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第10話 新たなリーダー

調べてみたところ今朝シオン達は南大陸の残党狩りに行ったらしい。レオンハルトの進軍時にはいなかったっつーことは大半が非戦闘員をはじめとした格下の集まりだろうし、シオンもステータス自体は高い。問題は無いだろう。余程の事がなければ…だが。



「…どうしたんだい?兄ちゃん。何か考え事かい?」



「いや、何でもない」



「そうかい。ならいいんだ。けど、さっきの話は本当かい?ウチで売れ残ったこの巻物…全部買い取ってくれるって」



いけね、つい商談をしていた事を忘れていた。確かおっちゃんは勇者が王都に来てから戦闘用の道具が売れなくて困っていたんだったな。そこで俺が大量に買い取ると提案したんだった。



「さっきの話に間違いが無いなら買い取る。あの説明は本当だろうな?俺を騙したら貴方を詐欺罪と器物損壊罪で訴えますよ?」



「さ、詐欺罪はともかく器物損壊罪ってどういうわけだよ!?とにかく!これの中には魔法が閉じ込められていて、紐を解けば即座に魔法が発動する!」




「ふむ、本当…なんだな?」



「疑うってなら試し用で1つくれてやるよ!ほら、紐を解いてみな。水属性の魔法『アクア・バレット』だ」



道具屋のおっちゃんの言うままに俺は雫のマークが描かれたスクロールの紐を解く。すると巻物の中から水の弾丸が発生し、少し先にある空ビンを穿った。



威力も申し分ない。モンスターを確実に殺す決め手に欠けているといった俺の致命的な弱点もこれで多少は改善されるだろう。



「それにしても…兄ちゃん、あんたまるで初めて魔法を見たかのような反応だな…これくらいの魔法。適性が十分にある魔法使いだったら誰でも使える魔法だぜ?」



前言撤回。もしかしたらスクロールはあんまり役に立たないかもしれない。しかし、詠唱をする必要がないという点が不意打ちを主体とする俺と相性が良い。それに誰でも使える魔法が出来ないから俺は苦労しているんだ。



「よし、全部買った!ただ、その分…アレはサービスしてくれよな?」



「目ざといねぇ、兄ちゃん。任せときな。おまけもバッチリつけとくぜ」



「ありがとさん。また来るからよろしくな」





よし、これで新たな攻撃手段ゲット。必要な時に出せるようにしておこう。たとえ汎用的な魔法であろうとも使い方次第で決定打になり得る。



ただ願わくばこのスクロールが要らないくらい様々な魔法が使える奴がいれば良いのだが…難しい話か。



「さて、次は…勇者の情報収集かな…」



これに関してはシオンに聞くよりそこらの国民に聞く方が手っ取り早い。隠している場合が多い勇者の能力よりも各勇者の人間性、好きな物、王都での行動。あわよくば弱みが知りたい。



「さて、どいつに声をかけようかな…」



だが、ここで問題発生。俺は世間話とかが苦手なんだ。誰に声をかければいいんだろうなぁ…なんか妙に男が少ない気がするし。王都に徴兵でもされてんのか?



女にいきなり話しかけた事で不審者扱いされ、指名手配されたら今後に差し支える可能性がある。



俺の容姿は端的に言えばヒョロいオタク眼鏡君。下手な相手に声をかければ間違いなく即通報される。



さて、どうしたものか。



「ねぇ、キミ!ちょっといいかな?」




「何だ?客引きなら他を当たってくれ」



やべ。つい、反射的に警戒心MAXで応じてしまった。だが、彼女はそれに対して嫌悪感を示す事もなく、俺に頼み事をしてきた。



「あはは、違うよ。アオイ君、今すぐ南大陸に向かってくれないかな?」



「…はい?いや、南大陸はもうシオン達が…いや、待て。何故俺の名前を知って—」



「悪いけど、君の質問に答える暇はないよ!さぁ、早く行きたまえ!」



その怪しい女はワープホールを出現させ、俺の腕を引っ張る。何が目的か知らないが、もし本当に俺を南大陸に向かわせるつもりならまずい。とりあえず探りを入れてみよう。



「分かった、分かった!分かりました!!だからせめてひとつだけ準備させろ!」



もし、この女がワープ先で俺を殺すつもりなら準備すらさせずに無理矢理引っ張るはずだ。さぁ、こいつはどう出る?





「はぁ…何なんだ、あの女は…つーかあいついないし…」



結論から言えば俺の要求は通った。だが、彼女は急がないと大変な事になると言っていた。もしかして…




「ふーん。なるほど、そういうことね…」




俺が飛ばされた少し先にいたのは犬、猫、ゴリラ…多種多様な獣人と戦う聖剣勇者とそのモブ兵士共。あとは…人質に取られた一般人か?




