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一難去って尚……

「………………えっ?」


 一瞬にして吹き飛んだ城を見て、シドは呆然と立ち尽くす。

 ペンターの最期の言葉から、奴がいつの間にかカナート王城内に潜んでいて、それに気付いた浩一が倒したと思われた。


 それはつまり、あの城には浩一がまだいるということだ。


「嘘……コーイチ?」


 天を貫くほどの巨大な火柱と、爆発に伴う衝撃波が全てを飲み込みながら迫る様子を、シドは息をするのも忘れて見入る。


「嘘……うそうそうそ……だって、あそこにはまだコーイチが…………」

「馬鹿ッ、伏せろ!」


 あらゆるものを破壊し、巻き上げながら迫る衝撃波を前に呆然と立ち尽くすシドを、マリルが体をぶつけるようにして地面に引き倒す。



 シドたちが地面に伏すのと同時に、無数の瓦礫と衝撃波が襲いかかって来る。


「う、うぐうううぅぅ……」

「くうぅ……か、顔を上げるな!」


 浩一がいるはずの城が気になるのか、顔を上げようとするシドをマリルは残っている力を振り絞って必死に抑える。


「今起き上がったところで、私たちにできることは何もないだろ!」

「で、でも、あそこにはコーイチが……」

「わかってる。だけど今は自分の身を守ることを最優先にしてくれ」


 マリルはシドの顔を引き寄せると、目を覗き込んで必死に叫ぶ。


「コーイチ殿が心配なのもわかるが、シド姫が死ねばコーイチ殿が悲しむだろう。お前たちは一緒に生き延びて、幸せになるんじゃなかったのか?」

「しあ……わせ」

「そうだ。私に偉そうに説教したのなら、しっかりと生き延びて幸せになった姿を見せてみろ!」

「……そうだな」

「今何をするべきか理解したか?」

「ああ、とにかく少しでも安全な場所に移動しよう」


 顔中に脂汗を浮かべたマリルの必死の説得を聞いて少し冷静になったシドは、二人で支え合うように衝撃波を防げる遮蔽物へと移動して身を寄せ合う。


「……コーイチは、無事だよな?」

「当然だ。あの方のしぶとさは私よりもシド姫の方が理解しているはずだろう?」

「それは……そうだな」


 今この瞬間もシドは胸が張り裂けそうな気持であったが、浩一が持つ自由騎士の力なら、影の中を移動する力があれば、あの爆発の中を生き抜くことも不可能ではないように思われた。


「コーイチ、お願いだから無事でいてくれ」


 シドは浩一の無事を必死に願いながら、爆風が一刻も早く過ぎ去るのを待ち続けた。




 爆発による衝撃波は程なくして過ぎ去ったが、巻き上げられた大量の土砂による砂煙で、視界は殆ど利かなかった。


 だが、そんなものは恋する乙女には関係がない。


 爆風が過ぎ去って自由に動けるようになると同時に、シドは立ち上がってカナート王城があった場所に向かって走り出す。


「コーイチ! コーイチイイイイイイィィィッ!!」


 自分がここにいることが伝わるように、声の限り浩一の名を叫びながらシドが駆ける。

 浩一が無事なら、声を頼りに会いに来てくれるはず。


「無事なんだろ? お願いだ、声を……声を聞かせてくれ!」


 視界は殆ど利かず、自慢の鼻の調子も焼け焦げた臭いに阻まれて役には立たないが、声が届けば浩一が自由騎士の力を使って見つけてくれるはずだ。


 頭の上の三角形の耳を動かし、浩一の無事を願いながらシドは駆け続けていると、もうもうと立ち込める砂煙の中から手が伸びて来て彼女の手を取る。


「コーイチ?」


 反射的に浩一かと思って喜色を浮かべるシドだったが、


「掴まえたぞ、クソ女ああああああああああああああああぁぁぁl!」

「なっ、お前は!?」


 憤怒の表情で現れた人物を見て、シドは掴まれた手を強引に振り払い、距離を取って睨み返す。


「ハバル、生きてやがったのか?」

「生憎とな……ペンターの奴が死んで、ようやく自由になれたというわけだ」


 そう言ってニヤリと笑うハバル大臣であったが、ペンターに体を乗っ取られていた時の影響か、両手が骨折して不規則に曲がり、シドに振り払われた手の指も変な方向に曲がっていた。


「お前……」

「フッ、笑いたければ笑えばいい」


 歪に歪んだ手足を見て、ハバル大臣は唇を吊り上げて自嘲する。


「見ての通り、こんな様になっても生きている……既に私も化物だということだ」

「だったら主人諸共、一緒にくたばっておけよ!」

「ああ、私もあのまま死んでおけば楽だったが、生きているのなら死力を尽くさせてもらおうと思ってな」

「な、何をするつもりだ……」


 両腕が変形してまともに動かせないので、獣のように四肢で踏ん張って立つハバル大臣を見て、シドは油断なく構える。


「今のお前なら、あたしでも簡単にぶちのめすことはできるぞ」

「そうか、なら……」


 ハバル大臣は地面スレスレまで伏せ、四肢に力を籠めると、


「確かめさせた貰おうか!」


 溜めた力を一気に解放させ、大口を開けてシドへを襲いかかる。


「おわっ!?」


 噛み付きという原始的な攻撃に、面食らったシドは迎撃せずに慌てて逃げに転じる。


「き、汚ぇな!」

「知ったことか。フリージアを喰らう前に、お前を喰らって我が血肉としてくれるわ!」

「な、何だよそれ……」

「知らないのか? 魔物は同族を喰らって力を得るだけでなく、喰らった者の一部を取り込んで欠損部位の修復に当てることもできるのだよ」

「な、何だよそれ。冗談じゃないぞ!」


 尚も大口を開けて迫るハバル大臣を、シドは必死になって捌いていく。

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