ほんと…。あの馬鹿神にはあとで一言言ってやらないと気が済まない。…!!いったぁ…」
「右脚が痛むのですか!?私が今すぐ治します!」
「大丈夫。これくらい自分で治せるわ。…全く、随分と負けず嫌いなんだから…」
〜6日目
そして、6日目。いつも通りミサキの様子でも見に行こうとしたのだが違和感に気づいた。
「武器屋の店主も酒場のマスターも…私の部下の兵士達もいない…?」
そう、私が気づくのはこれから少し先になるのだが、王都に住む男達が一人残らず消えていたのだった。




