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第12話 修業開始!

1週間という猶予を貰えた以上、このわずかな時間でシオン共にアオイ監督の指揮がいかに優秀かを分からせてやる必要がある。まずはミサキのステータス。そして出来ることと出来ないことの把握が必須だ。



『ねぇ、シオンとライムは強力よ。今からでも誘えばいいじゃない』



「何度も言うがあの二人は要らん。てかどっから出てきた」



『人をゴキブリみたいに言わないでくれる!?ほんと勇者ってこんなのばっかり…』



「こんなのとは何だ、こんなのとは」



『はぁ、自覚がないなら言うけどねぇ…勇者は概ね精神年齢中学生の集まりよ』



「よくある精神的に未熟な人間である方がより強い能力者になるってやつか?」



『そうね。しっかりとした大人達より強力な能力の適性が高くなりやすい傾向にあるわ…』



ふむ、やはりそうか。所謂存在しない力を信じる妄想力みたいなのが問われるってことだろうか。



それらが高いのは総じて思春期の子供。つまりは手のかかるガキ共が大勢いるわけか。…そして俺は物事を全力で楽しめる童心を忘れていなかったということだな。うむ、良い傾向だ。



『ただし、あくまで傾向は傾向。そうね、一見どこにでもいるような没個—平々凡々な人間。社畜のおじさん。果てはニートまで。色々な人に適性はあるわ。だからまともな感性をしている人間にも適性はある』



「おい、今俺の事を没個性って言いかけたか?」



『うっさい!あんたみたいな煽りカスが没個性でいてたまるか!!…はぁ、そりゃあね?まともな感性を持った人間でもそこそこの適性持ちはいるし、根気強く探せば平凡な人間の中でもあんたらとひけを取らないくらい強い人はいるっちゃいる」




「なら何故そいつらを厳選しない?」



「前にも言ったけど世界を救うのは早い者勝ちだからよ。そして救う世界を乱さないよう定員があるの。例えばこの世界の定員は追加された貴方も含めたら13人。平々凡々なパーフェクト勇者なんて早々見つからないわ。人格破綻者を探す方が手っ取り早い。厳選に時間を費やしたら他の神々が先に勇者を決めてしまうしね』



シオンやミサキのような俺TUEEE勇者を12人も送り出している時点で既に世界を乱している気がするのだが、今は流そう。



それより今シルフィは久々に重要な事を話しているんだ。ゆっくり言葉を反芻し、冷静に話し合わなくては…



「てめぇ、今死ねって言ったか?」



『余計な茶々入れなきゃ気が済まんのか!黙って聞いてろよ!!』



相変わらずあんな軽いジョークにフルスロットルか…今までこいつに担当されていた勇者が気の毒だ。ちゃんと頭を使った会話出来るなら最初から最後までしてくれよ…



ん、待て。そういやシルフィ理論が正しいなら俺やシオンはともかくミサキも人格破綻者呼ばわりか。あいつ良い度胸してんな




『あのねぇ、なんとなく言いたい事は分かるわ。まず全ての勇者=異常者呼ばわりするのはやめなさい。あの娘は平凡な女の子よ…ただ、他の勇者達とは別のベクトルで精神が未熟よ。人と魔物達が分かり合える。そんな事を本気で考えている。だからこそ本来勇者になるべきじゃ無かった…』




やはりそんな感じか…ん?つーかお前まるでミサキを知っているかのような口ぶりだな。




「おい、何か隠しているなら今のうちに白状しとけ。怒らないから話してみなさい」



『ない!ちょっと最初に顔合わせした時に思っただけ!本当よ!』



別に本気で怒るつもりもないんだが…俺に言いたくない何かを隠している感じが伝わってくる。これ以上言及しても喋る気配はないだろう。なら時間の無駄だ。それより気になる事はまだある。



『そ、そんなわけで…適性至上主義の神々は勇者を人間性よりも傾向と才能で選んでいるの。たとえその勇者が弱い勇者をいじめてたり、パーティから追放したりする最低な人間でも…ね。たまに能力もそこまで強くない救いようのない勇者もいるけどそれは【運が悪かった】で流されるし』



なるほどね。それがシオンのような量産型勇者や俺のようなチープな煽りカス勇者を生み出してしまったと。



「…お前の言っている事がよく分からない。仮にお前の仮説通り俺が人格破綻者だとしよう。だが、肝心な実力が伴っていないではないじゃん。神々老耄してんの?」



『めちゃくちゃ失礼なこと言うわね!てかあんたは追加1枠でじっくり選ばれたかなり強い勇者よ!煽りスキルなんてイカれたスキル使いこなせるのは間違いなくあんたしかいないし、第一絶対無敵の攻げ—』



