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脳筋、二人

「……えっ?」


 突如として現れたシドとマリルに、泰三は呆然とした様子で立ち尽くすが、すぐさま状況を思い出して慌てる。


「ど、どうしてお二人がここに? それに今は……」


 大量の魔物が吐き出した鱗粉が爆発して、熱と爆風が吹き荒れているはずだ。

 そう思って立ち上がろうとすると、シドが片足を上げてシッ、シッ、と泰三を追い払うような仕草をする。


「ああ、わかってるなら、ちょっと黙ってろ」

「シド姫、気を抜くな……」

「わかってるよ! とにかくもう少しで終わるからタイゾーはおとなしくしてろ!」

「は、はい、すみません……」


 シドとマリルは縦にも横にも彼女たちの背丈の倍以上がある壁を背負っており、それを二枚、爆発に対して斜めになるように構えることで泰三を守り、爆風に耐えているようだった。


(まさかこんな方法で爆発を防ぐなんて……)


 シドたちにしかできないような力技での防御を目の当たりにした泰三は、彼女たちに感謝しながら爆発が終わるのをおとなしく待ち続けた。



 程なくして爆風は治まったのか、シドは背負っていた壁を横に放り投げ、凝り固まった肩を解すようにグルグル回す。


「やれやれ、どうにかなったな」

「いきなりシド姫が民家の壁を壊した時は気が狂ったかと思ったけどな」

「ヘッ、言ってろ。まあ、ちゃんと付いてきたマリルも中々だぜ」


 二人は互いを労うように拳をぶつけ合うと、シドがおとなしく待っていた泰三に向かって笑いかける。


「というわけだタイゾー。あのバケモノはあたしたちが相手するから、お前は下がって休んでろ」

「えっ? で、ですが……」

「ですがじゃねぇだろ!」


 抗議の声を上げようとする泰三に、シドは無遠慮に近付いて腕を捻り上げる。


「あだだだ……」

「何言ってんだ。もう筋肉が疲労でボロボロじゃないか。まだ本命が残っているんだから無理するな」

「…………わかりました」


 まだ本命が残っている。その言葉の意味がわからないはずもない泰三は、しかと頷いてシドたちを見て頭を下げる。


「それでは少し下がらせていただきます。お二人共、どうかご武運を」

「ああ、後方にはコーイチも休んでるから、何かないように見張ってくれると助かる」

「浩一君も?」

「ああ、当分起きてこないと思うが、間違っても影の中に入る力を使わせないでくれ」

「わ、わかりました」


 シドの表情から何かを察した泰三は、しかと頷いて後方へと下がっていった。



「さて……と!」


 泰三の姿が見えなくなったところで、シドは爆発を防いだ壁を踏みつけて少し砕くと、破片を拾って死に体同然となっているゴブリン目掛けて放る。


 空気を切り裂いて飛んだ石の破片はゴブリンの頭部に命中し、血を撒き散らしながら爆散する。


「デカいのを倒す前に、ある程度の露払いをしないとな」

「賛成だ」


 もう一つ破片を拾って今度はオークの首を吹き飛ばしているシドとは対照的に、マリルは壁そのものを固まっているゴブリンたちに向かって放る。


 瓦礫は放物線を描いて飛び、複数のゴブリンを巻き込みながら轟音を上げて破砕する。


「こうしちまえば、中に虫がいようがいまいが関係ないな」

「……お前も大概だな」

「フフフ、お互い様だ」

「全くだ」


 考えるよりも体が先に動く脳筋同志、互いに通じ合ったシドとマリルは、全身に火傷を負って死に体となった魔物たちに襲いかかる。


 シドたちは爆発の影響で壊れかけた家へと張り付き、瓦礫を投擲し、壁を壊し、家そのものを崩して次々に下敷きにしていく。

 その戦い方はスマートな戦い方とは程遠い、蛮族と揶揄されるような荒々しい戦い方ではあったが、シドたちは街を破壊しながら多大な戦果を挙げていく。


「ブモオオオォォ! ブモオオオオオオオオオオオオオオォォォォン!!」


 好き勝手に暴れ回るシドたちに対し、オークキングは手にした斧を振り回して指示を飛ばしていたが、爆発で全身に火傷を負っている魔物たちに声が届いていないのか、そもそも応える余裕がないのか、まともに動くことなく次々と圧殺されていく。


 ものの数分で周囲は瓦礫の山と化したが、泰三を包囲するために集まった魔物たちは全ていなくなっていた。



「……まあ、こんなものだろう」


 躊躇なく破壊の限りを尽くして魔物を討伐したシドは、怒りを露わにして地団駄を踏んでいるオークキングを見てニヤリと笑う。


「見てみろよ。あいつ、自分の作戦が失敗していっちょ前に悔しがってるぜ」

「言ってやるな。我々を倒そうと動こうとしていたのに、知能が足りなくて碌な命令ができなかった愚鈍だ」

「違いない。所詮、王になっても知能はオークってことだな」

「ククク……言ってやるなよ。自分が最強と思ってる王様に失礼だろ」

「ククッ、最強って……ククク……」


 自分たちで言って面白かったのか、シドとマリルは揃って肩を震わせながら笑い出す。




「ブモッ!?」


 戦場でいきなり笑い出す二人の女性を見て、オークキングが思うことは一つだった。


 あいつ等は自分を馬鹿にした。


 王を冠する者として、自分より下位の存在に笑われることは我慢ならなかった。


「ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォッ!!」


 オークキングは聞けば驚き、すくみあがるような咆哮を轟かせると、斧を振り回しながらシドたちに向かって突撃していく。


 王を侮辱することなど許されない。

 その罪は万死をもって償わせる。


 自分の実力に絶対的な自信を持っているオークキングは、尚も笑い続けているシドたちを断罪するべく猛然と突撃を仕掛ける。


「ブモオオオオオオオオオオオオオオォォォォン!!」


 オークキングは気合の雄叫びを上げながら斧を全力で振り下ろす。


 防御などできるはずもなく、当たれば必殺、回避されても石畳に叩きつけた勢いで生じる礫によって相手を行動不能にできる。



 そう信じて振り下ろされた斧であったが、


「舐めるな!」


 マリルは愛用の剣を構えると、オークキングが振り下ろした斧を真正面から受け止める。

 直後、激しい火花を散らしながら二つの武器が交錯するが、マリルの愛用の剣は折れることなくオークキングの斧を止めてみせる。


「ブモッ!?」


 そんな馬鹿な、と信じられないものを見るようにオークキングを目を見開く。


 だが、そんな致命的な隙が許されるわけがなかった。


「くせぇ息を吐き掛けるんじゃねえよ!」


 マリルとスイッチするように入れ替わったシドが、愕然とするオークキングの鼻っ面目掛けて、半分に折れたショートソードを思いっきり振り抜いた。

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