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一筋縄ではいかない相手

「お前たち、後退だ!」


 虫人に挟撃される立場となったマリルの判断は早かった。


「後ろの奴を全員で袋叩きにするぞ!」


 後方に現れた虫人は今のところ二体、全員で圧をかけて一気に駆け抜ければ、一先ず包囲網を脱することができるとマリルは考えていた。


「仕掛けを発動しろ! 今すぐだ!」


 マリルが声を張り上げると、両脇の家の屋根の上に積まれていた家財道具たちが次々と降り注いでくる。


 巨大な家具や大きな樽が破砕音を立てながら道を塞ぐのを見ながら、マリルは相対していた虫人たちに背を向ける。



「行くぞ、私に続け!」


 後方へと退避しながら集団の先頭に立ったマリルは、愛用の剣を手に追加で現れた虫人に正面から襲いかかる。


「邪魔だ!」


 マリルが体重を乗せて両手持ちした剣を向かって振り下ろすと、手前にいた虫人は四本の腕をクロスさせて受け止める。

 地面に虫人の体が僅かに地面に埋まるほどの衝撃であったが、異形の魔物はどうにか耐えきることに成功する。


 だが、攻撃を受け止められることもマリルの作戦の内であった。


「お前たち、やれ!」


 マリルが声をかけると同時に、左右から二人の獣人が音もなく現れ、虫人のがら空きになった脇腹の隙間から槍を突き入れる。


「ギシャアアアアアァァッ!」


 左右からクロスするように突き出された槍は、中に寄生している虫を捉えたのか、虫人は二つの顎を大きく上げて苦しそうに悶える。


「おっと、汚ぇゲロを吐くんじゃねぇよ」


 足を振り上げて虫人の顎を蹴り上げたマリルは、すぐさま二体目の虫人へと目を向ける。



「そっちの奴は倒す必要はない。道だけ作るんだ!」


 マリルの言葉に従い、大盾を持った二人の戦士が虫人に体当たりする。

 背後にあった建物を破壊しながら押し込んでできた道を、マリルたちは止まることなく駆け抜けていく。


「よし、このまま城まで退避して他の連中と合流するぞ」


 退路を確保したので、後は目的地まで全力で駆け抜ける。



 そう思ったのだが、


「うわああぁぁ!」


 すぐ近くから悲鳴と共に部下の一人が倒れるのを見たマリルは、他の者たちを先に送りながら振り返る。


「どうした。何があった!?」

「マ、マリル様、それが……」


 倒れた部下へと目を向けるマリルに、困惑した表情の獣人の戦士が話す。


「そ、その、こいつが俺の足を掴んで……」

「何だと?」


 その言葉に従って部下の足元へと目を向けると、虫人に倒されたと思った仲間が彼の足を掴んでいるのが見えた。


「まさか……」


 倒されたと思った仲間が生きていたのか?

 そう判断したマリルは、仲間を助けるために足を掴む獣人の戦士へと駆け寄る。


 だが、


「ギシャアアアアアァァ!」


 マリルが駆け寄ろうとすると、足を掴んでいた獣人の戦士が限界まで口を開き、人とは思えない不気味な叫び声を上げる。


「な、何だと!?」


 思わぬ不意打ちに、マリルの反応が僅かに遅れる。


 その隙に、倒れていた獣人の戦士が大口を開けてマリルへと噛み付こうとすが、


「させるかよっ!」


 黒い影が空から降って来て、マリルに襲いかかろうとしていた獣人の戦士が地面に叩きつけられる。

 ゴキリ、と骨を砕くような音が響いて獣人の戦士が動かなくなると、彼の上に乗っていた人影が立ち上がってニヤリと笑う。


「近衛の団長ともあろう人が、仲間の異変に気を取られるとはらしくないぞ」

「……シド姫」


 泰三と別れてマリルたちに合流するために動いていたシドの登場に、すぐさま気を取り直した近衛騎士団長は軽く頭を下げて礼を言う。


「すまない、助かった……」

「ああ、話はあとだ」


 シドは手でマリルを制すと、既に逃げている獣人の戦士たちを指差す。


「とにかく今は逃げる方が先決だ。あんたが逃げないと、あっちで盾で身を挺してる奴も逃げられないだろ」

「あ、ああ、そうだな」


 マリルは頷くと、無事だった部下を起こして再び駆け出した。



 シドと合流して再び退却し始めたマリルは、隣に並んだ彼女に気になっていることを尋ねる。


「シド姫、あなたの(つがい)はどうした? まさか、さっきの爆発で死んだとかないよな?」

「ああん? ふざけるな。そ、そそ、それにコーイチとはまだ結婚はしてないって、まだな!」

「……冗談を言ってる場合か」


 怒ってるのか、照れているのかよくわからないシドの声に、マリルは頭痛を堪えるように兜の上から手を当てながらやれやれとかぶりを振る。


「確かに地下遺跡の方にも襲撃はあったようだが、大量の敵が現れたら一人と一匹で太刀打ちできるのか?」

「安心しろ。コーイチなら必ず切り抜ける。そして、今にもこっちに現れるはずだ」

「……信用しているのだな」

「当然だ。あ、あたしのお……大切な人だからな」


 浩一との関係に言及するのに照れながらも、シドは確信めいた様子で話す。


「それに、コーイチなら奴等を簡単に倒せる方法を持ってきてくれるはずだ」

「……ほう、そいつは楽しみだ」


 楽観的なシドの答えを聞いたマリルは、自分だけは現実を見て冷静に判断しようと考え、背後を振り返って仕掛けを突破してきた虫人たちを見て表情を歪める。


「あのバケモノ共を楽に倒せる方法があるなら、一刻も早く知りたいものだ」


 そんなことを呟くと同時に、自分たちを追いかけていた二体の虫人たちの背後に影が走ったかと思うと、バタバタと倒れる。


「な、何!?」


 一体何事かと目を見開くマリルの目に、影の中から人影と巨大な狼が出てくるのが見えた。

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