「それを口に出すな。情報はどこから漏れるか分からない。あれは言わば俺の最終防衛ライン 。次許可無く名前を出したら殺すぞ」



『ブラック企業のパワハラ上司か!!』



「冗談だ。…にしても上司か。早くも俺との上下関係を理解してくれたようで何よりだ」



『例え話を本気にすんなし!』



こっちも軽い冗談のつもりだったが、相変わらずこいつは相当神であることで俺にマウントをとりたいらしい。諦めの悪いことだ。



「話を戻そう。俺は攻撃手段が皆無なのに強いとはよく言ったものだな。ずっと昨日のレオル戦のように消耗品である巻物や投擲する武器で戦ってみろ。いつか貯金が尽きるし、倒せない相手も増えるだろう。あとは宿屋の宿泊費も考えてくれ。あれでどこまで対応出来るか分からんし」



『そんな事ない!貴方の才能は他の勇者達と同等よ!けど本当は—』



「けど本当は?何だ?」



『しまった!ま、まずい…』



「何がまずい。言ってみろ」



やはり俺の召喚は正規の召喚とは異なる経緯で召喚された可能性が高いってわけか。もしもこいつがこのまま沈黙を続けるならそこは後ほど掘り下げるか他の神と会えたらそいつに聞くか。



『あっ、えっと…それはね…』



「つーかさ、そもそも…何が悲しくてお前とこんな長々と話してたんだ?」



『—!!そ・れ・は!!』



「ごめん!待った?」



「いや、今来たところだぞ?」



『あんたが2時間も前から待ち合わせ場所でスタンバイしていたからでしょうが!!』



2時間も?だと?別に2時間なんて想定の範囲内だ。ミサキを2時間待つくらい安いものだ。



「これでも譲渡はしただろう。約束をしておいて待たせる人間は最低だ。違うか?」



『…うん。まぁ、いいわ。これ以上は何も言わない』



「あぁ、あれについて何も言うつもりがないなら下がれ。使えん女め」



『ちょっと!絶対最後の一言要らないでしょ!ちょっと!アオイ!!』



「じゃあ、まずはスキル一覧を見せてくれないか?」



「う、うん。いいけど…」



「ちょい待ち。人通りのあるところで情報を開示するのはまずい。他者が侵入出来ない空間を作れたり…はしないだろうから人通りが少ない場所を…」



「守護精霊よ!外界からの干渉を遮断!」



ミサキの声に応じた精霊が俺とミサキの半径数mを結界で囲む。ここまで応用が効くなら将来は有望だな。



「おぉ、すげぇな…」



「まぁ、ちょっとした認識阻害程度だけどね」



スキル一覧

癒しの精霊 Lv.99

火の精霊 Lv.99

水の精霊  Lv.99

雷の精霊 Lv.99

土の精霊 Lv.99

風の精霊 Lv.26

守護精霊 Lv.99



「マジかよ…」



あまりの練度の高さに思わず感嘆の声を漏らす。

こいつがこの精霊達をコントロールし、より上のレベルに達したのなら…こいつは間違いなく最強になれる。



「なるほど。だったらこちらも全て見せるのが筋だ。あとは…俺の能力を全て。包み隠さず教える。ただ約束して欲しい。基本的には喋るな。ただもしも俺の能力を喋る事でお前の命が助かる時が今後あるかもしれない。そのために…全てを話す」



「あおちゃん…?」



「その前に…お前が念のためミサキであるかどうかテストをする。何も特別難しい問題ではない。お前が日本人であり、なおかつ他の勇者の変装でない事を証明するだけだ」





最終本人確認も合格。俺は正真正銘全てのスキルを晒し、能力を詳細に語った。



「攻撃予測…そんな能力だったんだね」



「あぁ。だから俺はレオルのカス攻撃はもちろん。あの不規則に飛んできた精霊の攻撃やライムの巨大竜巻にも対処出来た」



「逆を言えばこれがどうにもならなくなったら俺は即死亡だ」



「だったら何であおちゃんはこれを私に教えたの?」



「…三流漫画みたいな台詞で申し訳ないが…『俺自身の死より耐えられない事があるから』だ。拷問されそうになったり、命が危なくなったら取引材料として使え」



「でも、そんな事したら…」



俺の命が危なくなる…みたいな事を言いたいのだろうか。相変わらずお人好しにも程がある。



「生きていれば…戦いはどっからでも逆転可能だが、俺はお前に傷ついて欲しくない。俺の能力程度でお前が守られるのなら安い買い物だ。遠慮なく喋れ」



「ねぇ、切り札を明かしたらあおちゃんはどうなるの!?」



「バレたらバレたでそれを織り込んで戦えば良い。相手の行動がワンパターンになるんならそれを対策すれば良いんだからな」



攻撃予測の主な弱点。それは範囲攻撃だ。特に短距離瞬間移動で捕らえられない場所に逃げられた上での絨毯爆撃や移動範囲をすっ飛ばせる自爆攻撃等が厄介。



だが、逆に言えば今後それをどうにかするスキルを手に入れたら良い話だ。俺の才能任せにはなるが、これが早々バレる事はないだろう。そこまでにどうにかする。どうにかする。



