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始まりの終わり

 城を飛び出した泰三が街へと向かうと、多くの兵士たちが並んで立っていた。


 誰もが疲労の色が見えるほど消耗していたが、その目は真っ直ぐ街を眺め続ける。


「皆さん……」


 一体何が? と泰三が兵士たちの様子を伺っていると、彼の目に兵士たちをまとめるシドとマリルの姿が映る。


 疲れた様子の他の兵士とは違い、背筋を伸ばして緊迫した様子で立っているシドたちに近付いた泰三はおそるおそる話しかける。


「シドさん、マリルさん……」

「ああ、タイゾーか……ってお前っ!?」

「うわっ!?」


 シドに怒り顔でいきなり詰め寄られ、泰三は顔を赤面させながら仰け反る。


「な、何でしょうか?」

「お前、ちゃんと休んでいたのか? メシ食ったのか?」

「あっ、そ、それはですね……」

「休んでいないんだな?」

「す、すみません……皆が苦しんでいる中で、休みのが気が引けてしまって」

「……ったくよ」


 肩を落とす泰三に、シドはガリガリと頭を掻いて彼の背後を指差す。


「お前は真面目過ぎるんだよ。少しはコーイチを見習えよな」

「えっ?」


 そう言われて泰三が振り向くと、


「わふっ?」


 いつの間にかロキが立っており「何?」と小首を傾げる。



「ロキ? 浩一君はどこ……って、あっ?」


 そこで泰三は、ロキの背中に浩一がしがみついていることに気付く。


 だが、ロキの背中にしがみついている浩一は、泰三の声に何の反応も示さない。

 その理由は単純明快だった。


「……寝てる」


 黒い毛皮の向こうから僅かに覗く浩一の両眼はしっかりと閉じられており、ロキが一歩歩く度に背中が大きく揺れても微動だにすることなく、離れていても穏やかな寝息が聞こえてくるくらい熟睡していた。


 どうして寝ている浩一がロキの背中から落ちないのだろうと、泰三が不思議に思っていると、シドが隣にやって来て呆れたように嘆息する。


「あれくらい何が起きても動じないようになれとは言わないが、コーイチは寝ることに関しては天才的だぞ」

「た、確かに……」

「といっても、今はそこまでしてでも休んでもらわないと困るんだけどな」


 シドはロキへと近付いて背中で寝ている浩一の頬を優しく撫でる。


「……よかった。少しだけどさっきよりマシになってる」


 浩一の血色がよくなっていることを確認したシドは、ロキに「頼んだぞ」と言って送り出す。


「わん」


 ロキは「任せて」と元気よく応えると、寝ている浩一が背中から落ちないように静かに歩いて城の中へと入って行った。



「……悪いな」


 ロキを見送ったシドは、話の腰を途中で折ってしまったことを謝りながら泰三に話しかける。


「休息は不足してるかもしれないが、ここからはタイゾーにも働いてもらうぞ」

「それは構いませんが……浩一君、大丈夫なんですか?」

「わからん。だが、タイゾー。これはお前にも起こりうることだから……」


 シドは神妙な表情になると、泰三の目を真っ直ぐ見る。


「自由騎士の力を使うなとは言わない。だが、加減を見誤ることだけはするなよ。これはお前のためでもあるが、お前を大切に思ってる人……クラベリナのためでもある」

「隊長の?」

「そうだ。あの変態と結ばれたいと思うなら、自由騎士の力だけに頼るなよ」

「……ええ、わかってます」


 自由騎士の力を使い過ぎることの危険性を体験したことはない泰三であったが、ノルン城で見た名も知らない兄弟と、今しがた見た浩一の様子からも、決して他人事ではないと思った。


「自由騎士の力に頼っていては、いつまでも隊長に認めてもらえませんから。可能な限り自力で戦っていきますよ」

「そうしろ」

「はい、頑張ります」


 シドは微笑を浮かべて頷くのを見て、泰三もまた頷き返す。



 話が一段落ついたところで、泰三は気になっていたことをシドに話す。


「ところで戦況はどうなったのですか? どうして街が再び燃えているんですか?」


 可燃性の鱗粉を撒き散らす魔物たちが現れた時、火矢を放って積極的に誘爆を行うことで連中に大打撃を与える作戦を取ったが、今見えている炎は、その時とは比べものにならないほど大きかった。


「あれではまるで、街全体が燃えているように見えるんですが……」

「まるでじゃなくて、街全体を燃やしているんだよ」


 狼狽える泰三に、シドがマリルの方を見ながら話す。


「あいつ等、最初から街を捨てる選択肢を用意してたんだよ」

「で、でも、魔物は……特に一部の大きな魔物は火に包まれても倒せないんじゃ……」

「それが最後に現れた魔物が火に弱かったんだよ。そしたらあいつ等、躊躇なく自分たちの街に油を撒いて火を点けたのさ」

「そんな……」


 自ら進んで家を焼いたと聞いて、泰三は獣人たちの覚悟に愕然となる。


 街を燃やしてしまっては、この戦いに勝ったとしてもその後は寝床は疎か、今日食べる食事や水にも困ることになってしまう。


 協力体制を敷くことになったエルフから何かしらの援助はあるだろうが、それでも強い思い入れのある我が家を失う選択肢を、躊躇なく取ることをできるだろうかと泰三は思う。


「勝つために、そこまでするなんて……」

「当然だ」


 泰三たちの下へへマリルがやって来て、街の方を見ている兵士たちを見て話す。


「街は失っても、象徴たる城が……そこに住む我々が生きていれば何とかなる。だから何よりも優先すべきは、一人でも多く生き残る戦いをすることだ」

「なるほど……」


 兜の奥のマリルの目を見た泰三は、思わずせり上がって来た唾をゴクリと飲み込み、大きく息を吐く。


「街は残念でしたが、炎に弱い魔物が最後なら、一先ず魔物のラッシュは打ち止めですかね」

「ああ、魔物はな」


 シドは肩を竦めると、立ち昇る炎の先を睨むように双眸を細める。


「だけど、その奥にいる奴は、やる気満々のようだぜ」

「えっ……うわっ!?」


 シドの言葉に呼応するように何処からともなく突風が吹き抜け、泰三は身を守るように顔を覆う。


 風が駆け抜けたのは一瞬だったが、


「…………えっ?」


 反射的に閉じていた目を開けた泰三は、思わず間抜けな声を上げる。


「火が……消えてる?」


 今しがた煌々と燃え上がり、空を焼き尽くす勢いだった炎と煙が嘘のように消え、まるで何事もなかったかのように青空が広がっていた。


「ど、どうして……」

「驚いている場合じゃないぞ」


 空ばかり見ている泰三に、シドから鋭い声が飛ぶ。


「いよいよ本命様の登場だぞ」

「本命……」


 泰三が視線を空から下へと落とすと、焼け落ちた瓦礫の向こうに仁王立ちする人影が見えた。

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