いや、違う。魔法使いのようなローブを羽織っている上にあの赤毛の女。もしかしてあれは…




「詰めが甘いなぁ、勇者様よぉ!」



レオンハルトによく似たライオンの獣人が赤毛の女に爪を向け、下衆な笑みを浮かべる。…足りないな。まだ足りない。あんなんで勝ち誇るのは三流以下だ。そして致命的に煽りスキルが足りない。



「っ…!」




「卑怯だぞ!正々堂々戦え!」




滑稽だなと思った。レオンハルトに勝ったから残党は余裕だとでも思ったのだろうか。勇者が明らかに格下であるそこらのゴブリンやスライムに倒されるなんて例はザラにある。しかし、いくら俺だってこのまま見なかったフリで帰るのは目覚めが悪いし、特に人質に取られているあの娘を殺させるわけにはいかない。



「シオンちゃん…私の事はもう良いよ。シオンはレオンハルトだって倒したんだから…必ず…世界を救ってね」



あいつめ…シオンと似たような事言いやがって。諦めるのはまだ早いぞ。




「健気だなぁ、こんな時でも仲間の心配か?まっ、それもすぐに悲鳴に変わるがなぁ!」




「勇者を殺せば俺が新しい四天王…そしてゆくゆくは俺が新しい魔王に—」




「卑怯だぞ!正々堂々戦えぇぇぇい!!」



ハイドでギリギリまで潜伏し、短距離瞬間移動で真上に飛んでから思い切り踏みつける。単純だが、非力な俺でも多少の威力は出せるし、何より不意打ちに強い。



「ぐあっ!だ、誰だ!?変な格好しやがって!!」



「お前のような下等な獣風情に名乗る程俺の名前は安くないんだよぉ!オラァ!正義の鉄槌をくらえ!」



赤毛の女を寄せ抱えてからの行動は決まっていた。この下衆な獣人を蹴り飛ばしてうつ伏せにさせてから足で何度も何度も踏みつけた。踏み付け自体は大したダメージにはならないだろう。だが、ここで重要なのは人間如きに足蹴にされるという最大級の屈辱を与える事だ。



「貴様は誰なんだ!その兜を取れ!」



一瞬チラりとシオンに目を向けるが、今お前と話をする暇などない。俺はこいつを踏み付けにする事で忙しいんだ。



「誰かと思えば聖剣使いの勇者か。お前にも名前を名乗るつもりはないし、兜を外すつもりもさらさらないんだよぉ!分かってんのか、コラ!ライオン野郎がよぉ!」




「ず、随分とひどいやつ当たりだな…」




俺のしてきた準備はこれだ。店でテキトーな兜を見繕ってきた。流石に自ら袂を分かった相手と会うのはちょっと気まずい。




無論、一緒に行動はしないというだけだし、必要であれば上手く利用しようとも思っていた。だが、翌日いきなり会うのは気まずい。転生直後のパーカーとジーンズはそのままで兜を被るという多少…いや、凄くアンバランスな格好だが、それは気にしない事にしよう。




「オラァ!聞いてんのか!?薄汚れた穢らわしい手でこの女を触りやがって!お前がこいつにした仕打ちを地獄で詫びるんだよぉ!」



「っ…だ、誰が人間なんぞに詫びるか…」



【攻撃予測】



左手から微弱な電撃




ほう、俺の軸足の左足にスタンガンレベルの電撃を浴びせ、動きを止めようってわけか。散々足蹴にされたというのに存外冷静だな。



「図に乗るな、人間!!」



「おっと…危ない危ない」



さっすが、便利だな。危険予知と短距離瞬間移動。

今じゃレベルが上がって、触れていれば人一人くらいなら問題無く一緒に移動出来る。



煽っている時でも無論、こいつには細心の注意を払っていたが、これに関しては危険予知が無ければ危なかったかもしれない。



「大丈夫か?」



「う、うん。私は大丈夫…だから…」



おい、まだ足が震えてるじゃねぇか。怖かったんだろうに…よく耐えたな。あとは任せろ。



「人間ごときが…舐めてんじゃねぇぞ!!」



「ふむ、敵は我を忘れ、激昂しているな」



「激昂させたのは貴様のせいだろう!!」



シオンが横から何か言っているが、俺に話しかける暇があるならお前は雑魚に相手に私TUEEEでもしてろ。



「だからいち早く始末する必要がある。安心しろ。俺一人でも余裕だ。聖剣の勇者様は雑魚でも相手してな」



「待って。私も手伝う。私にもできることがあるはずだから」



「…分かった。なら赤毛勇者。お前の力を借りたい。後方支援は任せるが、決して無茶はするなよ」



「上等だよ…今からお前から受けた屈辱を何倍にもして返してやる…何てったって俺はレオンハルトの息子レオルさ—ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」