「まずは現状の把握と主な指針の決定から入ろう。初日の実戦訓練は最後に軽くで良い」



「そんな事で時間使って良いの?1週間しかないんだよ?」



「そうだ。1週間しかない。だから前時代的な雑なトレーニングをするつもりは毛頭ない。よって…現状お前の出来る出来ないを正直に話してくれ。そこから指針を決めよう」





俺はミサキの現状。補助魔法以外は上手く扱えないと聞き、具体的にどう使えないかを把握するために誰もいない広い原っぱに出た。



「今から5分間精霊で俺に攻撃してみてくれ。難しく考える必要は無い。俺には攻撃予測がある。遠慮なく全力を出してくれ」



今回の修業は別にミサキだけのものではない。俺の修業も兼ねている。俺もあらゆる攻撃の回避方法を身につけるのと併せて攻撃予測の限界も測りたい。



その修業においてミサキはうってつけだ。万が一の事があっても回復して貰えば良いのだから。



「わ、分かった。土の精霊よ!」



【攻撃予測】



大地の揺れ及び地割れ



広範囲における地割れか…早速対処のしずらい攻撃だな。



だが、亀裂が入る場所には赤いラインが出るからすぐ見抜ける。そして揺れる範囲の地面は周りと色が変わるようだ。



「雷の精霊よ!」



【攻撃予測】


上空から辺り一面に雷魔法



「うぉい…やるな…」



土の精霊で地面に集中させたところで上空からの雷の魔法で一網打尽。先程の土魔法といい、ミサキも自身のコントロールが悪い事をよく理解しているようで大規模な範囲攻撃を多用している。今までは仲間を巻き込む可能性があったが、このようなタイマン勝負のスペックは凄まじいな。力は申し分ない。あとは繊細なコントロールだけだ。



「おう、撃ってこい。俺の予測は簡単には崩せないぞ」



「…だと思ったよ!」



「むっ…」



【攻撃予測】



地中から水魔法



「最初に地割れを起こしたのは最初からこれが狙い!」



割れた大地から大量の水が弾丸となって襲いかかる。技自体は雑に飛んで来るが、なまじ数が多いから厄介だな。そして先程の雷魔法と今の水魔法を見て気づいたのだが、自分に全く当たらない軌道の弾は予測に出てこない。



本来なら徒に魔力を消費する上に連携を阻害する無駄な行為であるはずが、この状況に限っては非常に厄介だ



「いきなり弱点発覚か…」



そうなればあとは洞察力や反射神経、身体能力。そして危険予測の対応速度による勝負になる。



「だが、俺を詰ませるにはあと一手足りない」



今まで以上により慎重かつ冷静に予測を観て、最適解を行くだけだ。



「そのあと一手は…これかな!!」



【攻撃予測】


風魔法による包囲



「…まさかここまで早く正解に辿り着くとはな」



竜巻の中に俺を閉じ込める。…うん、良い手だ。こうなりゃ俺は完全に閉じ込められる前に短距離瞬間移動を使わなきゃいけないが、俺自身に当たらない攻撃が周囲にどれだけあるかは分からない。だが、これに至ってはシンプルだ。



「大地の割れ目を避ければ飛んだ矢先にやられる事はないから…」



【攻撃予測】


水の精霊


水の精霊による水を弾丸にして飛ばすシンプルな技。アクア・バレッドと類似しているが、威力・射程・追尾性能。全てにおいて遥かに上回っている。




「…たとえ弾丸を曲げようが余裕でかわせる」



後頭部に予測が飛んできた事には驚いたが、これくらいなら造作はない。あとはもう少し精度を上げていきたい。



「まだ終わりじゃないだろう?」



「もちろん!まだまだ行くよ!」




結論から言えば5分間、ミサキの攻撃には一度も当たらなかった。しかし、早急に改善するべき課題がいくつか見つかった。まさか実戦形式のトレーニングがここまで効率が良いとは…この調子で俺も攻撃予測や他のスキルを強化していきたい。



