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緑の群れを抜ける

 見たことがないデカい奴がいる。


 そんな不穏な報告を聞いた俺は実物を確認するため、ゴブリンたちに見つからないように気を付けながら問題のゴブリンが見える場所まで移動した。


「……さて」


 深呼吸を一つして、瓦礫の脇からそっと顔を覗かせる。

 すると視界の先、エルフの森へと続く入口に大量のゴブリンが群れているのが見えた。


 アラウンドサーチである程度数がいるのはわかっていたが、五十体以上のゴブリンが所狭しと群がっているのは、相手が最弱の魔物とわかっていても恐怖を覚える。


 あれだけの数のゴブリンに一斉に襲い掛かられたら、泰三やシドがいたとしても楽勝とはいかないだろう。


 多くのゴブリンが好き勝手に動くことなく、一か所に固まっているのも異様な光景だった。


 魔物の大群と戦った時もそうだが、ゴブリンは弱い上に頭も悪く、連携して戦うなんて考えはなく、ただひたすら単騎で突撃して死んでいく印象だった。


 そんなゴブリンがおとなしくしているのは、連中の奥にいる一際大きな……通常のゴブリンの三倍はありそうな緑色の巨人が原因だろう。


 最初見た時は巨人の魔物、トロルかと思ったが、トロルより潰れたような顔、長く垂れた耳、そしてゴブリンと同じ緑色の肌を見る限りトロルとは違う魔物だった。


 そんな謎の魔物が三体、まるでゴブリンたちを監視するように目を光らせていた。


「――っ、まさか!?」


 ゴブリンたちを従えている三体の巨大な魔物を見て、俺の中にある疑問が浮かぶ。


「あれってもしかして、ゴブリンの王、ゴブリンキングか?」

「いや、違うな」


 俺の推測を、シドがあっさりと否定する。


「ゴブリンは他の魔物と違って、上位種と言うのは存在しないんだ。だからゴブリンに王が現れることはない」

「じゃ、じゃあ、あのデカいのは何なのさ」

「だからわからんと言っているだろう。ゴブリンの変異種っぽいが、見た目もゴブリンとは少し違うし、何より臭いがな……」

「臭いの?」

「ああ、臭い。それもとびきりな」


 シドは苦虫を嚙み潰したような顔をすると、俺を引き寄せて耳元で囁いてくる。


「それでどうする? 連中をどうにかしない限りは森には入れんぞ」

「そう……だね」


 本当はヴォルフシーカーを使えば、連中に見つかることなく森に入れる。

 そう提案することは可能だが、その方法はシドは絶対に嫌がるだろう。


 ここに来るまでに泰三から聞かされたが、俺がロキによってカナート城に連れて行かれる時、まるで死んでしまったかと錯覚するほど酷い有様だったようだ。


 全く自覚はなかったが、どうやらヴォルフシーカーは思った以上に体への負担が大きいようだ。

 過去にスキルの使い過ぎで極度の空腹に襲われて倒れたことはあったが、その時でも死にそうになることはなかった。


 ソラによると魔力の使い過ぎと似たような症状らしいが、強力なスキルにはそれなりの代償があるのは当然だろう。


 故に、安易にヴォルフシーカーに頼るべきではないというシドの考えはきっと正しい。


 それに変異種とはいえ相手がゴブリンならば、数が多かろうが正面から切り抜けるべきだろう。

 何より背後から迫って来る赤い竜巻に巻き込まれたら、全て終わりなのだ。


「すぅ……はぁ……」


 俺は一度大きく深呼吸をすると、こちらを伺っているシドと泰三に話しかける。


「正面から突破しよう。三体のデカい魔物は接敵することになったらそれぞれで受け持とう」

「いいのか?」


 シドの問いかけは、それはその作戦でいいのか? というより一人で戦うことだという意味合いに気付いた俺は、小さく笑って腰のポーチを叩く。


「大丈夫、俺一人だけ少し休ませてもらったからね。その分は仕事させてもらうよ」

「……わかった」


 ヴォルフシーカーを使うよりはマシだと思ってもらえたのか、シドは俺の胸に拳を軽くぶつけて振り返る。


「言うまでもないが、全員を相手にする必要はない。進路上の邪魔な奴だけを蹴散らして一気に森に入るぞ」

「わかってる」

「お任せください」


 俺と泰三が頷くのを見たシドは、犬歯を剥き出しにして獰猛に笑う。


「よし、行くぞ!」


 シドの気合の掛け声と共に、俺たちは一丸となってゴブリンの群れ目掛けて飛び出していく。




「邪魔だ。どけぇ!」


 一気に駆け出したシドは、駆けながら進路上に落ちていた瓦礫を勢い良く蹴り飛ばす。

 シドに蹴られた瓦礫は空気を切り裂きながら地面と水平に飛び、そのまま一番手前にいたゴブリンの頭を吹き飛ばす。


「グギャッ!?」


 仲間の一人がいきなり倒れたのを見て、ゴブリンたちの視線が一斉にこちらを向く。


「ハッ、遅いぜ!」


 そこへシドがすれ違い様に斧を振るってゴブリンたちの目を潰し、泰三が槍で薙ぎ払って吹き飛ばして進路を確保する。


「やる!」


 華麗な戦いを目にした俺は、二人に続けとポーチから投げナイフを二本取り出して、狼狽えたように視線を彷徨わせる三体のゴブリンに狙いを定めて同時に投げる。

 Vの字に飛んでいったナイフは、二体のゴブリンの喉元へと刺さってあっさりと倒す。


「よしっ!」


 狙い通りゴブリンを瞬殺した俺は、残った中央のゴブリンを倒すために腰のナイフを引き抜いて襲いかかる。


「ギッ、ギギッ!」


 自分が狙われたと気付いたゴブリンが慌てたように武器を構えようとするが、俺の方が早い。


 そう思って振り下ろしたナイフがゴブリンに届くより早く、突如として割って入って来た巨大な影に阻まれる。


「なっ!?」


 驚きに見開く俺の目に、ゴブリンを一回り大きくした緑色の巨人がニチャリ、と汚らしい黄ばんだ歯を見せて笑うのが見えた。

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