俺は人の名乗りを最後まで聞くほど優しくはない。巻物を解き、雷の魔法『アサルト・サンダー』を炸裂させる。雷鳴が一直線上に高速で駆け抜け、レオルに直撃する。



「知らん、さっさとくたばれ」




「…くそったれがぁぁぁぁ!!」



だが、思ったよりピンピンしているな。敵の相性だとか然るべきタイミングで狙わなければ良い効果は得られない。といったところか。



しかし、中々に速い一撃だ。これはまた買っても良いかもしれん。



「俺が引きつける。早速援護を頼む」



「で、でも私の技は…」



「おい、テメー知らねぇのか?そいつは勇者の中でも最弱!お仲間の聖剣使いに守られているだけのお荷物勇者なんだよ!!」



煽りか事実かは知らないが、俺は他人の評価ごときで強さを判断する程浅はかではない。だが、こいつが自信を無くされると困る。あまり得意ではないが、背中を押そうか。



「俺はお前の仲間だ。もしもお前が失敗しても全力でフォローする。だから…好きなだけ足を引っ張れ」



「…ねぇ、君。君ってもしかして…」



「おい!そこでボケっとしている勇者様と部下共!雑魚は絶対に取りこぼすなよ!?」



「っ…まぁ、良い…貴様、後で覚えておけよ…」



「やるぞ、赤毛勇者」



よし、赤毛勇者もやる気十分だ。あとはこいつの才能を引き出せば勝てる。



「火の精霊よ!我が呼びかけに応えて!!」



【攻撃予測】



右から巨大な火の玉



ん?右から巨大な火の玉?俺の所に来ているのか?

なるほどね、彼女の力は不安定でコントロールが効かないってところか。



「おいおい!味方に撃ってちゃ世話ねーぜ!それでよく勇者が名乗れるなぁ!」



「…これは失敗ではない。お前を倒す第一歩だ」



危険予知ギリギリまで引き付けてからバックステップで回避。



そして火の玉が丁度重なるタイミングで風魔法『ウインドカッター』の巻物を開ける。




火の玉に視線を奪われ、油断しきっているレオルを数多の風の刃が襲う。




「何ぃぃぃぃぃ!?」



「お前の敗因は…こいつを甘く見ていた事だ。こいつは最弱でもお荷物でもない。お前を倒し、南大陸に平和をもたらすこの世界の救世主だ」




「クソっ!クソがよぉ!俺を散々コケにしやがって!」




「コケにされる程弱いお前が悪い。レオンハルトの息子何だって?やはりあいつの息子だな…弱すぎて話にならん」




「ご、ごめん!今凄く大きい火の玉がそっちに飛んでったけど大丈夫だった!?」



それにしても凄かったな…火の精霊か。精霊の力は俺が巻物で放つ魔法の威力の遥か上。制御出来れば今より更に強くなるだろう。



「あぁ、大丈夫だ。…それより、お前。すげー力持ってんじゃん。使いこなせるようにしようぜ。今、ここでな」




「う、うん!頑張るね!」




「てめぇがさっきから卑怯な真似さえしてなければ…!!」




「あ?卑怯?関係ないねぇ!俺はてめぇらをぶっ殺せるなら何でも良いんだよ!」




「赤毛勇者。今から言う俺の指示に従ってくれないか?レオルは確実に倒す。そのためにはお前の力が必要だ」



「…美咲。赤羽美咲!それが私の名前!次からはそう呼んでね」



…そうか。やはりお前だったか。それなら絶対死なせる訳にはいかないよな。



「オーケーだ。ミサキ、二人で奴を倒すぞ」




こちらの負け筋はミサキがレオルに近寄られて倒される事だ。それもすり替えで適当なレオルの部下を身代わりにすればどうにかなるが、獣人の身体能力を軽視するのは危険だ。可能な限り俺にヘイトを向けさせなければならない。



