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決戦の幕開け

 ハバル大臣が指定した一時間という時間を使い、シドたちはこれまでの連戦の疲れを少しでも取るため、各々のスタイルで休むことにした。


 多くはすぐに戻れる位置で休んでいたが、その中で一部の者は泰三の指摘した通り、フリージアに助けを求めるフリをして城で休んでいた。


 実際のフリージアは他の非戦闘員と一緒に既にエルフの集落に避難しているので、万が一混沌なる者の勢力が逃げる兵士を尾行していたとしても、彼女の居場所が相手に知られることはない。


 場合によってはシドたちが交渉に乗る気がないと知られ、ハバル大臣が途中で攻めてくるかと思ったが、彼はひたすら腕組みしたまま瞑目し続けていた。




 そうして激戦続きで騒がしかったカナート王国に、暫しの静かな時間が流れた後……、


「時間だ」


 時刻を確認できるものを持っていなくとも、きっちり一時間が経ったところでハバル大臣がゆっくり目を開ける。


「さて、お前たちの解答は……聞くまでもないようだな」

「当然だ」


 座った状態から勢いよく立ち上がったシドは、身体を解すように大きく伸びをして獰猛に笑う。


「お前がくれた時間で、こっちはたっぷりと休ませてもらったからな。万全の状態で戦えるぜ」


 自信を覗かせるようにシドが拳を打ち鳴らすと、ハバル大臣を取り囲むように展開していた兵士たちが次々と立ち上がる。


「この場にいる全員がやる気満々のようだぜ……なあ?」

「…………どうするもこうも決まっている。我々に退却の二文字はない」

「こちらもいつでも行けます」


 シドの問いかけに、干し肉を齧っていたマリルと、水分補給をしていた泰三が続く。


 全員の覚悟を確認したシドは、一歩前に出てハバル大臣に話しかける


「というわけだ。あたしたちに回復す猶予を与えたことを後悔させてやるよ」

「フッ、後悔ときたか……」


 強気のシドの言葉に、ハバル大臣は肩を揺らして笑う。


「羽虫如きがいくら策を講じようとも、真の王の前には無力だと思い知るがいい」


 ハバル大臣は組んでいた腕を解くと、右手を突き出して構える。

 その右腕は泰三のディメンションスラストよって完全に破壊されたはずだが、まるで何事もなかったかのように完全に修復されていた。



「……そういえば不意打ちとはいえ、私に手傷を負わせた者がいたな」


 そう言ってハバル大臣は、シドの後ろで長槍を構える泰三へと視線を向けたかと思うとその姿が消える。


「消え……」


 泰三が目を見開くと同時に、彼の前に巨大な影が現れる。

「手始めにお前の腕をもらおうとしよう」

「――っ!?」


 一瞬の内に距離を詰めて来たハバル大臣に、泰三は驚きながらも体を後ろに投げだすようにして倒れる。


 次の瞬間、泰三がいた場所に暴風が駆け抜け、彼の後ろにあったまだ無事の家屋の壁が発生した衝撃波で吹き飛ぶ。

 家屋への被害は出たものの、倒れた泰三は槍を抱えたまま転がるようにしてハバル大臣から距離を取る。


「ほう、今のを避けるか」


 距離を取って再び長槍を構える泰三の反射神経に、ハバル大臣は感心したように息を吐く。


 すると、


「おい、余所見をしてんじゃねぇよ!」

「我々を無視するとはいい度胸だ!」


 無視されたことに怒り心頭のシドとマリルが、背後からハバル大臣へと襲いかかる。


 シドはマリルから借りた剣を、マリルはオークキングが持っていた斧を無防備な背中に向けて容赦なく振り下ろす。

 完全な死角からの攻撃に回避は不可能かと思われたが、ハバル大臣は後ろを振り向くことなくシドたちの攻撃を大きく跳んで回避してみせる。


「何だと!?」

「マリル、上だ!」


 渾身の一撃を回避されて思わず動きを止めるマリルに、シドが鋭い叫び声を上げる。


「もたもたするな! 頭を下げろ!」

「あ、ああっ!」


 シドの声に反射的にマリルが前方へと身を投げると同時に、首があった場所に一陣の風が吹き、彼女が被っていた黄金の兜が弾け飛ぶ。


「チッ、外したか」


 舌打ちをしたハバル大臣は、空中でくるりと身を捻る。

 すると、細長い先端にふさ毛のついたライオンの尻尾が黄金の兜を捉え、空中で真っ二つにしてみせる。


「……マジかよ」


 ただの尻尾で黄金の兜を真っ二つにしてみせるという離れ業に、シドはハバル大臣から十分に距離を取ってから流れてきた汗を拭う。


「尻尾まで凶器とか、どんだけ凶悪な体をしているんだよ」


 ハバル大臣が着地すると同時に、彼を包囲するように展開していた獣人の戦士たちが次々と襲いかかる。


「お前たちでは圧倒的に実力不足だ」


 しかし、獣人の戦士たちの猛攻を、ハバル大臣は殆ど回避することなく、尻尾と僅かな挙動だけで回避し、弾き、迎撃していく。


 だが、この戦いに参加しているのは全員がカナート王国でも屈指の戦士たちで、ハバル大臣に有効打を与えることはできずにはいたが、人数が減ることは敗北であることを誰もが理解しているので、決して無理はせずに致命傷を負うような真似はしない。


「助かった。礼を言う」


 仲間たちの善戦ぶりを見ながら、綺麗というよりは凛々しい素顔を晒したマリルは、額から流れてきた血を乱暴に拭って再び斧を構える。


「確かに尻尾は脅威だが……やれるか?」

「当然だ。むしろそこに攻略の糸口があるくらいだ」


 シドは少し離れた位置に着地したハバル大臣を見て、犬歯を剥き出しにして睨む。


「次に奴が尻尾で攻撃したらあたしが隙を作る。そこをマリル、そしてタイゾーの二人で思いっきりかましてやれ!」

「わ、わかりました」

「任せろ」


 泰三たちが頷くのを見たシドは、


「いくぞ、あの野郎に吠え面をかかせてやろうぜ!」


 剣を肩に担ぐと、ハバル大臣と舞うように戦っている獣人の戦士たちの中へと突撃していった。

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