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第9話 イキリ厨二サイコパス勇者

「ミサキィィィ!!」



私は拠点に戻るな否やミサキに泣きついていた。



彼女は私達と同じ南大陸担当の勇者であり、今までずっと私の事を支えてくれたかけがえのない親友だ。



「シオン!心配したんだよ!南大陸に行ってからずっと連絡が無かったし…何があったの?」



「…話を聞いてくれるか?」



「う、うん。私で良ければ」



もちろんあまりこういう事は言わない方が良いという事は理解している。聞いててあまり気持ちの良い話ではないからな。だが、今回はどうしても誰かに言わなければ私の気持ちが晴れなかった。



「許せない…悔しい…あいつに負けたのが悔しくて仕方がないんだ…」




「あのイキリ厨二サイコパス勇者がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」




かつての仲間のことを馬鹿にされたのにも関わらず、あいつに一矢報いることすら出来ずに負けてしまったのだ。ミサキには申し訳ないが、少しだけ愚痴を聞いてもらおう…



「イ、イキリ…厨二サイコパス…勇者…?誰なの?それにシオンが負けたって…」



「奴の名前は青井龍一。13番目の勇者…らしい」



「青井龍一!?それって煽り実況で有名な動画配信者じゃん!神様はそんな有名人まで転移させたの!?」



名前を言っただけで凄まじい食いつきぶりだ。私はその手の話には疎いが、ミサキの反応からかなり有名な男だという事が分かる。



「そ、そんなに有名なのか?」




「ネットでのハンドルネームはブルーアイ。知らない?」




ブルーアイ…青い瞳…?全くもって分からない…ミサキは何を言っているんだ?



「ブルーアイはね、ゲーム界隈で知らない人はいない有名人なの!その実力はプロゲーマーすら凌駕するとも言われた最強の男!…なんだけど…」



「…うん、なんとなく分かるからその先は言わなくて良い」



どうせ対戦相手を煽るだけ煽るマナー最悪人間だという事を言いたいのだろう。それは嫌という程理解している。



「そ、そうだね。あはは… ちなみにその勇者はどんなすごい能力持ってた?」



道を違えはしたが、世界を救うという同じ目的を持つのであれば能力は把握しておきたい。やはりミサキも着眼点は一緒か。



「…奴のスキルは凄いと言えるかは分からないし、イマイチ把握しきれていない。だが、私が見た限りのスキルは全て教える」



私はミサキに全てを教えた。代表的な短距離瞬間移動、ハイド、デコイ。他にも新しいスキルであるフェイクニュースとスキャンダル。あとはスキルと言えるか怪しいが、あいつが持つ煽りスキルに関しても漏らさず伝えた。



「えっ?強そうなスキル一つもないよ?本当に勇者なの?」




当然の反応だ。何せ勇者は最初から強い。それはここにいるミサキもご多分に漏れない。ミサキは『精霊勇者』と呼ばれており、数多の精霊の力を借りることでほぼ全ての属性を操る。



その威力はどれも王都トップクラスの魔法使いのそれを遥かに上回る。



「そうなんだ。勇者であれば必ずチートスキルが一つはあるはずなんだ。だが、アオイには何一つ強いスキルが見つからなかった。私と戦った時も一切新しいスキルを明かさなかった」




「んー、だったらギフトの能力がとんでもなく強いんじゃない?」



ギフトの能力がチートなパターンか。私達で言えば恋愛勇者や弓勇者がそれに該当し、悪く言えば平凡以下の彼等の能力を凄まじく引き上げる。




だが、アオイはそのどちらでも無かった。スキルこそオリジナルスキルばかりだが、そこまで強くはないし、その上…



「…あいつはギフトを貰っていない」




「えぇ!?ギフトがない!?」




「あぁ、アオイの担当女神と確認した。間違いなくアオイはギフトを貰っていない」




「ということは…」



私達に隠している何かがあるのは確定だ。もしもそんなやつが魔王軍に入れば…あまり考えたくはないな。



「あいつの裏にはそれ以上の何かがあるはずだ。それを必ず見つけてみせる」




「けどさ!あおちゃ…いや、龍一君のことを他の神にも聞いてみない?何か分かるかもしれないよ?」




他の神か…あの後、念のためアテナ様に確認を取ったが、アオイは13番目の勇者であるということと天才的な煽りの才能の持ち主ということ。あとは現実世界におけるアオイの詳細以外知らなかった。