「ミサキ!援護を頼む!打つタイミングはこちらで指示を出す!ゆっくり落ち着いて!精霊のみに集中しろ!」



「分かった!…水の精霊よ!!」



もし精霊が意志を持っており、それが力を貸している。といったパターンなら…デコイを発動させておこう。あの水の精霊を見てやれば矛先はこちらに向くはずだ。



ミサキ。お前ならやれる。頑張れ。



「戦いの最中に背中を見せるなんざ随分と余裕かましてんなぁ!!」



【攻撃予測】


デスボルト


後頭部にかけての攻撃。



危険予知のデッドラインもちょうど俺の視線の先まで伸びている。やはり後頭部をバッチリ狙ってきたパターンか。そしてこの軌道ならミサキには当たらない。



「うん、まぁ…余裕ですし。」



レオルが【デスボルト】を使える事に多少驚きはしたが、一瞥くれてやる必要すらない。ちょっと頭を下げて難なく回避。



【攻撃予測】


アサルト・ブリンガー




おぉ、アサルトブリンガーまで使えるのか。詰まるところあの二人の良いとこ取り…いや、あの技を見る限りは器用貧乏か。勿論、回避は余裕。



「ミサキ。今いる位置から少しだけ右に避けろ」



「う、うん。分かっ—ひゃっ!?」



攻撃の延長線上にミサキがいたから念のため声をかけたが、やはり衝撃波でミサキを狙うつもりだったらしい。



「何故当たらん!!」



「おめぇが弱いからに決まってんだろうがボケェ!!お父様の進軍に呼ばれねぇのも納得だなぁ!!」




そして続く様々な攻撃も危険予知の前には無力。レオンハルトの技とデスボルトの技が使えてもあの二人程の威力はない。時間稼ぎは容易だった。



【攻撃予測】



巨大な水の槍



遂に来たな。よし、それで良い。それがベスト。あとは俺とレオル、ミサキが一直線上になるように位置を調整するだけだ。



「今だ!力を解き放て!!」



「で、でも!君はどうするの!?」



「俺なら大丈夫だ!ぶっ飛ばせ!」



「わ、分かった!水の精霊よ!!」



水の精霊が生成した槍が射出される。その瞬間に俺はギリギリまで引き寄せてから短距離瞬間移動で逃げる。



「お父さんに会いに行きな。じゃあな、レオルくぅぅぅん!」



そして移動先はもちろんレオルの真横。右肩を叩いて手を振った。




「ぐぼぁ!…お、お前…この瞬間、この軌道で槍が飛んでくる事が最初から…分かっていたのか…?」



「お前が知る必要など無い…ミサキ、ちょっと後ろ向いてろ」



危険予知は一切出ていない。今のあいつはあとちょっと心臓を突き刺してやれば終わりだ。



「あらあら、随分なやられ様ね。レオルちゃん」



「誰だ、お前は!」



突如ワープホールから聞こえた謎の女性の声。



と、言いつつ短剣を2本ワープホールに向かって投げる。誰かは知らないが、これはほぼ当たるだろう。



「凄まじく卑怯だな、お前は!!」



「がっつく男は嫌われるわよ?いきなりナイフが飛んで来たからびっくりしたじゃない」



悪魔の尻尾に翼。間違いなくサキュバスだ。大丈夫。こいつは殺してもいいやつだ。



「知るか。殺すぞ、サキュバスめ」



「勘違いしないで。私は今、貴方と戦うつもりはな—」



有無を言わさず先手必勝!『アサルト・サンダー』の巻物を手早く開ける。これならどうだ。



「グローリー・ホール!」



こいつ…アサルト・サンダーを吸い込みやがった。



【攻撃予測】



アサルト・サンダー



「—っ!?」



目の前に出ているデッドライン…間違えた。こいつは吸い込んだのではなく、空間を繋げてアサルト・サンダーをワープさせてきたというのか…?



危険予知の通りに右に避けなければ今頃俺は…



「私はこのレオルちゃんを回収したいだけ…あれを初見で避けられる反射神経には驚いたけれど…貴方のお友達も同じように避けられるかしらね…?」



そう来たか。俺の危険予知は原則俺に降りかかる危険しか感知出来ない。故にミサキに対しての攻撃は予測出来ない。俺単独であれば他にやりようはあるが、今はミサキを傷つけてはいけない。ここは見逃す事にしよう。



「分かった。今回は手を引こう。だが、そんな燃えないゴミを連れ帰るなんざ随分とケチなサキュバスだな」



「…今、貴方が知る必要はないわ。だって、いずれ分かるのだから。おっと、自己紹介が遅れたわね。私は四天王ウイハ=アエラ様直属の幹部スカラ=ラキア。以後お見知り置きを」



そうしてスカラはレオルを担いでワープホールの先へと消えていった。





「ねぇ、これで南大陸から魔王軍がいなくなったから目的は達成されたよね!」



その通りだ。いくつか気がかりはあるが、南大陸の拠点は既に壊滅状態。南大陸を解放するという当初の目標は達成されたと言っても過言ではないだろう。



「…すまない、礼を言う」



「いやいや、構わないさ。ただ…」



「赤羽美咲。こいつを俺の仲間として引き抜きたいんだが構いませんね?」

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