「はぁ…はぁ…これだけやっても1発も当たらないなんて…」



「俺も短距離瞬間移動を3回も使う事になるとはな…」



短距離瞬間移動は無敵の技では無い。俺としてもどうしても回避が難しい場合あるいは不意を突く場合にしか使いたくない。おまけに乱用すれば読まれる。



まずあの技は移動後から数秒のインターバルがある。転移先が必ずしも安全というわけではないし、転移後に攻撃予測で見ていない攻撃が来ていたら詰み。



もしもそういったリスクを回避したいなら攻撃予測か短距離瞬間移動のレベルを上げていかなければならないだろう。



「ミサキの課題も分かった。今回の戦い方はソロや俺なら問題無い。正直シオンより遥かに上だ。だが、もしもシオン達と組むならフルパワーを出せた上でコントロールする必要がある」




そう、ミサキの一番の課題はミサキ自身が精霊に使われているかの状態になっている事だ。



呼び出す分には何も問題はないが、攻撃を精霊側がテキトーにやるせいでさじ加減が極めて調整し辛い。




「ただ強いて言えば風の精霊はコントロール出来ていたな?」



「う、うん。この子は私が一から育てていたからね。パワー不足なところはあるけど色々な応用が出来るの」



「…そうか。ミサキ、風以外の四属性の精霊を出した上でちょっと後ろ向いて耳を塞いでいてくれ。」



「う、うん。分かったよ」



「さて、俺の言葉が通じるかは微妙だが…」



「全く、お前らは本当に使えないな。俺が瞬間移動を使った全ての局面において活躍したのは風の精霊だ。時に俺の移動を阻害し、竜巻で閉じ込めようとし、お前らの大規模攻撃に合わせた見えない空気弾で攻撃をしていた」



「他の精霊共は何故そんなに弱い?何故単調な攻撃しか出来ない?風の精霊はお前らを常にサポートしていたぞ。協力し合えば俺にも勝てただろうに…足手まといのカス共め」



「まっ、あと6日間。俺に一撃でも浴びせられたらいいな。お前ら」





1日目の修行が終わり、宿屋で今後の方針を決めていたところシルフィが俺に語りかけてきた。



『ねぇ、本当に良かったわけ?あんなに自分の手の内を見せびらかして』



「信頼を得るため。そして俺に遠慮なく攻撃を撃ってもらうためには必須だった。あまり気乗りはしなかったが」



そもそも今後パートナーになる可能性も考えれば能力の開示はしておいた方が連携取りやすいからな。…ただ本格的に仲間になるかどうかは微妙なラインだからとりあえずは戦力として仕上げる事だけ考えよう。



『どうにかこうにか誤魔化せば良かったじゃない』



「ふむ、それも一度考えた。だが、俺はむしろ今しか無いと思った。もしミサキが俺を売ってもダメージが少ないからな」



俺が今後圧倒的チートスキルを手に入れるかもしれないし、魔王城突入時等のスキルをバラされるとかなり危険だ。俺の立ち回りの把握自体は現状のスキル以外のスキルを知る必要はない。だからここが一番良かったと思う。



『ちょ!ミサキが本当にあんたを売ると思ってるわけ!?』



「俺の能力を話すシチュエーションを軽く考えただけでも俺の思惑通り捕虜とか捕まえられた時に話す。ミサキが実は裏切り者で魔王と内通しており、能力を話す。あるいはミサキは弱いフリしている勇者の元締め。俺を排斥するために勇者達に能力を話す。と、いった仮説がある」



『あんたミサキを信じてないの!?』



「お前さ、仮にお前らにも死があるとしよう。あとで蘇生魔法をかけてやるから死ねって言われて死ねるか?絶対助けに行くからと言われたからといって、敵の本拠地に単身で突っ込めるか?他人にスマホを預けられるか?連帯保証人になれるか?クレジットカード貸せるか?家の合鍵を渡せるか?」



『色々言うな!…つまりは何が言いたいわけ?』



「最低限は保険で一定のラインを引くだろ?って話だ。卑怯卑劣さで人間に勝る生物は存在しない。恋人だからって同棲を許したばかりに全財産を奪われた人間だっているんだぞ」



『うん、私はあんた程捻れに捻れた人間を知らないわ』



「捻れていたから呼ばれたのだろう?そもそもお前が選んだのだろうに」



全く、テメーが選んでおきながらケチを付けるとはとんでもねー神だ。



「どうでもいい話しかしないなら俺はそろそろ寝るぞ。あと6日。時間は短い。効率良くやらなければな」



まずは水魔法をある程度の水準で使えるようにする。そこが第一歩だ。ミサキに素質自体はある。俺がなんとしてでも引き出さなければな。



「2日目からは一点に絞って、より集中的に。確実に強くなってもらうぞ。ミサキ」

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