アオイの事など知らないとは思うが…念のため聞いてみる価値はあるか。



「それでは早速—」



「失礼します!ミサキ様、シオン様!ただ今よろしいでしょうか」




「…何だ?何をそんなに急ぐ」



全く、こっちはアオイの事で手一杯なんだ。これ以上私の悩みのタネを増やさないでくれ…



「あっ、シオンちゃんは知らないよね。今日はこれから王都で勇者会議があるの。南大陸の四天王が倒れたから今後の方針を決めるんだって」




「はい、ミサキ様のおっしゃる通りでございます!まもなく王都にて会議が始まります!来ていただけますか?」






「会議があると言われ、来てみれば…やはりこうなるか」



馬車に揺られて数十分。現在王都にいる勇者はアオイを除けば10人。しかし、勇者会議のテーブルは半分が空席という有様だ。



国王様がわざわざ来ているというのに…病欠の報告があったボールペン習字勇者はともかく、他が酷すぎる。




「全くだ。協調性のきの字もないやつらばかり。何故神々はあんな人格破綻者共に勇者の力を与えたんだか…」



私達十二勇者には序列がある。そして基本的に序列が高い者ほど話が通じず、何を考えているか分からない傾向にある。



例えば今ここにいる上位勇者は六位の私と目の前にいる第四位。封印勇者だけだ。更に上位の黒炎勇者やドラゴン勇者。そして第五位の恋愛勇者は恐らく無断欠席だろう。



この協調性の無さこそ勇者は異常者の集まりだとか言われてしまう所以だ。



「あいつらめ、上位勇者だからといって調子に乗っているな…」




「まぁまぁ!今はいるメンバーでだけでも会議を始めようよ!」



「ですね。これ以上は時間の無駄です。今この場にいないドラゴン勇者、黒炎勇者、恋愛勇者は命令なんてロクに聞きませんし、弓勇者は基本引きこもり。あんな人達を待っていては話が進みません」



ミサキの隣にいる歳不相応に大人びた少年が第7位の錬金勇者。特殊スキル『錬金』でありとあらゆる物を創る勇者達の頭脳だ。



「そして…さっきから無言で貴方は何をしているのですか?松駿」



「何って?見れば分かるだろう?(ハジメ)くん。ポージングだ!!」



「分からないから聞いているのですが」



「俺の肉体をより美しく表現するための究極ポージング。俺はそれを求めている!」



そうだった。こいつはそういうやつだった。マッスル勇者。本名は『松駿(まつしゅん)』。趣味は筋トレ。自らの肉体に絶対の自信を持っており、隙あらばポージングを決めて身体を見せつけてくる。隙を与えてはいけない。



だが、『筋肉は争いためにあるのではない』をポリシーとし、私的な争いや喧嘩はしない優しい男でもあるため国民からはかなり好かれている勇者の中では数少ない常識人ポジションだ。筋肉マニアである一面さえ除けば…



「今この場で求めているのはまともな話が出来る人です。会議に参加するつもりがないなら帰ってください」



「まぁ、待ちたまえ。あの勇者達が半分も集まってくれているなら構わない。これ以上帰られると私も困るよ。大事な話があるのだからね」



国王様が錬金勇者ハジメを諫め、会議開始の宣言をした。そして真っ先に語られたのが…



「議題は…四天王レオンハルト及び直属の幹部であるデスボルト討伐の件だ」




「シオン、レオンハルト達が村を襲っていた所をお主が討伐したと聞いたぞ。大義であった」



「い、いや…あれは…そ、その…」




「凄いじゃないか!あの四天王を倒すなんて!流石シオンだな!!」




「…それは本当か?四天王を単独で倒すなど信じられん…」



事情を知らないマッスル勇者シュンが手放しに褒め称え、到底信じられないと封印勇者が怪訝な表情をする。



「単独じゃないよ、アミちゃん!実は…むぐっ!」




私は慌ててミサキの口を塞ぐ。もちろんあいつの約束など反故にしてしまっても構わなかったが、後で『お前は約束の一つも守れないのか。…ん?そもそも約束って言葉の意味は分かるか?分からないなら教えてやろうか?おっ、おっ?』とか散々煽り散らされる未来が見えるので私の口からは漏れないようにしておきたい。



「単独ではない!む、村のみんなの尽力があっての勝利だ!そういうことを言いたいのだろう?」



私はミサキに懇願するように目をやる。それはどうにか伝わったようでミサキもそれに合わせて口裏を合わせてくれた。



「…そ、そうだよ!みんなで掴んだ勝利なんだって!」



封印勇者アミは一瞬怪訝な表情をしたが、すぐさま元の冷静な面持ちに戻り、本題を促した。




「国王様、まさか二人の労いのためだけにこの場を設けた訳ではないのでしょう?」




「…あぁ、勇者シオン。引き続きで申し訳ないが、今度は勇者ミサキと共に残党狩りを頼みたい。聞けば今度はレオンハルトの子が新たなボスとして君臨しているらしい」



残党か。あの時薙ぎ払ったので全てだと思っていたが、まだいるのであれば仕方ない。国民の安全のためだ。引き続き私が行くとしよう。



「分かりました。必ずや残党を討伐してみせます」



「頑張ります!」



レオンハルトにはドーピングが無ければ私の攻撃が通らなかったが、そこらの相手であれば問題はないだろう。これで完全に南大陸を魔の手から解放出来る。よし、魔王討伐も順調だな。



「そして此度の南大陸の完全なる奪還が成功したら…再び我々側から仕掛けようと思う」



おぉ、そして遂に攻勢に出るのか!思えば長かったな。かつて二人の勇者を失って以来か。…私も前よりしっかり強くなっている。必ず魔王を討ち倒す!



「どの大陸を攻めるつもりですか?」




「北大陸はデータが無さすぎる。東大陸はとにかく敵の数が多すぎる。攻め込むなら西大陸だろう。おまけに奴らの拠点も既に割れている」



西大陸か。噂によればサキュバスやその僕のオークが大量にいると聞いたが…



「西大陸は四天王の紅一点。姦淫女王が支配していると聞いている。勝算はあるのか?」



アミは相変わらず鋭い分析をするな。日本では厳粛な生徒会長であった上に成績も全国模試1位とのことらしい。



「あるとも。ドラゴン勇者、黒炎勇者、マッスル勇者。そして聖剣勇者。この4人で城を攻め落とせば勝てるだろう。力はこちらの方が圧倒的に上。どんな小細工を弄してこようが純粋なパワーの前では無意味だ」




「分かりました。それであれば私から口を出す事は何もありません」



「詳細はあの二人を呼んでから決めよう。それでは、本日はこれで解散とする!」






「ねぇ、さっき言っていた勇者の話をもっと聞かせてくれない?」



会議が終わった帰り道。ミサキは突如アオイの事について聞いてきた。やれやれ、どうしてお前はあんな煽りカスに興味津々なんだ。



「…聞いてどうする」



「仲間にするの!ちょっと性格はアレかもしれないけど四天王やその幹部達と渡り合える人がいれば絶対魔王にも勝てるよ!」



「ダメだ。あんなイキリ厨二サイコパス男を仲間にするわけにはいかない。私が嫌な理由はあいつの配信を見ていればおおよそ分かるだろう?」




もし私がやつを仲間にすればどんな散々な目に遭わされるかは火を見るより明らかだ。それにミサキも酷い目に遭わされるかもしれない





『おいおい、精霊勇者なんて名乗っておきながらロクな精霊がいねぇな!最下位勇者さんよぉ!』




『うぅ…ぐすっ…ひっぐ…ふぇぇぇ…』






ミサキはただのか弱くて心の優しい真面目な女子高生だ。あんな人を人とも思わないような奴に会わせるわけにはいかない。



「ま、まぁね…他の配信者の『連勝するまで眠れない』とか『負けたら即終了』って配信にスナイプして、連勝記録を止めたり…視聴者参加型の配信で撃破RTAをしたり…あとは勝利よりもPKに固執したり…」



「すまない、言ってることが分からない。スナイプ…?あーるてぃーえー?ぴーけー?頼む。私にも分かるように説明してくれ」



私は家庭の事情でそういった娯楽とは無縁の生活だったんだ。最近になってこのような異世界の言葉を覚えたばかりなんだ。そういったゲームとかの専門用語を並べられては全く分からない。




「とにかく!ゲームを配信している人に片っ端から勝負を挑んで圧倒的に倒したり、レース系のゲームで他の人を蹴落とすことを生きがいにしているって感じ…かな」




「最低のゲス野郎じゃないか!何故そんなやつが勇者になったんだ!」




神々の最大の失敗はドラゴン勇者や恋愛勇者、そしてあの煽り勇者のような人格破綻者にも能力を与え、勇者にしてしまったことだろう。



悲しいことに我々の中には本来の正しい勇者の姿である勇しく、どんな強大な相手であろうが果敢に立ち向かう者。そんな心構えの勇者はほとんどいない。



「何か…理由があるんじゃないかな?」



「そんなものは考えたくもない」



「ま、まぁまぁ…私が言いたいのは…あの人もシオンちゃんが思っているほど悪い人じゃないんじゃないかなって話!」



「…どうだかな。それよりも明日の任務だ。早くライムや兵士達を呼んで南大陸に向かうぞ」



「そうだったね、急がないと南大陸が大変なことになっちゃう!」



たかが残党狩り。この時私はそう考えていた。そして酷く後悔した。多少時間がかかろうとも他の勇者を。ミサキの話通りにアオイを仲間に入れておけばまた何か変わったのではないか…そう思うのだった。

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